対談

宗教票が日本の民主主義を破壊する!

『日本のカルトと自民党』刊行記念対談① 〈選挙と宗教〉
橋爪大三郎×有田芳生


統一教会より深刻な日本会議の影響力

有田 もうひとつ、今度は日本会議のことを伺いたい。本の中でも指摘されていますが、日本会議が出している新憲法大綱と、安倍元首相が提唱していた自民党の憲法改正案がそっくりだということ。緊急事態条項や、家族保護条項の追加、憲法9条の見直しなど、安倍さんの考え方と日本会議の方針がぴったり一致しているんですね。私は長いこと統一教会を取材してきましたが、統一教会が日本の政治を動かしているという見方は過大評価だと思っています。むしろこの憲法改正案を見る限り、日本会議のほうが政治的な影響力は強いと思うのですが、いかがでしょうか。

橋爪 集票力、政治への影響力ということで言えば、一頃の日本会議のほうがずっと大きかったと思います。日本会議は、谷口雅春という宗教家が創始した生長の家が母体なのですが、復憲論、つまり帝国憲法に復帰しましょうというのが谷口さんの考え方。その谷口さんが引退して、政治運動の実務部隊が生長の家の事務局を原点にしたグループ、集票構造を作った。それが日本会議です。そこで反発を招きやすい「復憲」ではなく、改憲として、復憲案に近いことをバラバラと箇条で提案していく。このやり方が安倍さんの考えとぴったり一致したのだと思います。

有田 私もそう思います。第一次安倍政権で新しい教育基本法ができて、第10条に家庭教育というものが入った。それをてこにして、2012年12月に、熊本県が初めて家庭教育支援条例を制定し、さらに鹿児島、静岡でも同様の条例ができて全国各地に広がっていきました。だけど、その実態を調べてみると、この条例の創案者は、国際勝共連合の熊本県本部の責任者なんですよ。彼らは前から家庭教育支援条例をつくって、各家庭に道徳の時間をつくろうなどと提唱していた。そこだけを見ると、統一教会がすごい力で日本の政治を変えているように見えますが、私はそれを過大評価だと言っているんです。もともと生長の家のメンバーの高橋史朗さんなどは、1970年代から統一教会系の機関誌にも常連執筆者として出ていて、統一教会の提唱はその受け売りだと私は見ています。

橋爪 統一教会と生長の家、日本会議は、別系統ですから関係がないと言えば関係ないです。でも、戦術面で一致できるところはあって、もしかすると共同戦線を組んだのかもしれない。社青同と中核派みたいな感じですか。政治の世界は、一致できるところは一致して合同したほうがパワーが強くなるので、そういう論理は働くと思います。

有田 1985年当時、天皇奉祝運動が活発に行われているときに、この間お亡くなりになった一水会の鈴木邦男さんなどが、国際勝共連合、統一教会は愛国団体ではない、非常に極端な韓国ナショナリズムなのだと厳しく批判して、右翼団体の人たちが、天皇奉祝運動から勝共連合を追い出したことがありました。けれどこの30年間、ほとんど統一教会に対する監視の目がなくなっていたことで、最近ではまた統一教会の古参信者が、堂々と演説している。そういう意味で、この統一教会と日本会議、生長の家との政治的な関係など、先生の今度の本で理解が広がってくれれば、統一教会への監視の目もより強化されていくのかなと思います。


統一地方選挙を前にはっきりさせるべきこと

橋爪 統一教会の政治力を過大評価することはないという点は、おっしゃるとおりだと思いますが、その危険性を看過してはならないですよ。
 統一教会は、ウイルスで言えば、生長の家や日本会議よりも毒性がずっと強いんです。ひとつは、メシアが現にいるという考え方です。メシアは政治権力より上にいるものです。統一教会の言い方だと、イエス・キリストがメシアとしてもう一回韓国人に生まれて、神の王国を地上で建設するという話でしょう。

有田 はい、信者はみんなそう信じています。

橋爪 つまり、信者は神ではなく、彼に従わなきゃいけない。これはもう普通のキリスト教ではなく、完全な権威主義的体制になるはずです。
 聖書に即して言うと、神は完全ではない。神は世界の設計図を95%までアレンジするけれど、最後の5%は人間の努力だと言っている。つまり、人間のできることを最大限やっても、最後は神のおぼしめしで、努力してもうまくいかないことはあるし、努力しなくてもうまくいくことはある。これがキリスト教の普通の考え方です。

