対談

「意味」をつくる仕事とは何か【第1回】

対談 佐藤可士和×山口周
佐藤可士和×山口周

今、日本中が悶々としている理由

佐藤 それこそが慶應SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)で僕が行っている、「未踏領域のデザイン戦略」という授業なんです。この授業では「平和」や「幸せ」のように、テーマの抽象度を思い切り上げています。ビッグデータはもちろん、何をデータとして捉えていけば良いかもわからない中で、これらのテーマにどう向き合うか。そういう困難なことこそが、大学で取り組むべきことじゃないかと、授業の発案者である慶應SFCの村井純先生(慶應義塾大学環境情報学部教授)と一緒に考えたのです。

山口 この授業は僕も受けたかったな。

佐藤 僕自身も未経験のテーマばかりですので、実は毎回めちゃくちゃ緊張しています(笑)。ただ、学生と一緒になって考えていると、学生時代にこういう思考訓練と向き合うことの重要性を痛感しますね。

 僕は大学時代にパンクバンドを組んで作曲したりギターを弾いたり、絵を描いたり、オブジェをつくったりと、興味のおもむくまま、いろいろな作品制作をやっていたんです。その中で、「アートとは何か」「デザインとは何か」という問いに、ずっととらわれていた。アートにしてもデザインにしても、先達の業績が累々とある中で、今、僕がつくって何の意味があるのかと、そういう根源的な問いに直面して、毎日悶々としていたんです。

山口 その言葉を借りると、今、日本中が悶々としていると思うんですよ。何のために働くの、とか、この授業は何のためになるの、とか。経済的に成熟して、日本は今、悶々国家になってしまったと思うんですね。

佐藤 確かに。

山口 たとえば新製品を開発する時に、「意味がある、ない」という横軸と、「役に立つ、立たない」という二軸図でマッピングするとします。日本のメーカーは「役に立つ」という軸をすごく意識するのですが、「意味がある」というところは空白なんです。今の世の中、役に立つものは飽和状態です。ですから「意味」を追求すべきなのに、いまだに「役に立つ」軸を必死に上げようとしている。その結果、ボタンがたくさんついているエアコンだったりテレビだったりができて、「これ、誰が欲しているの?」になってしまうわけです。

佐藤 欧米のグローバルなメーカーは完全に「意味」の方に焦点をあてて、機能も逆に絞り込んでいますよね。その意味で「デザイン」とは、いかに捨てるか、ということの別名なのですが。

山口 おっしゃる通りです。当事者が自分たちの営みに対して、その意義を整理できないでいる。いろいろな枝葉を捨てられず、悶々とし、迷走に陥っている。だから、そこをスパンと切り分けて、鮮やかなコンセプトを幹として打ち立てることが、貴重なスキルとして求められているわけです。捨てること以上に、今は「意味を与える」こと自体が、非常に高い経済的価値を生み出すようにもなっています。流動する世の中で、今も昔もいちばん価格が高いものって、アート作品ですよね。あれはまさに「役に立たない」という意味があるものの代表ですよね。

佐藤 役に立たないけれど意味がある、その究極がアート作品だ、という山口さんの整理に、僕は今、すごく納得しました。僕の仕事に引き付けていうと、ブランディングとは存在意義をどうつくるか、ということですので、会社なり製品なりが存在している「意味」を見つけることになります。その「意味付け」を、経営者の方と一緒に必死で探ってきた実感がありますね。

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プロフィール

佐藤可士和×山口周

佐藤可士和(さとう・かしわ)

クリエイティブディレクター。「SAMURAI」代表。1965年東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、博報堂を経て2000年に独立。慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。多摩美術大学客員教授。ベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)など著書多数。2019年4月に集英社新書より、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(慶應SFC)における人気授業をまとめた『世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略』を上梓。

 

山口周(やまぐち・しゅう)

戦略コンサルタント。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。同大学院文学研究科修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーンフェリーなどを経て、現在はフリーランス。著書に『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『世界の「エリート」はなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『劣化するオッサン社会の処方箋』『仕事選びのアートとサイエンス 不確実な時代の天職探し』(以上、光文社新書)など。

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