著者インタビュー

全世代に広がる、今・ここにある危機

『貧困クライシス』著者インタビュー
藤田孝典

実は、本書第5章「貧困ニッポンを生きる」で紹介されているように、貧困に陥ったときのセーフティーネットとして生活保護などの社会保障制度がある。しかし、多くの人は制度があることは知っていてもアクセスの仕方を知らないし、いざ貧困に陥ってからでは制度の仕組みを学ぶ余裕などなくなってしまう。さらには生活保護バッシングもあって、その利用に心理的な障碍もある。藤田氏は以下のように分析する。

アメリカ・日本・韓国は自己責任社会なんです。経済合理性で人間の価値を決めるような社会では、貧困状態にある人たちは怠けているから価値がないと判断されやすいですね」

怠け者と思われたくない一心で、社会保障制度の利用をためらっているうちに、自分ではどうにもできない事態に立ち至ってしまう深刻な事例は多い。

今の日本社会は年功賃金で安定雇用というパイ自体が減ってきていますから、個人でどれだけ努力をしても苦しい生活を強いられる人は必ず一定数はいます。貧困問題とは社会の仕組みから生まれる構造的な問題なので、もう自助努力で解決するのは無理なんですよ。社会保障を充実させ、誰でも使える制度に切り替えていく他ありません」

社会保障を充実させるべきポイントとして藤田氏があげるのは、医療・介護・教育・住宅・保育である。

この5本柱は、少なくとも無償か無料に近い形で、すべての人にいきわたるように整備すべきです。この5本柱が無償になっていれば、貧困問題はほとんど無くなります」

どうしたら日本は貧困のない社会に近付けるのか。

「各人が自助自立ありきでなく、困ったら助けを求めていい、という方向へマインドを切り替えるべきです。人と助けあう、人と分かち合うことが社会をよりよくしていく。だから社会保障が用意されているわけです。社会保障が弱い国ほど行き詰まっていますから、そろそろ発想を転換するべきだと思いますけどね」

明快な語り口で現代の貧困問題を分析して対策を提示、しかも有益な情報が盛り込まれており、困ったときの杖ともなる、実に重宝な一冊である。

 

文責:広坂朋信

※季刊誌「kotoba」28号に掲載の著者インタビューを一部修正の上、転載しています。
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プロフィール

藤田孝典

ソーシャルワーカー。1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事。社会福祉士。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了。聖学院大学客員准教授(公的扶助論)。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。著書に『下流老人』『続・下流老人』(共に朝日新聞出版)、『貧困世代』(講談社)、『ひとりも殺させない』(堀之内出版)など。

 

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