連載:座間9人殺害事件裁判 第3回

座間9人殺害事件裁判「法廷朗読劇」

共同通信社会部取材班

日本犯罪史上まれに見る猟奇的な大量殺人「座間事件」。白石隆浩被告が死刑判決を受けるまで、計24回の公判をすべて記録した記者たちによる詳細なレポート。 

最初の被害者Aさんは、神奈川県在住で当時21歳の女性会社員。彼女と白石隆浩被告は、SNSで恋人同士のようなやりとりをしていた。しかし、被告は彼女を唐突に殺害。法廷では男性検事が被告の役を、女性検事がAさんの役を演じ、2人が関係を深めていったSNSのメッセージを朗読して再現した。生々しい「朗読劇」から、カネ目当ての犯行の様子が浮かび上がった。

※白石隆浩被告は2021年1月5日に死刑判決が確定し、呼称は「白石隆浩死刑囚」に変わりましたが、この連載では変わらず「被告」と表記します。

2017年11月、東京地検立川支部に入る白石隆浩被告。写真提供 共同通信社/ユニフォトプレス

▽恋愛感情を利用

 10月6日午前、東京地裁立川支部101号法廷。立ち上がった女性検事は、SNS「カカオトーク」でAさんが白石被告とやりとりした内容を明かした。AさんがSNSで被告に送ったメッセージをこの検事が、被告がAさんに送ったメッセージを男性検事が読み上げていく。

 ツイッターで自殺願望者を装った書き込みをしていた白石被告を、Aさんがフォローして2人は知り合った。その後、カカオトークに場を移してメッセージのやりとりが始まる。最初のメッセージは2017年8月8日午前7時43分、Aさんから送られた。

 

Aさん「ツイッターをしていたものです」

白石被告「ありがとう。よろしくお願いします」

A「元気ですね」

白石「ずっとかたい形の文章だったので。Aさんもだんだんかたくなってきたので、最初のあいさつぐらいは」

A「大丈夫。死にたいようには見えないですね」

白石「半年前に首吊り未遂をしました。生きる気力がなく、放浪してた。なぜ死にたいのですか」

A「疲れたから」

白石「通話でもしますか」

A「薬が回って疲れているのでやめておきます」

 

 10分弱のやりとりが終わった。文面からは、Aさんが被告を警戒している様子が伝わってくる。それにしても、検察官が実際に朗読するのを聞いていると、なんとも言えない生々しさを感じる。

 カカオトークでのやりとりは、この日から連日続いた。Aさんは白石被告が自分を殺してくれるのかと疑問を投げかけた。

 

A「本当に殺せるの?」

白石「はい」

A「本当にいいの? うそじゃないですよね」

白石「本当です」

A「どこか、いい海を知っていますか」

白石「沈むことにしたんですね。見に行ってくるので」

 

 10日の昼、白石はAさんに神奈川県内のダムで自殺を手助けすると提案する。

 白石「暗くなると全く人けがなかったです。森に入って首を吊るかダムに入水か選べる」

 Aさんは「絞めるでもいいよ」と伝えた後、「殺す以外、何もしないですよね?」と性的な目的が白石被告にないかどうか確かめる。

 白石「もちろんです。捕まることをやるより風俗行った方が早いですから」

 

 Aさんはその後、もうひとり「死にたい」と言っているという知人の男性、Cさんの存在をなぜか白石被告に紹介する。白石被告はCさんとも連絡を取り、3人で、ダムで待ち合わせることにした。時間や手段など、細かい点も打ち合わせた。時折、メッセージのやりとりだけでなくAさんと通話もしている。会話の中身は分からない。

 決行予定日は15日になった。その日の未明には具体的な死に方も提案している。

 

A「彼は首吊り、私は首締め。可能なら同時に。明日はよろしくお願いします」

白石「縄は男性が買うのでしょうか。酒は持ってくるか、近くのコンビニで」

 

 その日の午後。

 

A「(男性と)合流しました。向かいます」

白石「了解しました」

A「緑と青の服です」

白石「了解しました」

 

 ところが、直後にAさんの態度が急変する。

 

