宇都宮直子 スケートを語る 第12回

さようなら

宇都宮直子

 羽生結弦の新しいカレンダーが届いた日に、高山真さんの訃報を受け取った。「ご報告」と題されたメールで、だ。
「悲しいご報告となりますが、昨夜、高山真さんが逝去されました。
 この件、まだ公けにはしておりませんが、宇都宮さんは、いつも高山さんのご心配をしてくださっていたので、内々にご報告させていただきます」
 言葉がなかった。私は高山さんと面識がない。それなのに、不思議なくらい悲しかった。涙が出てしかたがなかった。
 昨年、私は心臓に不調を抱えた。そのせいで、試合には一度も足を運べなかった。その際、編集者を通じて、高山さんの言葉を聞いた。
「宇都宮さんの気持ちがわかる。自分も常に不安は抱えている」
 実は私も、同じような思いでいた。「高山さんの気持ちがわかる」。
 高山さんとは、今年三月、カナダで行われるはずの世界選手権にご一緒するはずだった。同じ飛行機の、わりと近い座席でである。
 編集者が笑って、言った。
「長いフライトですから、そこでいろいろ話せますよ」
 楽しみにしていた。
 だけど、それは新型コロナウイルスのために中止になった。ご一緒できれば、どんなによかったろう。
 以降、私は編集者と会うたび、高山さんの話をした。
「北京オリンピックにご一緒できれば」
 そんな夢を持っていた。
 再発されてからも、回復されると信じていた。重篤な状況とは、少しも存じ上げないまま……。残念でならない。

 高山さん、あなたのフィギュアスケートへの思いを忘れません。羽生結弦への愛を、ずっと覚えています。
 心からご冥福をお祈りします。

 

 

 

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宇都宮直子 スケートを語る

ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。

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プロフィール

宇都宮直子
ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』『三國連太郎、彷徨う魂へ』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また2022年12月には『アイスダンスを踊る』(ともに集英社新書)を刊行。
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