腹から金玉 39歳、目が覚めたらオストメイト ep.10

病室のネームプレートはどのように色分けされているのか

2024年6月11日(火)の記録
かわむらまみ

ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。

イラスト/山本ひかる

腸閉塞による入院4日目、早くも暇を持て余しているかわむらです。今日は趣向を変えて、入院病棟の「ある謎」について推理ごっこをしましょう。暇なので。

ある謎……それは「病室の入り口にかけられているネームプレートは、どのような法則のもとで色分けがされているのか?」という謎です。ちなみに、先にネタばらしをすると、解けなかったので最終的に看護師さんへ聞きました。正解は記事の最後で。

病室のネームプレートは色分けされている

多数の入院患者を抱える病院では、どの部屋にどの患者が入院しているのかわかるよう、病室の入り口にネームプレートがかけられています。

ネームプレート? 名札? 表札?
とにかくこんなやつ。

わたしが入院している病院では、ネームプレートの横に、緑、黄、赤のいずれかの色がつけられています。色分けのルールは以下の通り。

・「緑」「黄」「赤」の3色が存在する
・色分けされている箇所は可動式で、色はすぐに変更できる
・ほかの病室も見たところ、色の割合はざっくり緑6割、黄2割、赤2割

わたしは10名で満床中の大部屋に入院しているのですが、病室のネームプレートはわたしを除く9名が緑で、わたしだけ赤。

……なんで?

色分けルールについての諸説

わからないことはインターネットの皆さまに聞いてみましょう。おもにYah○o!知恵袋を巡回したところ、大きく分けて5つの判断軸が浮上してきました。

1.緊急避難時の移送手段
2.病状
3.科や担当医
4.食事レベル
5.感染リスク

いや、さすがに5はないんじゃない? 何かのウイルスに感染している/するリスクが高い人とそうじゃない人を同じ病室には入れないでしょう。というか、わたしが赤であるということは、わたしの感染リスクが高いということになっちゃうよね。それはない……えっ、ないですよね……?

情報の整理

これを読んでいる皆さまにも色分けの謎を一緒に考えてもらうべく、判断に必要となりそうなこちらの情報を、多少のフェイクを交えてお伝えします。

【入院中の病室について】
・外科病棟にある10名の大部屋で、現在は満床
・回診で訪れる医師1名につき、同室の患者2〜4名を担当している(ような気がする)
・1人で歩ける方ばかり
・外科病棟の病室であるため、手術を控えている方、または手術後の方が大半
・がん患者は2名ほどいる気がする
・オストメイトはいない気がする

ちなみに、この部屋ではわたしが3番目に新しい入院患者です。患者同士のコミュニケーションは基本的にありません。

【かわむらについて】
・ステージ3の大腸がん患者、かつオストメイトである
・この病院には2度目の入院である
・今回は腸閉塞による緊急入院
・今回の入院で手術は行われていない
・現在は回復期にある
・食事は流動食
・1人で問題なく歩ける

色分けルールの考察

インターネットの先人たちによって浮上した5つの判断軸のうち、可能性が低いと判断した「感染リスクによる色分け」を除外して、4つの説の考察をしていきます。

【可能性1:緊急時の移送手段によって色分けされている】
災害や事件などの緊急時、車いすなのか歩きなのか、それとも担架が必要なのか、どのような方法で避難できる患者であるかを表しているという説。

かなり納得感のある色分けルールなのですが、だとしたら、わたしは赤にならないと思うんですよね。一人で歩けるし、なんだったらこの病室で一番元気なの、たぶんわたしだし。

もしかして、緑はやばい、赤は大丈夫! という、色から受ける印象の摂理に反したトリッキーな色分けをしているのでしょうか? さすがに考えにくいので、この可能性は低いと判断。

【可能性2:病状によって色分けされている】
病状、つまり病気の容態によって色分けされているという説。トリアージ(患者の緊急度によって診察や救命の優先順位をつける、おもに災害現場で使われる考え方)の識別色が、ネームプレートでも採用されているのでは? という説もあり。

色は、赤色(生命が危機的でいますぐ治療が必要)、黄色(処置までに数時間の余裕がある)、緑色(生命の危険がなく外来で十分)、黒色(すでに心肺停止状態だったり救命の見込みがない)の4色です。

千葉県公式ホームページより(ページ番号:336048/更新日:令和6(2024)年8月26日/「トリアージとは何のことですか。」)

いざというときのために病状を可視化しておくのは有効だと思うし、ルールに対する納得感は高め。

ただし、今回の入院は腸閉塞によるものであり、すでに回復期であること、大腸がんをベースとした色分けだとしても、現時点で容体が急変するリスクは低いことなどを考慮すると、わたしだけを赤にするのは、正直あまりしっくりこない。それとも何? もしかして、みんな擦り傷とかたんこぶとかで入院している感じ?

