オレに死ねと言ってんのか? ━検証!高額療養費制度改悪━ 第19回

【衆院選直前!】高額療養費制度・〈見直し〉案をどう捉えているのか?―各政党の主張を検証する

西村章

高額療養費制度を利用している当事者が送る、この制度〈改悪〉の問題点と、それをゴリ押しする官僚・政治家のおかしさ、そして同じ国民の窮状に対して想像力が働かない日本人について考える連載第19回。週末に衆院選を控えた今、各政党のマニフェスト等を読み込み、高額療養費制度、そしてその〈見直し〉に対するスタンスを探る。

 政府が2025年末に明らかにした今回の〈見直し〉案が実施された場合、がんや難病、あるいは怪我に見舞われた人たちの経済生活に生じる影響は昨日公開の記事(第18回)に記したとおり。

 では、この案について、あるいは高額療養費制度について、政党要件を満たす各党は今回の衆議院選挙に際してどんな意見を持ち、何を主張しようとしているのか。ウェブサイトやマニフェストなどを参考に調べてみた。

※      ※      ※
 
  • 自民党

 全46ページの「政権公約2026」には、「国民皆保険を堅持しつつ2040年頃を見据えた新たな地域医療構想による医療機関の連携・再編・集約化の推進、医師偏在是正などの実効的な対策により、持続可能で安心できる医療提供体制を確保」するという記述があるが高額療養費制度に関連する文言は記されていない。

(筆者の印象)
 今回の〈見直し〉案を含む2026年度予算案は12月末に閣議決定されているので、衆議院選後の予算委員会でも自民党議員はおそらく予算案の賛成に回る(=この〈見直し〉案を是とする)と考えるのが普通だろう。ただし、候補者の中には、自身のSNSなどで「行き過ぎたOTC医薬品の保険外しや高額療養費制度の見直しも、受診控えや重症化を招き、結果的に医療費の増加や医療提供体制の不安定化をもたらす懸念があります」と表明している例もある。全候補者の発言をチェックしたわけではないのであくまでも雑駁な印象だが、このような例は自民党の衆院選候補者の中では比較的珍しいのではないか。

  • 日本維新の会

 党ウェブサイト内「維新八策2026」の社会保障政策に関する項で、以下のように記されている。「107. 医療費窓口負担及び高額療養費負担限度額の所得区分判定の公平性を向上させます。特に、金融所得を含めた総合的な所得把握に基づく負担区分の設定を検討し、応能負担の徹底を図ります」「121. 高額療養費制度は国民皆保険制度の中核であり、制度見直しにおいては患者団体をはじめとする当事者の参画の機会を確保したうえで、制度設計に反映させる仕組みの構築を目指します」

(筆者の印象)
「107.」は後段の「金融所得の把握」「応能負担」に力点があるように思われる。また、「応能負担の徹底」は、社会保険料の料率に関する事柄ではなく、高額療養費制度などの医療サービス給付で「応益負担」をさらに強化する方向で推進しようという主旨だろう。「121.」で述べられている、政策決定プロセスへの当事者参画推進宣言は、高額療養費制度の在り方に関する専門委員会ですでに実現されていることなので、何を主張しようとしているのかいまひとつよくわからない。

  • 中道改革連合

 党ウェブサイト内「2026衆院選主要政策」の「第2の柱 現役世代も安心できる新たな社会保障モデルの構築」に記されている「健康、安心の医療・年金」の項で「治療を断念したり、生活破綻に追い込まれることがないように、制度を維持しつつ、高額療養費の自己負担限度額の引き上げを見直して、十分に抑制します。」と記載されている。

(筆者の印象)
 ここで言及されている「自己負担限度額の引き上げを見直して、十分に抑制」という部分は、〈見直し〉案の引き上げ幅はあまりに過大なのでさらに再検討を促す方向で議論を進めたい、という意味だろう。限度額引き上げの撤回を求めているわけではなく「十分に抑制」という表現になっているのは、もしも今回の〈見直し〉案全体が撤回になった場合、そこに盛り込まれている年間上限額などの長所まで反故にされてしまうような事態は避けたい、という言外の意図も汲み取ることができそうだ。では、どの程度の抑制なら十分と考えるのか、というところがこの表現からは判然としないが、いずれにせよ〈見直し〉案の引き上げ幅はさらに低く抑えなければならない、という考えが党の一致したコンセンサスだろう。

  • 国民民主党

 党の衆議院選挙特設サイトには高額療養費制度に関する記述はない。関連する事項としては、「高齢者医療制度への公費投入増」という項目に「現役世代の社会保険料負担(天引き)の内、およそ半分を占める高齢者医療制度(後期高齢者拠出金、前期高齢者納付金)や次世代に対する支え合い分について、本来の制度趣旨を鑑み、現役世代だけではなくあらゆる世代が負担する公費投入を行います」という記載があり、「科学的根拠に基づいた保険給付範囲の見直し」という項目に「特定の患者の保険外療養に対する経済的支援や、先進医療に対する民間保険の活用を進めます」という記述がある。

(筆者の印象)
 おそらく党の姿勢としては、〈見直し〉案の自己負担上限額引き上げ幅に対する賛否よりも、それによってどれだけの社会保険料軽減効果で手取りを増やせるのか、ということのほうに関心が強いのではないか。ただし、候補者個々人に目を向けると、SNSや街頭演説などで〈見直し〉案に異を唱えているケースがある。

