ウルトラマン不滅の10大決戦 完全解説 第9回

ウルトラマンの心情と父性があふれ出る優しい一戦

古谷敏×やくみつる

不滅の10大決戦 第3位

亡霊怪獣 シーボーズ

身長/40m 体重3万t

【バトル・プレイバック】

 土煙の中、颯爽と登場のウルトラマン。シーボーズとの間を詰め、天龍源一郎ばりの逆水平チョップを食らわす。間髪入れず力道山ばりの袈裟切りチョップを打ち込もうとしたが、シーボーズのショルダータックルで後方に吹っ飛ばされる。しかし、向かってくるシーボーズにウルトラマンは古賀稔彦ばりの一本背負いを見せる。その後、画面はウルトラマンのドロップキック、巴投げなど、シーボーズとの激しい攻防を静止画のフラッシュバックで演出。

 ウルトラマンの怒涛の攻撃によりヘロヘロのシーボーズ。その間隙を突きシーボーズを頭上高く持ち上げたウルトラマンは、そのまま宇宙墓場に帰そうとして飛び立つが……途中で力尽き落下。ここで第1ラウンド終了。

 運命の第2ラウンドはシーボーズをロケットにくくりつけ、怪獣墓場に帰す作戦。ウルトラマンがシーボーズをロケットに連れて行こうとするが、振りほどき逆方向へ歩き出す。そこでウルトラマンは背中を押すようになだめたり、投げ飛ばしたりして言うことを聞かせようとするが、効果ナシ。動物病院で予防注射を受けさせようとする飼い主に抵抗して逃げ惑う犬のようなやり取りが続く。「どうしたもんか……」とお手上げのウルトラマン。それでもチョップの構えなどで威嚇し、なんとかシーボーズをロケットにしがみつけることに成功。発射直前にウルトラマンは飛び立ち、遅れてロケットも無事発射。すったもんだしながらも、両者は怪獣墓場へ――。

 

ホシノ では、やくさん、シーボーズ戦を栄光の第3位に選んだ理由を教えてください。

やく ストーリー的にも戦いにおいても、異色なんですよ、この35話目の『怪獣墓場』は。まず、攻防のシーンについてですが、観ればわかるとおりにフラッシュバックで構成されています。この演出は実に興味深いですし、面白い。もし、静止画を駆使せず、他の回と同様に戦いの流れを見せていたら、なにかこう……残虐性だけが強く前面に出た作品になったと思うんですね。

古谷 ええ、攻防のシーンを静止画にしたのは大正解でした。だってシーボーズは何も悪さをしていないんですから(笑)。不運にも怪獣墓場から地球に落ちてきただけですし。そもそもウルトラマンと戦う気もない。ただ宇宙に帰りたかっただけ。それなのにウルトラマンが激しくシーボーズを攻め続けたら、違和感しか残りません。その違和感を解消するために実相寺昭雄監督は静止画を取り入れたのでしょう。

ウルトラマンとシーボーズの一戦の大半は美しくも迫力ある25枚の静止画によって構成。実相寺昭雄監督の演出が光る

やく 次にストーリー展開。いわゆる想定外の構成です。普通は『怪獣墓場』のような回顧をテーマにした作品というのは、番組が1年以上続かないと制作しづらいものなのに、35話目で実現させています。この定石を踏まない攻めた発想の転換もシーボーズ戦を第3位に押し上げた要因のひとつになっています。つまり、怪獣を攻めて倒す――というスタンス、オーソドックスな流れを踏まずに、むしろ怪獣を安らかなに場所に導く――といった発想の転換をウルトラマンに表現させている――この点が実に異色であり、『怪獣墓場』の世界観を際立たせていますね。怪獣との激しい攻防から離れ、怪獣の安寧を願う――その大きなふり幅に、ただただ脱帽します。

古谷 当時の脚本家、金城哲夫さんをはじめ、山田正弘さん、上原正三さん、佐々木守さん、他の作家のみなさんも才能溢れた書き手でしたよね。それぞれに自ら信じるウルトラマン像を秘めていて、毎回力いっぱい書き上げてくれましたよね。

ホシノ 第5位のジラース戦で、あのブルース・リーが「戦った相手に敬意を払う子供番組が存在することに驚いた」というエピソードを紹介しましたけど、怪獣を弔う回が制作されたことも日本の特撮作品ならではだと思います。

古谷 ああ、そうかもしれない。

ウルトラマンはシーボーズを持ち上げ、空へ飛び立ったが、エネルギー切れで地上に落下。そこで再度、シーボーズをロケットまで連れて行こうと後ろから押しているシーン。

ホシノ マーベル作品を筆頭に、いわゆるひとつのアメコミのヒーロー映画で敵を弔うような、それこそやくさんが指摘した、敵を安らかな場所に導くといった発想を題材にした作品は少ないですもんね。

やく そういう意識がアメリカ人には薄いのかもしれません。アメリカ人の魂ともいえる西部劇を観ていても、その発想を見つけづらいですし。

ホシノ 例えば、一連の『バットマン』シリーズでは、敵を弔う前に自分を弔っちゃったりする。そういう意味でも、やくさん、やはり異色ですね、このシーボーズ戦って。

やく だと思います。異色だからこそ、作品に深みが増していると言えますけども。それと、もうひとつ、シーボーズ戦を第3位に押し上げた重要なポイントがあります。

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プロフィール

古谷敏×やくみつる

 

古谷敏(ふるや さとし)
1943年、東京生まれ。俳優。1966年に『ウルトラQ』のケムール人に抜擢され、そのスタイルが評判を呼びウルトラマンのスーツアクターに。1967年には「顔の見れる役」として『ウルトラセブン』でウルトラ警備隊のアマギ隊員を好演。その後、株式会社ビンプロモーションを設立し、イベント運営に携わる。著書に『ウルトラマンになった男』(小学館)がある。

 

やくみつる(やくみつる)
1959年、東京生まれ。漫画家、好角家、日本昆虫協会副会長、珍品コレクターであり漢字博士。テレビのクイズ番組の回答者、ワイドショーのコメンテーターやエッセイストとしても活躍中。4コマ漫画の大家とも呼ばれ、その作品数の膨大さは本人も確認できず。「ユーキャン新語・流行語大賞」選考委員。小学生の頃にテレビで見て以来の筋金入りのウルトラマンファン。

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