特設エッセイ『羽生結弦は助走をしない』~羽生結弦を語り足りない~ 第13回

羽生結弦が歴史を刻んだ「平昌のショートプログラム」を振り返ってみた

高山真
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Clip to Evernote

●スタートのひと漕ぎのあと、左足のフォアインサイドから、一瞬のターンでバックアウトサイドにエッジが変わる。このターンをブラケットと呼びますが、このなめらかさと、バックアウトに変わってからの、糸を引くような迷いのないトレースが素晴らしい。

  2015-16年シーズンと同じ曲を使っているのですが、そのシーズンと比べても進化・深化は明らか。バックアウトに変わってからのポジションの保持の時間が、1拍分のびていて、その分距離も出ています。

 

●最初のジャンプのための助走にあたる漕ぎは、三蹴りほど。その時点で、すでに曲の音符と足さばきがピッタリ一致している。

 助走に続くコネクティングステップは、リンクの短辺部分を往復するほどたっぷりとっている。

 エッジを動かすことで成り立つステップに対してはピアノの短い音、エッジを動かさないからこそ成立するイーグルに対しては長めに伸びる音を合わせている。

 単に「曲のイメージ」だけではなく「音符やリズム」にまで厳密にエッジワークを合わせているわけです。これが、「この曲を選んだ必然性」や「この曲で滑る意味」を、非常にクリアに主張していると思います。

 

●4回転のサルコーを着氷し、そのスムーズなトレースの延長線上に、パーフェクトにフリーレッグを置いていき、アウトサイドのイーグル。そしてエッジを替えて、インサイドのイーグルへと移行する。ここまでが、4回転ジャンプのトランジションになっている。

 インサイドのイーグルにおける、背中のアーチも素晴らしい。

 チェンジエッジしていくイーグル、チェンジエッジしてからのほうがスピードが上がるようなイーグルを、4回転ジャンプの着氷後のトランジションとして入れるのは、褒め言葉として使いますが、異常なレベルです。

 

●バタフライからフライングキャメルスピン。着氷の瞬間の柔らかなひざのクッション。体が氷とほとんど平行になるくらいに跳んでいて、それを片足で受け止めているとは信じられないほどの、エアリー感。着氷の瞬間のフリーレッグの揺れが、格段に少なくなったのを感じます。

 また、デリケートな着氷の瞬間と、ピアノのデリケートな高音が、ピタッとはまっていることの気持ちよさ!

 加えて、回転の速度にも私は注目しました。どうしてもゆるみがちになるはずのポジションの移行時と、ドーナツスピンという難しいポジションに変更したあとも、ピアノの音のタイミングとシンクロしています。回転ごとに頭が同じ位置を通るタイミングと、バックに流れるピアノの音の同調性を確認してみてください。そのことがはっきり感じられると思います。

 

●バックエントランス(背中側から入っていく)のウィンドミルをトランジションにした、足替えのシットスピン。これも、ピアノの音と回転のタイミングのシンクロが見事。

 特に、足替えをして、フリーレッグを軸足の間に巻き込むようなポジションへと変化した後に、私はいつも驚きます。このポジションになってもなおスピードは落ちず、ピアノの音とシンクロをしているのですが、途中でアームの動きにさまざまなバリエーションを入れても、やはりスピードが落ちないのも特筆すべきでしょう。

次ページ  エッジワークが伝える羽生の主張
1 2 3 4
 第12回
第14回 
特設エッセイ『羽生結弦は助走をしない』~羽生結弦を語り足りない~

長年フィギュアを見続けてきた生粋のスケートファンである高山真が、 超絶マニアックな視点で語る『羽生結弦は助走をしない』(2018年1月17日発売)。まだまだ羽生のスケーティングを、そして日本フィギュアを語り尽くします!

関連書籍

羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界

プロフィール

高山真
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。
 
集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル

プラスをSNSでも

Twitter, Youtube

羽生結弦が歴史を刻んだ「平昌のショートプログラム」を振り返ってみた