連載:座間9人殺害事件裁判 第4回

座間9人殺害事件裁判「作業と操作」

共同通信社会部取材班
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日本犯罪史上まれに見る猟奇的な大量殺人「座間事件」。白石隆浩被告が死刑判決を受けるまで、計24回の公判をすべて記録した記者たちによる詳細なレポート。 

白石隆浩被告は、女性を風俗業者に紹介する仕事を「作業」と表現、口説く相手について「操作」という言葉を使って表現した。女性をモノのように捉えていた被告の意識が浮かび上がった。

※白石隆浩被告は2021年1月5日に死刑判決が確定し、呼称は「白石隆浩死刑囚」に変わりましたが、この連載では変わらず「被告」と表記します。

2017年11月、東京地検立川支部に入る白石隆浩被告。写真提供 共同通信社/ユニフォトプレス

 10月7日午前、証言台の椅子に、最初の被害者Aさんの母親が座った。プライバシーを保護するため、傍聴席から見えないように遮蔽板で囲われている。上部が磨りガラス状になっており、後ろ姿がぼんやりと見えるだけだ。第4回公判の証人尋問が始まった。

 午前10時半すぎ、立ち上がった女性検察官がAさんの人柄について尋ねた。

 検察官「Aさんはどんな子でしたか」

 母親「すごく責任感が強く、優しくて、他人のことを思いやれる子だと思います。私のことを心配してくれる、『ずっと近くにいる』というようなことを言ってくれました」

 

 前回の第3回公判で明らかにされたAさんの友人の供述調書を思い出した。その調書には、いじめられていたその友人を、Aさんが寄り添って守ってくれたエピソードが綴られていた。証言のとおり、責任感が強く、優しくて思いやりのある人だったのだろう。母親の声は、途中から涙で震えていた。

 白石被告は、初めて聞いたはずの遺族の言葉をどんな気持ちで聞いているのだろう。表情を見ようと被告席に目を向けてみた。被告はこの日も、上下とも黄緑色の服に白いマスク姿。黒縁眼鏡をかけている。眼鏡の奥の小さくて細い垂れ目は、開いているのか閉じているのかすらよく分からず、表情は分からない。背中を椅子に預けたまま、ほとんど身じろぎしないのも、これまでと同じだ。

 争点となっている殺害の承諾の有無について、検察官が質問した。

 検察官「今日の裁判では、殺害の承諾が争点です」

 母親「はい」

 検察官「そう聞いてどう思いましたか」

 母親「あの子も仕事をきちんとしたいという思いがあって、パソコンの資格を取るために教材を申し込んで、それに向けて取り組もうとしていたので、生きようと頑張っていたと思います」

 

 Aさんは派遣社員として働いていたが、正社員になるため、パソコンの資格を取ろうとしていた。事件の前、少し疲れたような表情をすることもあったが、未来に具体的な目標を持って行動しており、母親としては承諾があったとは考えられないという。

 検察官が最後に「被告に対してどういう思いですか」と質問すると、母親は「本当に早くいなくなってもらいたい。今すぐにでも目の前から、この世からいなくなってもらいたい。うちの娘が受けたことと同じことを受けてもらいたい」と絞り出すように答えた。

 被告はじっとしたまま、表情や態度に変化は見られない。遺族の怒りや悲しみは伝わっていないのだろうか。

 

 ▽無視

 午後、注目の被告人質問が始まった。弁護側、検察側、裁判官らの質問に対し、白石被告が答える。事件について被告自身の口から聞くのはこれが初めてだ。

 質問に先立って裁判長が注意事項を説明すると、証言台前に座った白石被告は、これまで法廷で見せていたけだるげな様子と違い、「はい」「はい」と丁寧に答えた。こんなTPOをわきまえた態度も取れるのかと意外に思っていたが、直後に態度が一変した。弁護側が質問を始めた瞬間だった。

 弁護人「一連の事件が発覚して3年がたちました。これまで弁護士に裁判を早く進めてほしいと言っていましたね」

 白石「………………」

 弁護人「公判が始まって初めての被告人質問です。今の心境は」

 白石「………………」

 

 弁護人の問いかけを完全に無視。頭を右に傾けて椅子にだらりと座り、如何にもふてくされているような雰囲気を醸し出していた。ただ、予感はしていた。白石被告は裁判の早期終了を望んで罪をすべて認めたのに、弁護側は承諾殺人罪を主張して検察側と対決している。被告にとっては自分の思いを代弁し、弁護するはずの人間が勝手なことをしているように映っている。当然、面白くない存在なのだろう。

 もちろん白石被告には黙秘権があり、答える気がないのであれば一言だけ「答えません」や「黙秘します」と言えば済む。裁判もテンポよく進む。あえて無視するのは、弁護人への当てつけに見えた。

 ちなみに白石被告は、法廷の外では弁護人と普通に話をしているという。その理由を被告は「差し入れを要求したら弁護人が差し入れてくれたので、面会に応じて話していた」とのちに説明している。自己の欲求や欲望に素直な被告らしい理由だ。

