羽生結弦の新しいカレンダーが届いた日に、高山真さんの訃報を受け取った。「ご報告」と題されたメールで、だ。
「悲しいご報告となりますが、昨夜、高山真さんが逝去されました。
この件、まだ公けにはしておりませんが、宇都宮さんは、いつも高山さんのご心配をしてくださっていたので、内々にご報告させていただきます」
言葉がなかった。私は高山さんと面識がない。それなのに、不思議なくらい悲しかった。涙が出てしかたがなかった。
昨年、私は心臓に不調を抱えた。そのせいで、試合には一度も足を運べなかった。その際、編集者を通じて、高山さんの言葉を聞いた。
「宇都宮さんの気持ちがわかる。自分も常に不安は抱えている」
実は私も、同じような思いでいた。「高山さんの気持ちがわかる」。
高山さんとは、今年三月、カナダで行われるはずの世界選手権にご一緒するはずだった。同じ飛行機の、わりと近い座席でである。
編集者が笑って、言った。
「長いフライトですから、そこでいろいろ話せますよ」
楽しみにしていた。
だけど、それは新型コロナウイルスのために中止になった。ご一緒できれば、どんなによかったろう。
以降、私は編集者と会うたび、高山さんの話をした。
「北京オリンピックにご一緒できれば」
そんな夢を持っていた。
再発されてからも、回復されると信じていた。重篤な状況とは、少しも存じ上げないまま……。残念でならない。
高山さん、あなたのフィギュアスケートへの思いを忘れません。羽生結弦への愛を、ずっと覚えています。
心からご冥福をお祈りします。
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ノンフィクション作家、エッセイストの宇都宮直子が、フィギュアスケートにまつわる様々な問題を取材する。