落語はプログラミングできるのか?

噺家は人生の問題解決をしながら、高座にあがる

古今亭文菊×野村亮太
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【メタ認知で行う、落語家の“印象の柵”解消術】

野村 認知科学の分野では、まさに文菊さんがしているような、自身の行動を客観的に見て、コントロールする状態のことを「メタ認知」と呼びます。私のプログラミング思考というのは、自分がしたい活動を実現するために手順を、メタ認知のもとにいろんな角度から工夫して実行することを指します。そうすることで、日常の所作を効率よくこなしていくことができる。

文菊 ああ、そうした点でも噺家は似たようなことをやっていますよ。自分をよく知らないと、人にどう見られるかというのは分からないもんですからね。自分がどんな人間かを俯瞰的に自覚して、それを高座の上で、お客さんに洒落としてさらけ出す。私の場合は、この見た目でそのまましゃべりだすと、なんだかこう、客席に緊張感を与えてしまうところがある。気取った雰囲気っていうんですか。この印象をなんとかしたいんです。

野村 具体的にはどうされるんですか?

文菊 いやね、落語というのは登場人物に、どこか呑気なところが出てくるもんです。まともな連中ってのは出てきません。たとえば木村拓哉さんや、高倉健さんがやるような役は落語の中には出てこないんです。だから噺家なんてのは、どこか「抜けて」いた方がやりやすいわけですよ。顔の造作やなんかもそうで、ちょっと崩れていたほうが落語ってのはやりやすいもんなんですよ。崩れてたほうがね。そこにいくとね、私なんてものはね…いや、自分が色男だなんて言うわけじゃありませんよ? でもね、私なんかはほら、ご覧の通り、落語がやりにくくてしょうがないんですよ。――と、お客さんにマクラでさらけだすわけです。するとお客さんも「おや」とくる。私の「印象の柵」を私の方から取り除いてしまうわけです。するとお客さんは流動的になって、こちらの噺に入って来やすくなる。間が取りやすくなるわけですね。

野村 そうした、言ってみればお客さんが無防備になる空間をつくりだすための手順がある。そういう意味ではプログラミング的な工夫が噺家にはあるんですか?

文菊 お客さんの懐に飛び込む、引き寄せるという意味ではみな似たようなことをしていると思います。ただ、噺家それぞれに戦術があります。私と同じことを他の誰かがやってもうまくはいきません。自分に合った戦術を体得して、お客さんを無防備にさせるところに、噺家の器量が試されるわけです。

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プロフィール

古今亭文菊×野村亮太

 

古今亭文菊
1979年、東京都生まれ。2001年、学習院大学文学部史学科卒業後、古今亭圓菊に入門。03年1月に前座に、06年5月に二ツ目に昇進する。12年9月には28人抜きで真打ちに昇進して話題に。これまで、NHK新人演芸大賞落語部門大賞、浅草芸能大賞新人賞などを受賞している。

 

野村亮太
1981年生まれ。認知科学者。東京大学大学院教育学研究科・特任助教。東京理科大学大学院工学研究科博士後期課程。九州大学教育学部卒業、同大学院人間環境学府修士課程および博士後期課程修了。博士(心理学)。専門は、落語の間、噺家の熟達化。International Society for Humor Studies Graduate Student Awards 2007、日本認知科学会2014年論文賞、各受賞。2017年Eテレ「NHKまる得マガジン 落語でつかむ話し方の極意」に講師として出演。

 
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