A「Cさんが死ぬのをやめたので私もやめます。やっぱり生きようと思います」

 

 突然の死の撤回。白石被告がどう返信するのか。被告役の男性検察官の言葉を待った。

 

白石「分かりました。せっかくなので飲んでから帰りませんか」

 

 ここでやりとりが終わる。どうやら3人は合流して一緒に酒を飲んだらしい。

 この後、Aさんと白石被告のやりとりは、「お金がない」という白石被告に、Aさんがいくら貸してほしいのかと尋ねる方向に向かった。すると白石被告は唐突に「やっぱり死ぬのはよくないです。もう少し頑張って生きてみませんか。力になるのでいつでも電話ください」と切り出す。死について相談に乗っていた白石被告が「生きて」などと言い出したのは、この時点で「Aさんが金づるになりそうだ」と判断したためだ。

 カネの話が出た翌日から、二人のやりとりはいきなり恋人同士のようになる。丁寧語ではなくなり、顔文字や「笑」が多用されるようになり、投稿の中身も親密な様子になっていく。直接会った際に何があったのかは分からないが、いつのまにか交際に発展したかのようなやりとりだ。

 

A「今日も1日頑張りましょうね」

白石「頑張りましょう」

A「本当だね笑。今日はほどほどにします笑(顔文字)」「ありがとう(顔文字)」「ツイッターっていま使ってるの?」

A「外、暑いでしょう、大丈夫?」

白石「あつい」

 

 ここで、2人で一緒に住む部屋を探すやりとりが始まる。

 

白石「これから3軒目見に行くから」

A「1軒目ダメだったの?」

白石「1階角部屋で、隣の一軒家から丸見え」

 

 数日後、早くも部屋が決まった。後に犯行現場になるアパートだ。Aさんが費用を出し、8月22日には入居可能に。この頃、カカオトークでのやりとりはあまり多くない。直接会話しているからだろう。

犯行現場となったアパートの入り口

 これほど親密なやりとりをしていたにもかかわらず、Aさんは翌23日に殺害された。そして白石被告は同日、アリバイ工作のように「心配だから連絡して。実家帰ったの?」とAさん宛てにメッセージを送っている。カカオトークのやりとりはこれが最後になった。

 

▽こだわりのロフト

 約2週間分の濃密な朗読劇は唐突に終わった。検察側はすぐに、Aさんに関するそのほかの証拠を紹介し始めた。目を引いたのが、二人に物件を紹介した不動産会社従業員の供述調書。白石被告のロフトへの異常なこだわりが明かされる。

「Aさんは被告と飛び込みで店に来て『2日以内に鍵を渡してもらえる家を探している』と言った。焦っているように見えた。私が『どうして?』と聞くと『今すぐ、一緒にいる場所が必要なんです』と。家出かと疑って『どうして』と聞くと『今は実家にいますが、彼と一緒にいる必要がある』と」

 白石被告は無職で、Aさんが契約する前提で物件を紹介。家賃3万5千円の物件を紹介するとAさんは「いいんじゃない」と前向きだったが、白石被告は「ロフトがないからな。狭くてもいいからロフト付きがいい」と言った。翌日、内見すると「わーきれい。ここがいい」とAさんは乗り気だったが、被告は「ロフトに荷物を置きたい」と言い、後でキャンセルしたという。

 ロフトへの異常なこだわり。傍聴席からは失笑が漏れた。ロフトは後に、多くの被害者を吊るすために使われる。被告は部屋探しの段階から犯行を計画していたのか、漠然とイメージしていたのかもしれない。結局、2人は別の不動産会社が紹介したロフト付きの部屋を契約し、Aさんが初期費用を含む51万円を被告の口座に振り込んだ。

 検察官はこの後、Aさんの家族や知人らの供述を紹介していくが、最後になって妙な捜査報告書が登場した。報告書によると、実はAさんは殺害の前日と当日、ツイッターで白石被告とは別の男とメッセージをやりとりしていた。報告書はそのやりとりの詳細だ。Aさんはこの男性にも「殺してほしい」と伝えていた。

 

