特設エッセイ『羽生結弦は助走をしない』~羽生結弦を語り足りない~ 第18回

新プログラムで「原点」に立ち返る羽生結弦の「これまで」にあらためて思いを馳せる…

高山真
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 この選曲、特に『Origin』について、羽生結弦が語ったことが新聞各紙で報じられていました。「原点」とか「起源」といった意味を持つ『Origin』を選んだ理由として、

「今までは期待に応えなくてはいけない、結果をとらなくてはいけないというプレッシャーがすごくあったのが、今外れていて。これからは、本当に自分のために滑っていいのかなと」

「勝つとか負けるとか、そういったものに、固執する、しすぎる必要はないのかなというふうに思った」

 というコメントをスポーツ報知で読み、羽生結弦というスケーターが背負ってきたものを思い、背すじが伸びるような気持ちになりました。

「羽生結弦という人は、五輪連覇という大偉業まで成し遂げて、ようやくこの言葉を口にすることができたのか」

 と。

 この連載のひとつ前の回(第17回)にて、震災の当事者である羽生結弦が、震災の復興のために長期にわたり献身的な活動を続けていることを書きました。羽生本人の言葉を借りれば、「勝ち負けに固執」していたのは、

「勝つことが被災者の方々の力になると、骨の髄まで感じていたからではないか」

 と私は思っています。

 私はけっこうたらたらと生きてきた人間ですので、自分以外の人からの期待はもちろんのこと、自分自身からの期待でさえ持て余すことがよくありました。そんな私にとって、羽生が背負ってきたものの重さ、それほど重いものを「背負う」と覚悟した、その覚悟の重さは、想像することすら難しい。ただ、想像できない者なりに、最大限のリスペクトは抱いていたいなあと思っています。同時に、そのリスペクトを、可能ならばすべてのスケーターに抱いていたい……。そんな気持ちをあらたに確認できような気がします。

 羽生結弦の演技だけでなく、これから本格的に始まるシーズンでスケーターたちが見せてくれるものを、どのような感受性で受け取れる自分でいられるか。それもまた楽しみです。しっかり見て、書きたい。そんなスケーターがたくさんいること。それは私にとって本当に大きな幸せのひとつです。

 

追記

 読者の方から、デニス・テンについての文章を読みたいとメールをいただきました。その方にもお返事いたしましたが、実を申しますと、書いては消し、また書いては消し……を繰り返しています。

 私は、先に旅立った人が自分にとって大きな存在であればあるほど、その人のことを書くのに時間がかかってしまいます。37歳のときにパートナーを突然死で失いましたが、その人のことを(別名義で)書くのに結局3年かかってしまったこともあります。

 本来ならば「デニス・テンさん」と書かなくてはいけないのでしょうが、「亡くなった方には敬称をつける」というルールもまだ受け入れられないほど混乱した状態です。ただ、どんな形であれ、近いうちにお読みいただきたい、あの素晴らしいスケーターへの思いをみなさんと共有したい……と思っています。

 なにとぞご理解のほどお願いいたします。

 

 

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第19回 
特設エッセイ『羽生結弦は助走をしない』~羽生結弦を語り足りない~

長年フィギュアを見続けてきた生粋のスケートファンである高山真が、 超絶マニアックな視点で語る『羽生結弦は助走をしない』(2018年1月17日発売)。まだまだ羽生のスケーティングを、そして日本フィギュアを語り尽くします!

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プロフィール

高山真
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。
 
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