宇都宮直子 スケートを語る 第17回

ストックホルムと羽生結弦の話

宇都宮直子

 2021年のフィギュアスケート世界選手権は、3月22日に始まる。開催地はスウェーデンの首都ストックホルムで、28日までの予定だ。

 数年前までなら、ただ楽しみにしていればよかった。だけど、今は違う。多くの人が心配している。

「開催して、大丈夫なのだろうか」

 2019-2020シーズンの世界選手権は、カナダ、モントリオールで開催されるはずだったが、直前で中止になった。新型コロナウイルスの感染拡大が理由である。

 では、昨シーズンと比較し、今シーズンの状況は改善されていると言えるだろうか。

 ワクチン接種が始まったとは言え、世界的に見て状況は落ち着いてはない。むしろ「大流行中」なのではないか。

 さまざまに試練を乗り越えてきた選手たちが、試合を待ち望むのはよく理解する。士気が高まって、当然だ。

 世界選手権が予定通り開催されるのなら、選手を精一杯応援する。力を存分に発揮できれば、結果はついてくるだろう。大いに期待している。

 ただ、それ以上に、今回はとにかく、何が何でも、健やかであってほしいと願う。選手は感染してはならないし、させてはいけないのだ。

 ストックホルムでの大会は、外界と切り離した「バブル」方式で開催されるらしいが、それが万全の備えであるのかどうか。二重三重の確認をすべきだ。

 周知の通り、スウェーデンでは都市閉鎖が行われなかった。集団免疫の取得を目的としたが、結果は芳しくなかった。ストックホルムでも、多くの感染者を出している。

  日本スケート連盟には、渡航、滞在に関して徹底した態勢の構築、確認を改めて強く望みたい。

 経験は、2022年の中国、北京オリンピックに必ず生かされる。ここは踏ん張りどころである。

 さて、心配はここまでだ。出場選手へエールを贈る。エッセイだから「大きな声」で、思いっきりだ。

  羽生結弦、宇野昌磨、鍵山優真、紀平梨花、坂本花織、宮原知子、小松原美里・小松原尊組、三浦璃来・木原龍一組、頑張れ。

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宇都宮直子 スケートを語る

ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。

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プロフィール

宇都宮直子
ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』『三國連太郎、彷徨う魂へ』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また2022年12月には『アイスダンスを踊る』(ともに集英社新書)を刊行。
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