「それから」の大阪 第11回

緊急事態宣言明けの西成をゆく、ちんどん行列

スズキナオ

「まちまわり」と「舞台」が活動の二本柱

現在のちんどん通信社の活動には大きく分けて二つの種類がある。一つはちんどん屋と聞いて多くの人がイメージするであろう、路上での宣伝活動である。たとえば新しい居酒屋がオープンする際、その店頭や店の周辺を練り歩きながら演奏し、ビラを配り、口上によって新しい店ができたことを伝える。同じスタイルでスーパーのセール情報を知らせて歩くこともあれば、メーカーの新商品をPRすることもある。選挙への投票啓発を依頼されることもあるという。こういった活動は「まちまわり」と総称される。

もう一つが舞台でのパフォーマンスである。ステージ上で演奏をし、歌を歌い、踊りを踊ってショー空間を作り上げる。イベントやパーティー会場の盛り上げ役として招かれて行うパフォーマンスもこれに入る。この他にも講演会や「ちんどん教室」の開催など、活動は多岐にわたるが、「まちまわり」と「舞台」が二本柱である。どちらもそれぞれに異なる面白さがあると聞き、その両方を見せていただくことにした。

まずは、天王寺・あべのハルカス近鉄内にある「スペース9」というイベントスペースで毎月開催されている「ちんどん演芸館」という舞台を見にいくことに。「ちんどん演芸館」は、2020年から同じスペースで続けられてきたちんどん通信社主催の舞台だが、緊急事態宣言の発令に伴って数ヶ月間中止になっていた。それが2021年6月になって久々に再開できるようになったのだという。

あべのハルカス近鉄で行われている舞台「ちんどん演芸館」(2021年6月撮影)

観客数をかなり限定し、席と席の間隔をあけての開催だったが、場内には再開を心待ちにしていたらしい常連客の姿も多く、歌手の青木美香子さんをゲストに迎えての演奏や林幸治郎さんによるちんどんの歴史や文化についてのトークをみな楽しんでいる様子だった。

次に見学させてもらったのが大阪市西成区萩之茶屋のパチンコ店「日大会館」の宣伝活動だ。「日大会館」はこの周辺のシンボルとなっているラッパーのSHINGO★西成の看板のすぐ近く、まさに西成エリアの中心地にある創業60年以上の老舗だ。ちんどん通信社はこの日大会館の宣伝活動を15年近くに渡ってほぼ毎月行ってきたという。

右手が「日大会館」。左上にあるのが西成のシンボルSHINGO★西成看板(2021年6月撮影)

低料金で長く遊べる店として愛されている「日大会館」(2021年6月撮影)

日大会館の開店時間である10時の1時間前、9時から宣伝を開始し、店頭をスタートして周辺をゆっくりと歩き、また店頭へ戻る。そのようにしてトータル3時間ほど宣伝を行うのが通例だという。この日のちんどん部隊のメンバーはトランペットより少し小さいコルネットを演奏する林幸治郎さん、ちんどん太鼓と口上係の内野真さん、広告の付属したティッシュを配る係の坂田治子さんという3名から成っていた。

今日の「まちまわり」はこの3人で行う(2021年6月撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9時になって店頭での演奏がスタートした。太鼓と鉦がセットになったちんどん太鼓とコルネットだけで構成される演奏とは思えないほどに華やかで表情豊かな響きに聞こえる。そしてその演奏に「パチンコの日大会館、本日10時オープンです!」といった内野さんの威勢のいい口上が乗る。そのようにしてしばらく店頭で演奏した後、一行はいよいよ町を歩き出す。邪魔にならぬよう、私も後ろからついていかせてもらう。

自然に町に溶け込むような演奏に聞こえた(2021年6月撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紀州街道を西成警察署方面へ歩き、大通りに出たところで西へ折れる。西成労働福祉センターの建物の手前でもう一度折れ、再び元の萩ノ茶屋方面へと向かう。全長1.5kmもない距離だが、これをおよそ1時間かけて歩きながら、パチンコ店がオープンする10時にはちょうど店頭に戻るように調整しているのだという。

人が集まる場所ではしばし歩みを止めて演奏する(2021年6月撮影)

陽気な人たちがふいにちんどんに混ざって来たりもする(2021年6月撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

林さんが演奏するのは、谷村新司の『昴』、千賀かほるの『真夜中のギター』、桑田佳祐が中村雅俊に提供した『恋人も濡れる街角』といった懐かしの名曲の数々。膨大なレパートリーの中から、町の雰囲気やそこで暮らす人々の年齢層などを考慮しながらその場その場で選曲していくそうだ。道行く人からリクエストを受けることもしばしばだとか。取材時も「三田明の曲やって!」と声をかけられ、その要望に即座に対応していた。

また、賑やかな場所では少し音量を大きくし、逆に静かな通りでは控えめにするなど、状況に合わせて絶えず演奏を変化させていくとのことだった。歩いている途中、ふと演奏が止んだと思ったら別のパチンコ店の前を通るところだったりして、そういった心配りも含め、町の様子を繊細に把握し、柔軟に対応していく技術に驚かされる。平面的な視野だけでなく、マンションのベランダから演奏を聴いている人のことまでも意識しているという。

10時になっていよいよパチンコ店がオープンすると、来場客を『軍艦マーチ』の演奏で景気よく送り出す。そしてまた、近くの商店街へ向かって歩き出す。

取材をした6月21日は緊急事態宣言が開けて酒類の提供が解禁される日で、酒場も賑やかだった(2021年6月撮影)

地下鉄花園町近くの「鶴見橋商店街」をゆくちんどん通信社の一行(2021年6月撮影)

同行していて印象的だったのは、ちんどん屋に気さくに近づいてくる人、話しかけてくる人の数の多さである。ニコニコと手を振って送り出してくれる通行人もたくさんいた。その様子を見ていて、私は林さんが「ちんどん演芸館」の舞台上で話していたことを思い出した。それはビラ配りについての話だった。ちんどん屋は演奏や口上、姿、振る舞いを通じて、ただのビラをビラ以上の物に見せなければならない。ちんどん屋が縁起のいいものとして人々の目に映ることによって、一枚のビラは、たとえば神社のお札のようなありがたいものにも見えるのだと。

その話を思い出して改めて三人の姿を見ていると、なるほど、商店街を福の神がパレードして歩いているようにも感じられてくるのであった。配っているのは何の変哲もないティッシュなのだが、みんなが笑顔でそれをもらいに来る理由がわかる気がした。

後日、改めて林幸治郎さんにゆっくりとお話を伺った。2時間以上におよぶインタビューの中で、林さんは、自分とちんどんとの出会いや、40年におよぶ芸歴の中で出会った懐かしき人々についてなど、たくさんの話を聞かせてくれた。どの話も面白く、ここで紹介し切れないのがもどかしいが、大阪の町に関する話が特に印象的だったので、書き残しておきたい。

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「それから」の大阪

2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。

プロフィール

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

 
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