自民党の研究 動乱の保守政治に迫る 第三回

高市政権の内側で何が起きているのか

森 功

 高市政権の深層でいま何が進行しているのか。政治と権力の核心を追及し続けてきたノンフィクション作家・森功氏による注目の連載「自民党の研究」。対中強硬姿勢を前面に打ち出す裏側で、官邸内では側近同士の軋轢が表面化している。従米を基軸とした対外姿勢は混迷を深め、複雑な関係を多角的に解いていく「外交」を行う力量自体に疑問符が付き始めた。永田町の水面下で何が起きているのか。第三回は、高市政権を揺るがす「側近政治の限界」と外交迷走の実相に迫る――。

側近との亀裂が招いた政権の不安定化

 会員制情報誌「選択」の放った2026年4月号の特集記事『高市が「退陣」を口にした夜』が永田町を駆け巡った。かいつまんで説明すると、高市早苗内閣の官房参与である今井尚哉をはじめとした首相周辺の〝側近〟たちと高市本人が衝突し、政権が揺らいでいるという記事だ。前回でも報じたように、高市と今井の行き違いの初めが衆院の早期解散・総選挙を巡る日程の食い違いである。
 早期解散論者だった今井は、昨年12月から経産省時代の先輩官僚である元資源エネルギー庁長官の高原一郎などを連れ、自民党の国会議員に選挙の根回しをしていた。高原と今井はともに原発再稼働推進派の官僚であり、気心も知れている。その二人が自民党議員に衆院の解散・総選挙をほのめかすものだから、不安に感じてきた衆議院議員も少なくなかった。ある中堅幹部はこう振り返る。
「自民党総裁選で推薦人として総理を担ぎ上げた松島みどりなどは昨年末、高市さん自身に『年末年始に海外に行こうと考えていますけれど、問題ありませんか』と尋ねたといいます。解散があれば選挙準備に入らなければならないので、そう聞いたわけです。すると高市総理は『安心してどこへでも行ってください』と答えたみたい。その手の話が他の議員にも伝わり、『年明け早々の解散はない』と誰もが考えるようになっていたのです」
 今井が高市に提案してきた1月9日の通常国会召集と同時の冒頭解散、25日投開票が消えた背景には、こうした裏事情があったという。高市が今井の提案を受け入れず、ここから二人のあいだにズレが生じていったといえる。

首相補佐官兼秘書官として安倍晋三元首相を支えた今井直哉氏(写真左)。写真:毎日新聞社/アフロ

強硬姿勢がもたらした対外関係のひずみ

 もっとも二人のズレはこれだけではない。もう一つが高市の台湾を巡る存立危機事態発言だ。政界では高市外交について、第二次安倍晋三政権との違いを指摘する声が少なくない。安倍は「ドナルド」「シンゾ―」と互いにファーストネームで呼び合った米大統領トランプとのゴルフ外交で知られた。半面、中国総書記の習近平が進める経済圏構想「一帯一路」政策にも協力する姿勢を見せた。安倍を慕う高市もまた首脳会談で「ドナルド」と呼んだ。が、対中関係は自らの存立危機事態発言のせいでこじれてしまう。周知のように今もって改善の兆しが見えない。そこに苛立った今井が高市に対し、台湾海峡の存立危機事態発言の撤回を求めた。
 高市に対するその助言の裏には、今井なりの成功体験がある。第二次安倍政権後半の2017年5月のことだ。安倍政権内では、自民党幹事長の二階俊博の訪中を巡ってひと悶着あった。親中派として知られる二階は自民党の幹事長時代に毎年のように訪中し、このときは一帯一路政策を進める習近平と直接会う段取りをつけた。そこでアジアインフラ投資銀行(AIIB)の協力を約束する中国国家主席宛ての首相親書を持参した。
 通常、この手の外交親書は外務省が草案を書き、官邸にいる外務省出身の事務秘書官を通じて首相に親書の中身の確認を求める。事実上、外務省が書く内容を煮詰め、最終的に外務大臣の決裁を経て首相が了承する運びだ。
 しかしこのときは違った。米国との関係を重視してきた外務省としては、中国の一帯一路政策に全面協力するような親書など起草できない。したがってそれなりの曖昧な表現にとどめてきたようだが、それを今井が書き換えて二階に託したのである。

