「疎外感」の精神病理 第4回

引きこもりと疎外感

和田秀樹

ひきこもりと疎外感

 このような自己評価の低さ、自分に自信がもてないこともひきこもりの病理の大きな背景となっているのですが、これに加えて「どうせ、私は誰にも相手にされていない」という疎外感がひきこもりの病理をさらに重いものにしていると私は考えています。

 ダイバーシティなどといわれて、欠点や障害があっても社会と共存できるという流れが日本でも提起されて久しいのですが、現実問題としては、たとえば障碍者雇用の道は険しいものがあります。日本には82校も大学医学部があるわけですが、面接を巧妙に利用して彼らを落とすことで、医学部のキャンパスにはほとんど障碍者が見られなくなりました。

 欠陥があると受け入れてもらえないという思い込みが人々にある以上、ひきこもらざるを得ないという側面がひきこもりの問題にはありそうです。

 少子化の問題が重要視されて久しいのですが、実は結婚を15~19年続けているカップルには平均2人の子どもが生まれている状態が長年続いています。少子化の最大の原因は非婚、晩婚化なのです。

 2020年の男性の生涯未婚率は25.7%にのぼっています。1985年に3.9%だったものが35年で6倍以上に増えたということです。

 もちろん、選択的に独身を選ぶ人もいるのでしょう。しかし日本の場合、パートナーを食べさせていけない、子どもにお金をかけられないという経済理由が非常に多いということが各種アンケート調査などで明らかになっています。

 家族を食べさせる甲斐性がないから独身でいるということですから、まさに自己評価も低くなり疎外感も覚えるでしょう。

 彼らの多くは働いていると思いますが、ひきこもりの人たちと同じような「どうせ誰も相手にしてくれない」という疎外感の心理では共通しているのかもしれません。

 生活保護バッシングやテレビやSNSの弱者いじめとしか思えないような報じ方や意見表明は、自分に自信を持てない人には、とても息苦しい空気を醸しだします。

 そして人生100年時代と言いながら、働いていない高齢者を白眼視する風潮も強まりつつあります。実際、年金の受給開始年齢もどんどん引き上げられています。

 社会のレールに乗っていても、そこからはずれてしまうとひきこもり生活に陥ってしまうこのメカニズムを変えていかないと、中高年以降にひきこもりに陥る人は増え続けるでしょうし、高齢者のひきこもりという新たな問題を生むように思えてなりません。

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「疎外感」の精神病理

コロナ孤独、つながり願望、スクールカースト、引きこもり、8050問題……「疎外感」が原因で生じる、さまざまな日本の病理を論じる!

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プロフィール

和田秀樹

1960年大阪府生まれ。和田秀樹こころと体のクリニック院長。1985年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現職。主な著書に『受験学力』『70歳が老化の分かれ道』『80歳の壁』『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』『70歳からの老けない生き方』『40歳から一気に老化する人、しない人』など多数。

 

 

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