著者インタビュー

いま小倉千加子が考えていること

7年ぶりの新刊発売! フェミニズム、保育問題、そして林遣都……
小倉千加子

人物評を書くということ

──フェミニストといえば、小倉先生も共著がある社会学者の上野千鶴子さんが、東大でのスピーチをきっかけに、今またブームとなっています。

小倉 上野さんはブームが周期的にきますよね。

──その上野さんも含めて、冒頭で中島梓さんやちあきなおみさん、佐野洋子さんなど、他のエッセイよりも文字数が多い人物評が10人分、収録されています。本書の中でも特に印象的な章でした。

小倉 人物評は書いていて面白いので、つい長くなってしまうんです。週刊誌の連載ですから、1回の文字数は決まっているけれど、とても終わらない。担当編集者も特に「早くこの人の分は終わらせてください」と言わなかったので、「あれ、続けて良さそうだ」と、どんどん長くなりました。

 全員に共通するのは「すごい人」という点。中島梓(栗本薫)さんは膨大な作品を残しているので、すべてを読破できていませんが、亡くなってから改めて読んで感心し、さらに生活歴を知って、強い関心を持ちました。私の知り合いでもあった佐野洋子さんと共通するのは、母娘関係に葛藤を抱えていた点です。亡くなった時点で書いた人に関しては、故人を悼む気持ちから「すごい人」であったことに思いを馳せ、彼女ら、彼らを忘れないために書きました。

──ところで、話をガラッと変えますが、小倉先生はお笑いやドラマ、それから相撲もお好きでしたよね。エンタメから社会を見るのも先生の特徴だと思っています。本書でも明石家さんまさんに言及した部分など、とても面白かったです。今、注目している人は誰ですか。

小倉 芸人なら、「霜降り明星」の粗品。お笑いは悲劇の影がなければ、良いものにならないと思っています。彼には暗さと悲しみがあるのがいい。暗さや悲しみがなければ優れたお笑いなんて作れませんよ。そのうえ、彼は頭がいいでしょう。ギャンブラーだし、マザコンだし、面白い存在じゃないですか。霜降り明星が出ているネタ番組を観るときは、彼らが出るのを今か今かと待ちながら観ています。

 俳優なら断然、林遣都。林遣都はなんといってもかわいいし、お芝居もとても上手でしょう? 彼は若手俳優の中で一番人気じゃないですか? 『おっさんずラブ』でも林遣都はすごく良かった。それなのに、素顔がミステリアスでよくわからない。もし、この連載が続いていたら、彼について書きたかったですが、なにしろ材料が少ないんですよ。比叡山高校出身で写経がうまい、とかその程度の情報しかない。だから、書こうとしても苦労したでしょうね。

──先生の林遣都に対する熱量の高さにちょっと驚きました(笑)。

小倉 そうですか? 私は普通の人間。世間で一番人気の林遣都が好きなんですよ。林遣都が人気の理由がよくわかる人間なんです。

──小倉先生に「自分は普通」とおっしゃられると、やや困惑してしまいますが、先生のエンタメセンサーの高さは健在、と確認させていただけたので、この質問を最後にして良かったです。今日はお忙しいなか、ありがとうございました!

 

誰も予想していなかった世界的パンデミックをきっかけに、これからの近未来は近過去と異なる生き方、考え方を選択する人が増えるだろう。未曽有の事態のなか、この社会が、この世界が、あいもかわらず“ろくでもない”ことにいらだつニュースもあれば、人間はやはり捨てたものではない、と気持ちが前向きになるエピソードも耳にする日々だ。小倉さんのエッセイを読みながら、自分は何を大切にするのか。何を精神の糧に生きるのか。自分に問いかけてみてほしい。

インタビュー・構成=中沢明子    写真=須田卓馬

 

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プロフィール

小倉千加子

おぐら・ちかこ

1952年、大阪府生まれ。心理学者。保育士。早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士過程修了。大阪成蹊女子短期大学、愛知淑徳大学文化創造学部教授を経て、執筆・講演活動に入る。長年にわたり、本業のジェンダー・セクシャリティ論からテレビドラマ、日本の晩婚化・少子化現象まで、幅広く分析を続けてきた。現在は認定こども園を運営し、幼稚園と保育所の連携に関心を深めている。著書に『醤油と薔薇の日々』『シュレーティンガーの猫』(いそっぷ社)、『増補版・松田聖子論』『結婚の条件』(朝日文庫)、『オンナらしさ入門(笑)』(理論社 よりみちパン!セ)など多数。

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