特設エッセイ『羽生結弦は助走をしない』~羽生結弦を語り足りない~ 第18回

新プログラムで「原点」に立ち返る羽生結弦の「これまで」にあらためて思いを馳せる…

高山真
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 羽生結弦の新プログラムが8月31日に発表されました。

 ショートプログラムで使用する曲は『Otonal』、そしてフリーは『Origin』。ショートプログラムはジョニー・ウィアーの2004~05年シーズンのフリーと同じ曲、フリーはエフゲニー・プルシェンコの伝説的な名演技『ニジンスキーに捧ぐ』をアレンジしたものだそうです。ウィアーもプルシェンコも、羽生結弦のメンターともいえる存在です。

  私にとって『Otonal』といいますと……、まずは女子シングルのマリア・ブティルスカヤ。彼女が1999年の世界選手権で優勝したときのフリー(Maria Butyrskaya 1999 Worlds FS)で会場を熱狂に巻き込んだのがいまだに印象に残っています。「マチュア(成熟した)スケーティング」の、ひとつの完成形を見せてもらった思いでした。

 あと、女子シングルでは古い順から、エレーナ・リアシェンコの2004年のヨーロッパ選手権のショートプログラム(Elena Liashenko 2004 Euro SP)、武田奈也の2007年全日本選手権フリー(2007 Nationals FS)、村主章枝の2008年の全日本選手権のフリー(2008 Nationals FS)も私にとっては忘れがたい演技でした。

 そして、羽生結弦がこの曲を選んだ直接的な動機になった、男子シングルのジョニー・ウィアー。2004年のNHK杯フリー(Johnny Weir 2004 NHK Trophy FS)は、試合会場で観られたことが本当に幸運でした。

 帰宅してチェックした番組の中でも解説の五十嵐文男さんがおっしゃっていましたが、着氷後にスピードが上がるような見事なジャンプを軸に、4分半の演技全体がひとつの流れの中で実施されていました。

 ルッツジャンプに行く前の、「バックエッジで滑りながら、片足を体の前でキャッチし、美しく上げていく」動きに、オクサナ・バイウルがリレハンメル五輪のショートプログラムで披露した、伝説の黒鳥(Oksana Baiul 1994 Olympics SP)のスパイラルシークエンスを思い出したのは私だけではないと思います。

 このムーブだけでなく、どの瞬間を切り取っても、隙間なく美しい。ラストのストレートラインステップの最後のところでほんの少しバランスを崩したようにも見えましたが、個人的にはまったくといっていいほど気にならなかった。「エレガンスの密度が高い」という言葉が自然に浮かんだのは、私はジョニー・ウィアーの前シーズンの全米選手権のフリー(2004 Nationals FS)の『ドクトル・ジバゴ』を観たときですが、この『Otonal』を観て、その思いがさらに強くなったのは言うまでもありません。

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特設エッセイ『羽生結弦は助走をしない』~羽生結弦を語り足りない~

長年フィギュアを見続けてきた生粋のスケートファンである高山真が、 超絶マニアックな視点で語る『羽生結弦は助走をしない』(2018年1月17日発売)。まだまだ羽生のスケーティングを、そして日本フィギュアを語り尽くします!

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プロフィール

高山真
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。
 
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