男「希望は聞くよ」

A「いい人ね」

男「いいえ、ただの変態です。写メ見たい」

A(写メ送信)

男「細くていいね、首、絞めやすそう」

 

 やりとりはこの後も続くが、この男はAさんに写メを送らせることにこだわっている。さらに、首を絞めたい、ミニスカートをはいてほしいなど、性犯罪者的なメッセージが目立ち、正直言っておぞましい。あえて言うなら「白石もどき」。SNSにはこんな連中がうようよいて、ツイッターで弱音をはく人につけこもうとしている。SNSの恐ろしさを改めて感じさせた。

 

【追記】

 この日の公判は第3回。実は前日の10月5日に第2回公判があった。第2回公判では精神科医の証人尋問があったが、はっきりいって内容はあまりないと思った。

 尋問では、主に被害者らがツイッターに書き込んだ「死にたいと願う気持ち」(専門用語で希死念慮)について、まず弁護側が質問。精神科医を証人に呼んだのは弁護側だ。弁護側の狙いは、被害者らに自殺願望があり、それを実行するため、白石被告に殺されることを願ったと立証することにある。立証できれば白石被告の罪は殺人より軽い承諾殺人になるためだ。

 尋問では自殺願望がどういうものかを明らかにするため「希死念慮」という言葉について重ねて尋ねていたが、質問が一般的な内容に終始したため、話が具体的にならず、質疑が深まらなかった。希死念慮とは、文字通り死を望む気持ちを指す。

 

弁護人「希死念慮のある人が『やっぱり生きていく』と言うケースはあり得るのでしょうか」

精神科医「あり得ます」

 

 一般論で「あり得るか」などと聞いているせいか、今回の事件の立証にどう役立つのかよく分からない。一方、検察側はこんな質問をした。

 

検事「自殺したいと思っている人は、殺されたいと思っているのでしょうか」

精神科医「別の話です。個人的な見解だが、死にたいという人が殺されたいというのはあまり聞いたことがない」

 

 このやりとりを見て、少なくともこの証人尋問に限っては検察側の勝ちだと思った。裁判の争点は、繰り返しになるが殺人の承諾の有無だ。その争点について、専門家である精神科医が「被害者に死にたい願望があっても、殺されることを承諾したとは言えない」と述べた。検察側にとって有利ととれる証言を引き出した。

 第2回公判ではその後、被害者9人のうちAさん、Bさん、Cさんの3人に絞っての審理が始まった。この日から数日をかけて3人についての冒頭陳述や証拠調べ、被告人質問があり、その後に中間的な論告をする。被害者をいくつかのグループに分けて審理し、中間論告をするのは異例だ。死傷者が40人を超えた相模原障害者施設殺傷事件(2020年3月に横浜地裁で死刑判決)でさえ、中間論告方式は取らなかった。

 異例の審理となった理由は、やはり争点が「承諾」だから。裁判員は、殺害の承諾があったかどうかを被害者一人一人について判断しなければならない。9人まとめて審理すると、特に最初の被害者についてどんな証拠があったかを忘れたり、他の被害者に関する証拠と混同したりする恐れがある。それを防ぐため、まず最初の3人に絞って承諾の有無を判断することにしたのだろう。 

 

(つづく)

執筆/共同通信社会部取材班 写真/共同通信社

 

 第2回
第4回  

プロフィール

共同通信社会部取材班

※この連載は、2020年9~12月の座間事件公判を取材した共同通信社会部の記者らによる記録です。新聞を始め、テレビ、ラジオなどに記事を配信している共同通信は、事件に関連する地域の各地方紙の要請に応えるべく、他のメディアと比較しても多くの記者の手で詳細に報道してきました。記者は多い時で7人、通常は3人が交代で記録し、その都度記事化してニュース配信をしました。配信記事には裁判で判明した重要なエッセンスを盛り込みましたが、紙面には限りがあります。記者がとり続けた膨大で詳細な記録をここに残すことで、この事件についてより考えていただければと思い、今回の連載を思い立ちました。担当するのは社会部記者の武知司、鈴木拓野、平林未彩、デスクの斉藤友彦です。

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