 いったん弁護側の質問は終了し、質問者が検察官に移った。

 検察側「弁護人の質問に答えませんでしたが、検察の質問に答える意思はありますか」

 白石「あります」

 

 検察側の質問には、はきはきと答えた。序盤の質問は事件全体の動機、職歴などについて。被告はすらすらと、動機が金銭目的と性欲だったこと、被害女性に強制性交したことなどを認めていった。

 淡々と続く受け答えの中で、引っかかる言葉が出てきた。一つ目は白石被告の過去の職業、風俗業のスカウトについて検察官が質問した時だ。

 検察官「どんな仕事ですか」

 白石「風俗の仕事を探す女性に直接声をかけて、その人の条件通りの店に紹介する作業でした」

 検察官「どこで」

 白石「主にツイッターで♯高額求人、♯風俗、♯すぐに稼げる、といったキーワード検索を利用して情報を流し、女性を紹介する作業でした」

 

 引っかかったのは、この「作業」という言葉だ。女性を風俗店に紹介することを、仕事ではなく作業と表現した。

 次の言葉は、ツイッターで「心の弱った女性」を狙った理由を説明する中で出て来た。白石被告は事件の約半年前の2017年3月、自分をヒモにしてくれる女性と出会うため、ツイッターにアカウントを開設した。狙いを定めたのは「疲れた」「さみしい」「死にたい」などと書き込んだ精神的に不安定な女性たち。なぜそんな女性たちを狙ったのか。検察官が問いかける。

 検察官「どうしてですか」

 白石「通常の女性より悩みを持った女性の方が口説きやすい」

 検察官「口説くとは」

 白石「自分の思ったとおりに操作しやすい」

 

 この「操作」という言葉は、人をまるでモノのように捉えているかのような表現だと感じた。「作業」と「操作」。二つの言葉を被告が無意識に使っているのか、それとも意図的に使っているのかは分からないが、感情の希薄さを感じさせた。

 検察官の質問は、前回の公判で明らかにされた白石被告とAさんの、SNS「カカオトーク」でのやりとりに進んでいった。

 被告がAさんに送っていたメッセージの中身は、うそだらけだった。例えば「半年前に首吊り自殺をしました」「俺は死にたい。働いてて病みました」と、自殺願望をほのめかす言葉を並べていたが、これらはすべてうそ。やりとりの途中からは、Aさんと一緒に死ぬのではなく、自殺を手伝うという役割に変わっていた。Aさんから「殺人罪で死刑になるよ?」とのメッセージを受け取った際は「死刑になれるのなら構いません」と返事していた。

 検察官が問うと、この点も「本心ではない」と説明した。白石被告によると、女性から信頼を得て実際に会ってヒモになるため、うそをついて相手の気持ちに同調するふりをしたり、相手に合わせてキャラクターを変えたりしていたという。

 Aさんにうそを重ねた被告は、8月15日夜、唯一の男性被害者であるCさんを含め、3人で会うことになった。会った場所は神奈川県座間市。3人で会ったのは、被告がAさんとCさんの自殺を手伝うためだったが、被告はこの点も「実際に自殺を手伝うつもりはなかった」と検察官に答えた。

 白石被告は当時、スカウト時代に起こした事件で有罪判決を受け、執行猶予中の身。もし自殺を手伝うなど何らかの違法行為が発覚すれば、実刑になる。被告はこの点を恐れていたと検察官に説明した。

 少なくとも3人で会った8月15日の時点では、殺人や自殺に直接的に関与する気はなかったことになる。その日、AさんとCさんは死ぬという考えを翻し、合流した3人は公園で翌朝まで悩みを話し合ったり、酒を飲んだりして平和的に別れたという。

白石隆浩被告が被害者のAさん、Cさんと酒を飲んだ公園(神奈川県座間市)

 

 ▽飛躍

 被告はこの時点までは単純にヒモになることを目指し、Aさんの自殺を本気で手伝うつもりがなかった。翌16日ごろにAさんにまとまった貯金があると知ってから、徐々に殺害の選択肢を現実的に考えていくようになる。だが、他人が持っている金を欲しいと思ったとしても、殺人という究極的な犯罪行為によって奪おうといきなり考えるのは、あまりにも飛躍している。白石被告はそもそも楽をして暮らしたいからヒモを目指していたはずなのに、なぜ殺人というハイリスクで極端な選択肢を考えたのか、理解が追いつかない。

 被告はここから、Aさんのヒモになるという選択肢と、Aさんを殺害するという選択肢の両方を吟味しながら行動を進めていく。検察官の質問も、被告がこの時、何を考えていたのかという点に入っていった。

 白石被告が答えた内容をまとめると、次のようになる。まず、Aさんに対し「やっぱり死ぬのはよくないです。もう少し頑張って生きてみませんか」とメッセージを送り、ヒモになることを狙って自分と同居するように仕向けていった。さらに「相手に貯金があり、貯金が欲しかった」と思っていたので「最悪の場合、殺すんだったらロフトに吊して殺すのもあり」と考え、ロフト付きのアパートにこだわってAさんと一緒に部屋を探した。

