ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。
腸閉塞で入院した当日、痛み止めの点滴で落ち着いたときに、ふと金玉(わたしのストーマの名前)を見た。金玉はピクリとも動かず、真っ白になっていた。「ストーマって色が変わるんですね」と看護師さん相手にぼやいたら、「そうなんですよ〜、もっと青黒くなったらヤバいかな」と教えてくれた。そうなのか。少し心配になった。
それからは、注意して金玉を見るようにした。金玉は日を追うごとにだんだんと動くようになり、そして彼ら(わたしのストーマは双孔式で、それぞれ独立して動くので2体いる感覚がある)の本来の色であるピンク色を取り戻していった。
シャワーついでにストーマ装具を交換したときは、お湯をかけてやると、うねうねと、とても気持ちよさそうに動いていた。うわぁ……と思う一方で、なんだか少し嬉しさもあって、彼らのダンスをしばらく眺めた。
昨日の夜は、ケホッと咳のような音を立てていた。苦しかったりするのだろうか。空気が出ているだけかもしれないけれど、また詰まってしまったらどうしよう。気になってしまって、もう寝ようと思っていたところを、目をこすりながらしぶしぶお手洗いへ立ってやった。立ったというより、立ってやったという気持ちだった。
わたしのコントロールが及ばない、謎の生き物がお腹から生えている感覚がある。見た目こそ褒められたものではないその生き物は、わたしの気も知らずにふよふよとイソギンチャクのように動きながら、大腸を休ませ、排泄を担い、わたしを助けてくれている。
昨日から始まるはずだった抗がん剤治療は、さすがに今の状態ではできないでしょうということで、来週6月18日から開始するスケジュールへと変更になった。治療が順調に進めばやがてストーマ閉鎖手術をされて、わたしのお腹へ帰っていく金玉たち。わたしが彼らにできることはあまり多くはないけれど、せめてストーマ装具を交換するときは、ウェットシートで拭くだけで済ませずに、ちゃんとお湯で洗い流してあげようと思った。
入院中は基本的にすることがないので、わたしはたまに入院着をペロンとめくっては、パウチ越しに金玉をツンとつついて遊ぶ。つつかれた金玉は、縮んでは伸びる「ぜんどう運動」を起こして反応する。金玉は硬いときもあれば柔らかいときもあり、大きさや形も日によってまったく違う。心なしか昼間はなんだかだらりとしていて、夜は活発に動いていることが多い。夜行性なのだろうか。消灯後は、スマホのバックライトでぼんやりと彼らを照らす。2体がふよふよと踊っているのを見ていると、わたしはなんだか愉快な気持ちになってくる。
(毎週金曜更新♡次回は12月20日公開)
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トップ画像は6月10日の夜ごはん、美味しくてテンションが上がった具なし茶碗蒸し。厳密には豆腐が入っているそうで、茶碗蒸しではなく「空也(くうや)蒸し」というらしい。食べかけで失礼します。
ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。
プロフィール
ライター
1985年生、都内在住。2024年5月にステージⅢcの大腸がん(S状結腸がん)が判明し、現在は標準治療にて抗がん剤治療中。また、一時的ストーマを有するオストメイトとして生活している。日本酒と寿司とマクドナルドのポテトが好き。早くこのあたりに著書を書き連ねたい。