現代思想を通して見えてくる未来予想図

『答えのない世界に立ち向かう哲学講座』著者インタビュー
岡本裕一朗

ビジネスパーソン向けの講座の記録をもとに編まれた本書『答えのない世界に立ち向かう哲学講座』(早川書房)は、ベストセラー『いま世界の哲学者が考えていること』(ダイヤモンド社)で現代思想の見取り図を明快に描き出した著者が、激変する現代の課題を考えるヒントを示した一冊だ。

本書のもととなった哲学講座に集まったのは、先端分野のエンジニアや若手起業家から大手企業の役員まで、多士済々ながらも社会の第一線で活躍する40名のビジネスパーソンたち。具体性の高い社会問題を多く扱っており、教養講座や大学の講義とは違った実践的な議論が魅力だ。著者・岡本裕一朗氏は次のように語る。

「哲学に期待されるものが変わってきたように感じます。かつての哲学のイメージは『青年期の自分探し』でしたが、今は『この社会はどういう方向に動いているのか』に関心が集まるようになりました。特に第一線で活躍しているビジネスパーソンは、現代が大きな時代の流れの転換期にあることを肌で感じているのではないでしょうか。時代の大きな動きに乗り遅れてはこの先立ち行かない、というある種の危機感もあるように思います。

技術にしろ、ビジネスにしろ、社会そのものを動かす根本的なものなので、それとかかわらずに哲学を語っても意味がないのではないかと私はかねてより思っていたものですから、なかなか有意義な経験でした。それに受講者のモチベーションの高さには驚かされました。話の水を向けると、皆さんから質問や意見がどんどん出てきました」

本書は講師である岡本氏が一方的に説明する講義録ではなく、受講者とのディスカッションが大きな柱となっている。

受講者たちから次々に出てくる意見に対して、岡本氏は古代ギリシアのプラトン、アリストテレスから最近注目されているドイツの俊英マルクス・ガブリエルまで、哲学の知恵を簡潔に示して、「それはこうも考えられる」という形でアドバイスしていく。

「私に求められていたのは、あくまでも問題を提起し、そして参加者の議論をうまく取りまとめて、そこからさらに問題を提起し、新しい考え方を引き出していくファシリテーターの役割でした。

しかし、考えてみると、ソクラテスが繰り広げた対話もまさにこういうものだったのではないか、そうだとすればこれは哲学の基本的なあり方の一つではないかと思います」

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プロフィール

岡本裕一朗

1954年福岡県生まれ。九州大学大学院修了。玉川大学文学部教授。著書に『ヘーゲルと現代思想の臨界』(ナカニシヤ出版)、『思考実験』(ちくま新書)、『フランス現代思想史』(中公新書)、『いま世界の哲学者たちが考えていること』(ダイヤモンド社)など多数。

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