  • 共産党

 ウェブサイトの「2026年衆議院選挙各分野政策」の「6、医療」に「高額療養費の負担増案の“復活”に反対します」として、以下のような記述がある。「医療費の月ごとの負担に上限を設ける「高額療養費制度」について、自民党政権は2025年の通常国会に負担増案を提出しましたが、患者・当事者の告発と運動、国民世論の包囲によって“予算修正・負担増凍結”に追い込まれました。その後の検討を経て出し直された案は、年間の負担上限を設定するなどの改善も含まれていますが、全体として患者負担を引き上げる内容となっています。――高額療養費の負担増案の“復活”を許さず、改悪部分を撤回させます」

(筆者の印象)
 自己負担上限額引き上げに対する上記のような全面的反対姿勢は、そもそもこの党の本来的な主張との親和性も高そうだ。政府の高額療養費制度〈見直し〉案をよしとしない人々の票の受け皿になるかどうかは、ひとえに、有権者がこの党の他の政策をどう評価するのか、ということ次第なのだろう。

  • れいわ新選組

 意外なことに、といっては失礼かもしれないが、党の衆院選サイト「れいわ新選組衆院選2026」にも、同サイトに格納されているマニフェストにも、高額療養費に関する言及はない。ただし、「がん患者や高齢者に負担を押し付けても、「現役世代の負担」は減りません。医療や介護こそ成長産業。国のお金を入れて、社会保険料は引き下げます。後期高齢者医療制度は廃止し、全額国費負担とします。これによって「現役世代」の保険料負担は大幅に軽減します」という関連記述がある。マニフェスト発表時の記者会見では、大石あきこ共同代表が、記者からの質問に「がん患者に負担を押し付けようとか、がん患者を始めとした高額療養費制度を利用している国民にもっと負担を増やしてもらおうという議論を、これ1年前から実際に予算委員会で始め、実際に予算にそれを乗せてこようとしたんですね」「そのような数百億円レベルのがん患者や高齢者への負担増をしても、現役世代の負担は減らないわけです」と言及している。

(筆者の印象)
 ある意味では共産党と同様で、高額療養費制度の〈見直し〉案に反対するという立ち位置は、党の主義主張全体との整合性が高そうだ。候補者はおしなべて〈見直し〉案に反対意見を持っている印象もあるが、党支持層以外の票を獲得できるのかどうかは、この党の他の公約に対する投票者の考えかた次第だろう。

  • 参政党

 衆議院選挙特設サイトに高額療養費に関する記述は一切ない。

(筆者の印象)
 党としてこの問題におそらく興味も関心もないように見受けられる。

  • 保守党

 党公式サイトに高額療養費に関する記述は一切ない。

(筆者の印象)
 参政党と同様で、この問題には興味も関心もないように思われる。

  • 減税日本・ゆうこく連合

 衆議院選挙の公約を発表していないため、不明。

(筆者の印象)
 ナシ。

  • 社民党

衆議院選挙特設サイトの公約欄に「高額医療費やOTC医薬品の自己負担増に反対」という記述がある。今回の候補者の中には、当初案が凍結に至る過程で反対意志を表明し、一時凍結後もこの問題についてSNSなどで発信を続けていた人物もいる。

(筆者の印象)
 共産党やれいわ新選組と同様で、自己負担引き上げ反対が党の姿勢と整合性があることはわかる。この問題を強く訴えて支持基盤以外の票を獲得できるかどうかについては、新選組や共産党の場合と同様で、党の他の政策への共感/違和感に大きく左右されるだろう。

  • チームみらい

 衆議院選のマニフェストで「現在検討が進められている拙速な上限額の引き上げは病気に苦しむ患者に対して未来に対する不安を煽る政策であり、断固として反対します」「高額療養費制度は、他国のような国民の医療破産を防ぎ、現役世代の労働力保全に寄与する極めて先進的かつ人道的な制度と言えます。昨今検討されている上限額の引き上げに関する議論は、闘病中の患者に未来への不安を抱かせるものであり、一方的で拙速なものとして強く反対します」、等々の豊富な記載がある。

(筆者の印象)
 今回の衆議院選で、〈見直し〉案への反対姿勢をいちはやく表明した陣営のひとつ。また、高齢者の医療費窓口負担3割化を提案し、他党がほぼ横一線状態で消費税減税を訴えているのと対照的に、引き下げ反対を明言している。安野党首はSNSや討論番組等でも、これらの事柄を明言し、この独自主張で存在感を大いに高めていることは間違いない。

※      ※      ※
 

 政府案として年末に閣議決定された予算案に含まれる高額療養費制度の〈見直し〉は、衆院選後に行われる通常国会で、この選挙で当選した議員たちにより議論されてゆくことになる。選挙で投票の判断基準となる論点や課題は、有権者個々人によって様々だろうが、高額療養費制度に関する各党の立ち位置は、ここまで見てきたとおりだ。政府〈見直し〉案の帰結に関心がある人は、投票行動の参考にしていただければ幸いである。

 第18回

関連書籍

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プロフィール

西村章

西村章(にしむら あきら)

1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。

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