 18日には事件現場となったアパートを内見し、借りると決めた。この部屋は「ロフトがあり、雨戸を閉めると外から一切見えない。殺害しても周りから気付かれづらいと思った」。実際に懸垂をしてロフトの強度を確認していたという話からは、18日の時点で既に、かなり現実的に殺害を意識していたように思えた。

 20日午後には、スマホで「人間 解体 困った時の解体方法」と検索し、殺害後の遺体をどうするかについて調べている。検察官は、捜査段階で白石被告が20日時点で既に殺害を決めていたと供述していることを明らかにした。Aさんと初めて会ってから、わずか5日で殺害を決心していたことになる。その理由は、アパート入居用としてAさんから借りた51万円の返済を免れたいと思ったからだと述べた。

 しかし、やはり腑に落ちない。被告が借りた部屋に、Aさんは同居するつもりだった。返済を迫られてもいない。殺人をしなくても、当初の目的通りAさんのヒモになれたのではないか。検察側が同じ疑問を投げ掛けると、被告はこう答えた。

 白石「過去の私の女性の経験から、私の口説きは『入り』も『抜ける』のも早い。あっという間に冷めるのが多い。そうなる前に殺して奪ってしまおうと思った」

 

 つまり、好かれるのは早いが、飽きられるのも早い。Aさんの気持ちもすぐに自分から離れる。だから返済を迫られる前に殺して奪おうと思った。自分の魅力は表面的で深みがない。そんな自己分析にも聞こえた。

 8月22日、現場アパートに入居した被告は翌23日、Aさんを部屋でいきなり襲い、殺害した。直前にAさんから「殺して」や「自殺したい」という言葉はなく、襲った際は約5分間にわたってAさんから抵抗を受けたことも、この日の被告人質問で明かした。具体的な状況を、被告自身の口から詳細に聞き出すことは、供述の信用性を検証するために必要だ。それでも、殺害や遺体切断の状況を落ち着いて語る被告の説明内容は生々しく、ペンを持つ手に力が入らなくなった。遮蔽板で仕切られている遺族の席がざわついた。退廷した人がいたようだ。

 白石被告はAさんに「恋愛や信用の感情」があったと話し、好意も「少なからずあった」とも話した。「一緒にいて居心地が良い」とも語った。それならばなぜ、ここまで残酷なことができるのか。ただ楽をしてヒモになりたいだけだったはずの男が、なぜ1週間ほどであっさりと殺人というハードルを跳び越えられたのか。

 裁判官や裁判員も、同じ疑問を抱いたらしい。翌日の10月8日に開かれた第5回公判では、なぜ殺害しなければならなかったのかに裁判官らの質問が集中した。

 白石被告は「返済を断ると恐喝などに当たると思い、執行猶予があるので実刑判決が出る。だから殺そうと思いました」と答えた。殺人は恐喝よりはるかに重罪で、よりハイリスクなはずだが、「ばれなければいいと思った」。最終的に決心した理由を裁判官から尋ねられると、被告はAさんには別の交際相手がいそうだったこと、そして、Aさんに性交渉を断られたことを挙げた。Aさんの心が自分から離れ始めていると思ったことが引き金になったらしい。

 それでも殺害以外の選択肢がなかったのか、裁判官が重ねて問う。

 裁判官「例えばAさんから逃げるとか」

 白石被告「考えませんでした。警察に『盗まれた』と報告されると、あっさりと捕まると思ったからです」

 裁判官「殺害に倫理的、道徳的なためらいはなかったのか」

 白石「正直、かなり迷いましたが、スカウトをしていた時、犯罪行為を日常的に犯していて、ばれなければいいという意識が根付いていた。今回もばれなければいいと思いました」

 裁判官「人を殺すのも、ばれなきゃいいやと思いましたか」

 白石「思いました」

 裁判官「一度は一緒に住もうと思った相手でもか」

 白石「はい。スカウト時代に、女性を性的な目と金になるかならないかという目でしか見てなかった。Aさんもそういう目で見ていました」

 

 この答えに、「操作」と「作業」という言葉を思い出した。やはり被告は女性を、ただ利用するだけのモノや道具と同等に考えているのか。だから殺害することができたのか。                                 

(つづく)

 執筆/共同通信社会部取材班

 

 

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プロフィール

共同通信社会部取材班

※この連載は、2020年9~12月の座間事件公判を取材した共同通信社会部の記者らによる記録です。新聞を始め、テレビ、ラジオなどに記事を配信している共同通信は、事件に関連する地域の各地方紙の要請に応えるべく、他のメディアと比較しても多くの記者の手で詳細に報道してきました。記者は多い時で7人、通常は3人が交代で記録し、その都度記事化してニュース配信をしました。配信記事には裁判で判明した重要なエッセンスを盛り込みましたが、紙面には限りがあります。記者がとり続けた膨大で詳細な記録をここに残すことで、この事件についてより考えていただければと思い、今回の連載を思い立ちました。担当するのは社会部記者の武知司、鈴木拓野、平林未彩、デスクの斉藤友彦です。

 
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