落語はプログラミングできるのか?

噺家は人生の問題解決をしながら、高座にあがる

古今亭文菊×野村亮太
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高座にあがって一礼、マクラの話もそこそこに本題へ。耳慣れた噺にときどき挟まる「くすぐり」にクスリと笑い、気づけばお馴染みのストーリーを夢中で追いかけているうちにオチがやってきて……。

噺家は、落語ファンにとって当たり前のそんな光景にも、同時並行でたくさんの工夫を凝らしている。その工夫を、ひとつでも多く「プログラミング」で説明できたら……。気鋭の認知科学者は、噺家が落語をどう「手続き」化しプログラムしているのか解明するという野望を抱く。果敢な挑戦は、彼が最も敬愛する噺家にどう響くのか?

最注目の噺家と認知科学者がおくる異色の対談、結末や如何に。

【笑いを生み出す「間」の意識】

文菊 プログラミング…こうしてお題をいただいたわけですが、ちょっと私には理解の及ばないところでね(笑)。私の落語は、非常に感覚的なものですから。どう生きて、どう考え、感じるかをただずっとやってるだけでね(笑)。

野村 私の言うプログラミング思考というのは、ロボットなどをつくるような実際のプログラミングではなく、考え方なんです。つまり落語をするときに、自分が効率よくできる、より良くできるために行う手順のことですね。

文菊 なるほど。プログラミング的にって言うんでしょうか、笑いを論理的につくっていこうとする噺家さんもいらっしゃいますよ。人間はなぜ笑うのかを論理的に、再現性のある方法を考えるわけです。たとえば有名な言葉ですが、笑いは緊張と緩和によって生まれるという考え方があるようです。緊張した後に、ふと緩和したときに笑いが生まれる、と。でもね、私はほら、論理思考じゃないから、きっとそういうプログラミング思考の噺家さんとお話された方が(笑)。

野村 いえいえ(笑)。すべてのプログラミングは「順次」、「反復」そして「分岐」によって成り立っています。私にとってもっとも面白いと思える噺家である文菊さんがお客さんを笑わせる手順にも、こうした共通点があるのか。それをプログラミング思考の観点からから分析してみたいという、ひとつ挑戦だと思っていただければ。

文菊 ああ、敢えて言うなら、「間を取る」ことがそうかもしれませんね。高座で噺家がやっているのは、お客さんとのエネルギーのやりとりなんです。

野村 お客さんを話に引き込んだり、あるいは離したりということですか?

文菊 ええ、自分とお客さんの持っているエネルギーがどのあたりにあるのかという感覚ですね。前座(寄席で一番前に高座に上がり、10分ほどの落語をする噺家の階級)の頃なんてのは、噺家は自分をただ「音声を発する物体」としか認識できないわけですよ。つまり自分の発しているエネルギーしか分からない。でも二ツ目(寄席で二番目に高座へ上がる階級)になると、お客さんのエネルギーを感じとっていく。すると最初はお客さんにいろんな「投げかけ」をして噺に引き込もうとするわけですね。どんどん「押し」て笑わせるようなことです。それで成功する人もいるんですが、なかなか押すだけではうまくいかない。試行錯誤しているうちに「間」を意識して、高座のこちら側へエネルギーを引き寄せるコツが分かるんです。それが無意識にできていくことが「間が取れる」ということですね。

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プロフィール

古今亭文菊×野村亮太

 

古今亭文菊
1979年、東京都生まれ。2001年、学習院大学文学部史学科卒業後、古今亭圓菊に入門。03年1月に前座に、06年5月に二ツ目に昇進する。12年9月には28人抜きで真打ちに昇進して話題に。これまで、NHK新人演芸大賞落語部門大賞、浅草芸能大賞新人賞などを受賞している。

 

野村亮太
1981年生まれ。認知科学者。東京大学大学院教育学研究科・特任助教。東京理科大学大学院工学研究科博士後期課程。九州大学教育学部卒業、同大学院人間環境学府修士課程および博士後期課程修了。博士(心理学)。専門は、落語の間、噺家の熟達化。International Society for Humor Studies Graduate Student Awards 2007、日本認知科学会2014年論文賞、各受賞。2017年Eテレ「NHKまる得マガジン 落語でつかむ話し方の極意」に講師として出演。

 
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