著者インタビュー

現代に正統は復権しうるか

『異端の時代』著者・森本あんり氏インタビュー

森本あんり
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陰謀論に対して、著者の提唱している「正統と異端の生態学」は、その対極にある。何が正統で、何が異端であるかは、一握りの人たちが決めているのではない。何が正統かをめぐるせめぎ合いの歴史を経て浸透した、多くの人々が無意識に共有する前提によって決まっているのである。その前提のことを著者はアメリカの宗教社会学者ピーター・バーガーの言葉を借りて、「信憑性構造」と呼ぶ。

「信憑性構造とは、誰もが当然だと思っていて疑わないシステムのことです。たとえば、電車に乗る時に交通系ICカードをタッチして、いくら取られるか。誰もそんなことをわざわざ細かくチェックしないでしょう。実は鉄道会社が一回につき一円ずつ密かにかすめ取っているのでは? などと疑い始めたら、安心して電車に乗っていられません。

我々は数々の信頼の上に社会生活を営んでいる。その信憑性構造が薄くなればなるほど疑わなければいけないことが増えてきて、生きづらい社会になる。正統があちこちで疑われていると、本当に住みにくい社会になります」

正統とは権威とも言い換えられる。職場で部下が思い通りに動いてくれない、家庭で子どもが言うことを聞いてくれない、そんな時に上司の権威、親の権威がないがしろにされたと感じる人もいるだろう。かといって権威をかさに着れば、「権威主義」と嫌われてしまう。どうしたらいいのだろうか。

「実は、権威はかさに着ることができません。権威とは、“おのずから備わっている”もので、誰もが知らず知らずのうちに、それは当然だと納得するものです。

ところが、権威が無い人ほど権力に頼ってしまう。『俺が上司だから(親だから、教師だから…etc.)、俺の言うことを聞け』というのは権力を振りかざしているのです。その力は肩書や地位に付随しているもので、権威とは質的に全く違うものです。地位や肩書はあるけれども権威の備わっていない人が、権威のある人のまねをすると赤っ恥をかくことになります」

おのずから備わり、誰もが納得する権威、それが正統というものだが、現代は正統の衰弱した時代だという。

「異端も、やがては古い正統にとって代わろうという気概のない『なんちゃって異端』ばかりです。これでは正統と異端がせめぎ合って新たな正統を生み出すダイナミズムが働きません。本書の終章で真正の異端への期待を述べていますが、それも正統の復権のためなのです」

我々は次世代にいかなる正統、または異端を遺すことができるのだろうか。

国際基督教大学(ICU)学務副学長・森本あんり氏 (撮影:内藤サトル)

文責:広坂朋信

 

※季刊誌「kotoba」34号に掲載したインタビュー記事を修正の上、転載しました。

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関連書籍

『異端の時代―正統のかたちを求めて』

プロフィール

森本あんり

神学・宗教学者。1956年、神奈川県生まれ。国際基督教大学(ICU)学務副学長、同教授(神学、宗教学)。プリンストン神学大学院博士課程修了(Ph.D.)後、国際基督教大学教授を経て現職。著書に『反知性主義』(新潮選書)、『宗教国家アメリカのふしぎな論理』(NHK出版新書)など。

 

 
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