特設エッセイ『羽生結弦は助走をしない』~羽生結弦を語り足りない~ 第16回

『羽生結弦は助走をしない』著者・高山真が振り返る、羽生結弦の平昌五輪フリーの「奇跡」

高山真
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●2つめの4回転トウ。ステップアウトはしたものの、転倒ではなく我慢しました。「とにかく、こらえた」と、拍手するばかりだったことを今でもはっきり思い出せます。

 

●次のジャンプの要素である、トリプルアクセルからのコンビネーション。

 2つめの4回転トウは、本来「4回転トウ~ハーフループ~トリプルサルコー」という構成ではなかったか、と、私は現地の練習風景のニュースを見て推測していました。それが成功した場合、「トリプルアクセル~ダブルトウ」のコンビネーションにする予定だったはずです。

 ここで羽生は、「ダブルトウ」ではなく、4回転トウにつけられなかった「ハーフループ~トリプルサルコー」をアクセルのあとにいれる、という決断を瞬時にしたはずです。このわずかな時間(しかもオリンピックの大舞台)でリカバリーの判断をする冷静さ。ただただ驚くばかりです。

 しかもこのトリプルアクセルのジャンプ前のトランジションは、「アウトサイドのイーグルからインサイドのイナバウアーにシームレスにエッジを変えていく」動きから、「ただちに時計回りのターンを入れて、反時計回りに跳ぶ羽生のジャンプの回転の勢いを削ってしまう」という動きをつなげている。そこまでにしてから、ようやく足を踏み替えて跳ぶのです。

 単体でのトリプルアクセルですら、ここまで濃密なトランジションを入れて跳ぶ選手は羽生結弦以外にいないと断言できます。そんな単体ですら信じられないほど難しいトリプルアクセルの跳び方に続けて、本来の予定ではなかった、はるかに難しいジャンプの組み合わせを成功させてみせる……。羽生の、トリプルアクセルに対する絶対的な自信(それを証明するかのような強さ)を感じると同時に、

「4回転のルッツはもちろんループまで外す決断をするほどのギリギリのコンディションだった自分を受け入れたこと」

「そんな状態の中でも『少しでも基礎点を上げたい』という思いから、絶対的な自信を持つトリプルアクセルを1本に絞るという決断をしたこと」

 この2つの思いを感じて、私はこの時点で涙腺がゆるみはじめてしまいました。

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 第15回
特設エッセイ『羽生結弦は助走をしない』~羽生結弦を語り足りない~

長年フィギュアを見続けてきた生粋のスケートファンである高山真が、 超絶マニアックな視点で語る『羽生結弦は助走をしない』(2018年1月17日発売)。まだまだ羽生のスケーティングを、そして日本フィギュアを語り尽くします!

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プロフィール

高山真
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。
 
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『羽生結弦は助走をしない』著者・高山真が振り返る、羽生結弦の平昌五輪フリーの「奇跡」

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