特設エッセイ『羽生結弦は助走をしない』~羽生結弦を語り足りない~ 第17回

「息絶える白鳥」ではなく「生きていく白鳥」として……羽生結弦の24時間テレビ『ノッテ・ステラータ』から受け取ったもの

高山真
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 そして、ここからの文章には、まずお断りを入れさせてください。フィギュアスケートに限ったことではありませんが、私は基本的にものを書くときは、

「自分なりの視点にこだわりつつも、自分が見た通りに書く」

 ことを守るようにしています。出典の怪しい伝聞を頼りにしない、自分の想像の域を出ないことを事実のように書くことはしない……、それが最低限の礼儀かな、と思っています。ですので、いまから書くことはあくまでも「私の想像にすぎない」ことを明記しておきます。

 バレエの『瀕死の白鳥』と羽生結弦の『ノッテ・ステラータ』のもっとも大きな違いは、私は「ラストのポーズ」ではないかと感じています。

『瀕死の白鳥』のラストは、白鳥が息絶える瞬間で終わります。翼をたたむようにして、美しい首や顔を地面に横たえるようにして、息絶える白鳥……。それは確かに壮絶なほどの美しさですが、羽生結弦が『ノッテ・ステラータ』のラストで見せる美しさとは、やはり違うように感じられるのです。

『ノッテ・ステラータ』のラストを、やはり白鳥になぞらえるなら、「生きていく白鳥」だと私は思っています。翼はたたまれているというよりは、むしろ広がっています。明日に、未来に飛び立てるように。そして、なおも高みを目指すように上を向いたその顔には、希望の色が差している。

「手を伸ばす先にはきっと明るいものがある。そう信じることから、何かが始まる……」

 あのラストから、私はそんなメッセージを発する白鳥の姿を感じるのです。

 震災の当事者でありながら、被災者を常にバックアップしようと努力を続けている羽生結弦が、その思いを演技に込めるための、希望のラスト……。

 先ほども言ったように、これはあくまでも私の想像にすぎません。しかし、こうした思いを、私以上にダイレクトに受け取っていらっしゃるのは、24時間テレビの『ノッテ・ステラータ』を間近でご覧になって、涙をぬぐっていらした福島の被災者の方々かもしれないなあ、とも思うのです。

 

 去年のいまごろ、私は肝臓がんの具合がかなり悪く、「遺言状を書いておいたほうがいいかも」と覚悟したときもありました。担当医のおかげで手術がかなりうまくいき、まだしばらくはこちらに残る見通しが立ったいま、「自分にできることは何か」にもっとしっかり向き合わなくては、との思いを強くしています。仕事に対しても、心を許せる友人たちに対しても、そして、非情で強大な自然や運命に押し流されそうになりながらも、懸命にその足で立っている方々へも。

 そんな思いに向き合うきっかけをくれる存在のひとりが、「私が好きなスポーツに打ち込んでいる、自分よりはるかに年若い選手」であること。それもまたとても恵まれていると感じています。

 フィギュアスケートは秋から本格的なシーズンが到来します。選手たちが見せてくれるものを、私は私の見方・やり方で受け取らなくてはいけない。仕事に限らず、生きていくうえで

「まだまだ自分には、やりたいこと、できることがある」

 と思えること自体、とても幸せなことですから。

 

 

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特設エッセイ『羽生結弦は助走をしない』~羽生結弦を語り足りない~

長年フィギュアを見続けてきた生粋のスケートファンである高山真が、 超絶マニアックな視点で語る『羽生結弦は助走をしない』(2018年1月17日発売)。まだまだ羽生のスケーティングを、そして日本フィギュアを語り尽くします!

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プロフィール

高山真
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。
 
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