百田尚樹をぜんぶ読む 第7回

実存主義者としての百田尚樹

藤田直哉×杉田俊介
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【藤田】しかしそこはさらにもう一段階あって、合理性が必ずしも絶対的だともされません。たとえば『ボックス!』には主人公が二人います。一人は優等生で合理的に努力を積み重ねるタイプ。もう一人は生まれ付きのロマン主義的な天才。そのどちらがより成功するか、という対決の物語になっています。 

 彼ら二人の勝負では、結局のところ、ボクシングの試合としては、合理的に計算して努力を積み重ねた方が勝つわけですね。しかし最終的には、本当に伝説になって後世に名前を残すのは、ロマン主義的な天才の方なんですよ。だからそこにはかなり葛藤があるように思えます。

 ノンフィクションの『リング』でも、アメリカ式の合理的なトレーニングがいいのか悪いのか、という問いがあります。それはアメリカ社会の合理主義や民主主義などの価値観の是非とも関わっています。

zaimasukoike / PIXTA(ピクスタ)

【杉田】戦闘機としては、日本のゼロ戦よりもアメリカのグラマン社の戦闘機の方を百田は評価しています。いずれにせよ、アメリカ的な合理主義に対する憧れと批判、という両義的な感情がありそうですね。

【藤田】保守思想家としての百田は、GHQが戦後の日本人を洗脳した諸悪の根源だ、というアメリカ批判をしますけれど、小説の中ではそれとはかなり違うアメリカへの態度がありますよね。『海賊とよばれた男』もそうですが、アメリカの日本への影響のすべてが悪しきものである、とは必ずしも描いていません。

 

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 第6回
百田尚樹をぜんぶ読む

ベストセラー作家にして敏腕放送作家。そして「保守」論客。作品が、発言が、そしてその存在が、これ程までメディアを賑わせた人物がかつて存在しただろうか。「憂国の士」と担ぎ上げる者、排外主義者として蛇蝎の如く嫌う者、そして大多数の「何となく」その存在に触れた人々……。百田尚樹とは、何者か。しかしながら、その重要な手がかりであるはずの著作が論じられる機会、いわば「批評」される機会は思いのほか稀であった。気鋭の批評家、文芸評論家が全作品を徹底的に論じる。

関連書籍

非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か

プロフィール

藤田直哉×杉田俊介

 

藤田直哉
1983年生まれ。批評家。日本映画大学専任講師。東京工業大学社会理工学研究科価値システム専攻修了。博士(学術)。著書に『娯楽としての炎上』(南雲堂)、『虚構内存在:筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉』、『シン・ゴジラ論』(いずれも作品社)、『新世紀ゾンビ論』(筑摩書房)などがある。朝日新聞で「ネット方面見聞録」連載中。文化と、科学と、インターネットと、政治とをクロスさせた論評が持ち味。

 

杉田俊介
1975年生まれ。批評家。自らのフリーター経験をもとに『フリーターにとって「自由」とは何か』(人文書院)を刊行するなど、ロスジェネ論壇に関わった。20代後半より10年ほど障害者支援に従事。著書に『非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か』(集英社新書)、『無能力批評』(大月書店)、『長渕剛論』『宇多田ヒカル論』(いずれも毎日新聞出版)、『ジョジョ論』『戦争と虚構』(いずれも作品社)、『安彦良和の戦争と平和』(中公新書ラクレ)など。

 
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実存主義者としての百田尚樹