『証言 沖縄スパイ戦史』 三上智恵著

沖縄戦から本当は何を学び取らねばならないのか

金平茂紀

 映画『沖縄スパイ戦史』を見終わった時の感慨を遥かに上回る、切迫感をともなうファクトの重みを喉元に突きつけられた。三上は活字ジャーナリズムの方が向いているんじゃないか(エラそうにごめんなさい)。米軍が上陸して地上戦があり夥おびただしい死者が出た沖縄戦といった、被害だけを前面に出した言説で、覆い隠されているものがないか。

 先の戦争末期、陸軍中なか野の学校出身の将校らによって沖縄で創設された「護郷隊」という少年兵部隊があった。そこに所属していた元少年ゲリラ兵たちの証言は、どれも昨日のことのように生々しく具体的だ。三上のインタビュアーとしての力量がいかんなく発揮されている。戦死した友人の手だけを切って持ち歩いた兵。部隊内での暴力支配。敗戦を決して受け容いれない強烈な洗脳。人を殺すのが山羊を殺すより容易という麻痺。兵士たちが「天皇陛下万歳」ではなく「お母さん」と言って死んでいったこと。隊員同士で向き合ってビンタをさせたこと。

 圧巻は、第4章の沖縄住民がスパイ容疑で虐殺された事件の調査報道部分だ。戦後、長い歳月が経過した後だから初めて口を開いた住民たちがいる。虐殺には日本兵だけではなく沖縄の住民も関与していた。集落の半数以上が親戚という環境が真実を残す作業を阻はばむ。三上は言い切る。〈スパイ虐殺の犠牲者を「戦死」と捉えたり、「戦争が殺した」と罪を霧散させる言い換えをすることは、事実を見誤る行為だと考える〉。

 護郷隊幹部の戦後史まで執拗に検証して、三上は思いを吐露する。〈戦争の罪、国家の罪というが、しかし操られ踊らされた個人は無罪なのか? 同じ日本人によって殺された命の意味を誰が救い上げるのか? 加害者を生み出したシステム……戦争の闇を切り開いて病巣を露にして提示しなければ、被害者も加害者も救われないのではないか? 私を突き動かしているのは、現場を歩いていて繰り返し沸き上がって来るそんな思いだった〉。激しく共振する。

 

かねひら・しげのり●TBS「報道特集」キャスター

(2020年 青春と読書3月号「本を読む」より)

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