また、色分けという一見して判別できない方法であっても、患者の目につくところに「病状」「優先度」という超センシティブな個人情報を掲示するのはかなり問題があるはず。そのため、この可能性も低いと判断。

【可能性3:科や担当医によって色分けされている】
この科なら黄色、この先生なら緑などと、科や担当医をベースに色分けされているという説。しかし、この病院に内科・外科の混合病棟はなく、わたしは外科病棟の病室に入院しているため、科で色分けされている可能性はない……

って思ったけれど、よくよく考えたら、今回の入院でわたしは外科手術をしていないな? この人だけ実は内科の患者なので色が違いま〜す、ってこと……?

でも、緑が内科・赤が外科だとすると、ほかの病室も含めた緑と赤の比率を鑑みるに、外科病棟に入院している内科の患者がどう考えても多すぎる。あと黄色、お前はなんだ。

呼吸器科や消化器科、脳神経科、産婦人科など、詳細な診療科目で色分けされている可能性も頭をよぎったものの、どう考えても3色では足りないため、こちらも却下。

先生の受け持ちによる色分けの説についても、わたしの主治医は同室のほかの患者さんも診ているので、考えにくいところです。というか、仮にこの説が通るとしたら、同室の残り9名を診ている先生との業務バランスが悪すぎる。緑の先生の業務量が心配。

【可能性4:食事によって色分けされている】
たとえば絶食は赤、流動食は黄、普通食は緑などと、病院食の段階によって色分けされているという説。

これは大いにあり得る気がする。でも、だとしたら、わたしは黄なんだよな〜。もうわかんない! お手上げ!

色分けルールの真実

調べてもわからないことは看護師さんへ聞いてみよう。いつもしょうもないトピックで話しかけてすみません。

「病室の入り口にかけられてるネームプレートの横に、赤とか緑とか、色がついてるじゃないですか? あれ、なんですか?」
「ああ、あれは、火事とか地震とかが起きたときに、どうやって避難できる患者さんなのかわかるようにしてるんですよ〜」

なんということでしょう。この病院での色分けのルールは、サクッと流していた「可能性1:緊急避難時の移送手段によって色分けされている」だったのです。

看護師さんによると、色分けは以下に則っているとのこと。

・緑=自力歩行(独歩)
・黄=車いす、付き添いでの歩行(護送)
・赤=ストレッチャーやベッドでの移動(担送)

「なるほど〜! でも、そしたらわたしが赤って変じゃないですか? わたし全然1人で歩けますよ」
「えっ、赤になってました? ……あっ、ほんとだ! 緑に直しておきますね〜」

……ということで、正解は「緊急避難時の移送手段によって色分けがされているが、わたしは間違えられていた」でした。

そんなことあるんだ。

〜完〜

色分けのルールは法で定められているものではないため、病院ごとに運用が異なるようです。病院へ行く機会があれば、病室のネームプレートの色をチェックしてみてはいかがでしょうか。

ちなみに、この病院での患者の移送手段は、PC上では正しく管理されているとのことでした。本当〜?(気さくな看護師さんが多くていい病院です)

(毎週金曜更新♡次回は12月13日公開)

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写真は昨日の昼食。虚無ごはん、はたまたディストピア飯、あるいは概念。

 ep.09
腹から金玉 39歳、目が覚めたらオストメイト

ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。

プロフィール

かわむらまみ

ライター

1985年生、都内在住。2024年5月にステージⅢcの大腸がん(S状結腸がん)が判明し、現在は標準治療にて抗がん剤治療中。また、一時的ストーマを有するオストメイトとして生活している。日本酒と寿司とマクドナルドのポテトが好き。早くこのあたりに著書を書き連ねたい。

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