 ところが統一教会に言わせると、うまくいかないのはサタンの罪に侵されているあなたが悪いということになる。その罪をあがなうには、どうすればいいか。うそをついてもいいから偽募金でお金を集めなさい、相手をだましてもいいから霊感商法でお金を集めなさい、ただ働きでも代議士の事務所に行って選挙を手伝いなさいなんですよ。そうやって根こそぎに人々のエネルギーとお金と資源、ありとあらゆるものを動員できる。

 こうやってかき集めたエネルギーが、落ち目でエネルギー不足の自民党にとても役に立っている。この持ちつ持たれつです。取りあえずは、統一教会から自民党への一方的贈与です。一方的贈与は、贈与された側に義務感を生むんです。その借りをつくったお返しとして、講演したりメッセージを送ったりと、その団体に協力して信者を集めたり、教勢の拡大に手を貸している。私に言わせれば、統一教会は反社会的集団ですよ。

 中には、何を間違えたか、政策協定まで個人的に結んでいる代議士もいる。これは国が乗っ取られる一歩手前とは言わないが、三歩か四歩手前ですよ。それなのに何の警戒もなしに危険な宗教団体と付き合っている。それが今の日本の政権与党です。これがどれだけ危険なことか、みなさんは理解しているんだろうかと、声を大にして言いたい。

有田 全く同感です。しかも、4月には統一地方選挙が全国で行われます。共同通信の調査では、昨年の11月の段階で、都道府県議の334人が統一教会と関わりがあって、その8割が自民党なんですよ。岸田文雄総理も、野党の追及があっても、建前的な答弁ばかりで、自民党の東京都連なんかは、候補者が多過ぎて調べようがないとか、神奈川県連も統一教会とは縁を切るという確認書を書かせてはいても、非常に及び腰なんですね。それだけ断ち切れない関係がもうできていると私は思っていますが。

橋爪 多分そうでしょう。ではどうするか。国会に責任があるのは、民主主義の原則からして理の当然のことですから、国会に対して市民が声を上げる。マスメディアが声を上げる。機会あるごとに声を上げる。そういうものなんだと思う国民が少しずつ増える。これがまず第一です。

有田 私もいろいろと働きかけてみます。

橋爪 お願いします。今度の選挙で何人立候補するか知りませんが、全員にマスメディアから、あなたは統一教会と関係ありますか、関係あるとしたら何と何かと聞く。関係ないと答えたら、もし当選した後でその事実が明らかになった場合は責任取れますかと、そういう質問状を作る。これを新聞社が個別にやると大変だから、理想的には、新聞協会が各社連名で統一の質問状を選挙前に作成して、立候補届出と同時に候補者全員に送るべきです。

有田 いい案だと思います。当選後に関係が明らかになったときは、約束通り責任を取ってもらう。

橋爪 過去のことは何食わぬ顔をしてしらばっくれても、今後は危ないから関係を断つしかない、リスクが大き過ぎると自民党議員が思えば、目的は果たせる。そうして市民もメディアも全力で日本の民主主義を守る。反社会的カルトに対するには、それしかないと思います。【了】


*統一教会(世界基督教統一神霊協会)は、現在は、世界平和統一家庭連合と名前を変えています。新聞などは「旧統一教会」と表記しますが、本稿では歴史を尊重して、統一教会(Unification Church) と呼ぶことにします。

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関連書籍

日本のカルトと自民党 政教分離を問い直す
改訂新版 統一教会とは何か

プロフィール

橋爪大三郎×有田芳生



橋爪大三郎(はしづめ だいさぶろう)

1948年生。社会学者。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。著書に『おどろきのウクライナ』(大澤真幸と共著)『中国共産党帝国とウイグル』『一神教と戦争』(中田考と共著)/集英社新書、『はじめての構造主義』『言語ゲームの練習問題』『ふしぎなキリスト教』(大澤真幸と共著)『おどろきの中国』(大澤真幸、宮台真司と共著)/講談社現代新書、『アメリカの教会』/光文社新書、等多数。


有田芳生(ありた よしふ)

1952年、京都府生まれ。出版社を経てフリージャーナリストとなり、主に週刊誌を舞台に統一教会、オウム真理教事件等の報道にたずさわる。
日本テレビ系「ザ・ワイド」等にもコメンテーターとして出演。
著書に『改訂新版 統一教会とは何か』(大月書店)、『統一協会問題の闇』(小林よしのりとの共著、扶桑社新書)、『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』(集英社新書)他多数。

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