「二重外交」の遺産とその限界

 第二次安倍政権の外交は2ルートが存在した。従来の外務官僚が相手国の首脳との面談日時やスケジュールを準備するケースとは別に、経産省出身の今井尚哉政務秘書官や国交省出身の和泉洋人首相補佐官たち官邸官僚によるルートがあったといわれる。前者の外務省ルートでは、第二次安倍政権で新設された官邸内の国家安全保障会議(NSC)とその事務局である国家安全保障局(NSS)の初代局長に就いた谷内正太郎が中心となり、古巣の外務省とともに段取りしてきた。だが、この二階訪中では谷内の知らないあいだに、対中親書が書き換えられていたのだから、外務省サイドが怒るのは無理もなかった。谷内は今井に直談判したが、今井は平然と言ってのけた。
「総理の意向です」
 憤った谷内がNSC局長の辞任を漏らし、辞表を書いたと伝えられるが、当時の今井にこのときの状況を聞くと否定はしなかった。
 経産省出身の今井自身は、小泉純一郎政権で経産大臣を務めた二階とも近く、対中外交に関するバランス感覚があるとされ、「総理の分身」と異名をとった今井がこの出来事によって政策に自信を深めたのは間違いない。
 一方、今井を頼って今の政権をつくった高市は、対中外交でその助言を受け付けなかった。というより、嫌中派の保守層を岩盤支持層にして高い人気を誇る当人にとって、中国にすり寄る外交はタブーなのかもしれない。
 昨今、安倍と高市の政権は似て非なるものだという指摘をしばしば耳にするようになった。高市政権に足りないところは、信頼する政策ブレーンが見あたらない点であろう。今井との亀裂は、まさにそこを象徴しているように感じる。
 ただし、官邸官僚たちが振り付けてきた第二次安倍政権の政策がうまくいっていたかといえば、それも甚だ疑わしい。外交に関して言えば、安倍は米国や中国だけでなく、対露外交にも力を入れてきた。「シンゾ―」「ウラジミール」と呼び合う姿もまた、幾度となく見てきた。あたかもウラジミール・プーチンが日本に北方領土を返還してくるかのように報じるマスコミもあった。が、むろん実現してない。
 それでも第二次安倍政権が選挙に連戦連勝し、7年8カ月もの長期政権を築けたのはなぜか。リーマンショックや東日本大震災に見舞われて右往左往した旧民主党政権のあとだったという運が働いた側面があるに違いない。選挙のたびに首相が持ち出した「日本をダメにした悪夢のような民主党政権に戻すのか」というキャッチフレーズが有権者にウケた面も否めない。また超低金利を続けたアベノミクスなる放漫財政により、企業業績があがって見せかけの国内総生産が膨らんだ。
 しかし、今はむしろアベノミクスの失敗を指摘する声が多い。日本に格差が広がり、国民にアベノミクスのツケがまわって二進も三進もいかなくなっている。旧安倍派の政治とカネのあと処理を担ったはずの石破茂もまた、打つ手を見いだせずに立ち往生した。そんな薄気味の悪く先行き不安な日本社会に登場したのが、高市早苗といえる。
 高市人気はネトウヨに支えられるといわれる。が、選挙の分析を見る限り、60代以上の高齢者層も票を投じている。その人気の根っこは日本初の女性宰相という漠然とした期待であり、保守派の日本人の多くが抱く嫌中感情ではないだろうか。わけても高市が内閣官房参与に迎え入れた今井の助言を聞き入れられないのは、中国に対する単純な強硬姿勢を崩したときの恐れを抱いているからではないだろうか。
 対米外交では安倍がトランプにすり寄ったように、高市もそれに倣った。だが、高市には複雑な利害関係の絡む世界状況が念頭にあるわけでもないように感じる。ある元外交官が指摘した。
「トランプ大統領が一次政権で包括的共同作業計画(JCPOA)というイランとの核合意の枠組みから離脱し、ペルシャ湾に緊張感が高まった2018年6月、安倍総理が(イランの最高指導者)ハメネイと会談し、両国の仲立ちをしたと絶賛されています。もっともあのときは、トランプの了解を得ていたというか、米国サイドから頼まれたからに過ぎない。第一次トランプ政権では、ユダヤ系のトランプの娘婿であるクシュナーが対イランの窓口として機能していて、ハメネイとの関係も良好だったので、安倍総理に花を持たせたのだと思います。しかし、さしたる成果はありません。ハメネイ亡き今の状況では、クシュナーがイランの交渉役を果たせなくなり、高市総理は何もしていません」
 安倍のイラン訪問も当人の手柄というより、米国の事情がそうさせただけであろう。ここへ来て、パキスタンを仲介役とした米国とイランの交渉役に副大統領のジェームズ・デイヴィッド・バンスが登場しているのも、ハメネイ亡きあとの状況の変化があるからだ。
 トランプはイスラエル首相のネタニアフに唆され、イランとの本格的な戦争に踏み切った。そこでは、もとより日本の首相である高市などは蚊帳の外である。
 冒頭で触れた情報誌「選択」によれば、高市は先の日米会談の手土産として、ホルムズ海峡の自衛隊派遣を用意しようとしていたという。そこに待ったをかけたのが今井であり、「何を考えているんだ」と恫喝され、派遣を引っ込めたと報じられている。高市自身はこの報道について国会で問い質されてすぐさま否定し、今井も週刊文春に答える形で高市に歩調を合わせている。だが、高市に近い自民党議員に聞くと、二人のコメントは鵜呑みにはできないという。
「今井さんが官邸の総理執務室に乗り込んでやり合ったとなれば、情報源は自ずとわかる。今井さんと今井さんが首相の政務秘書官に推薦した飯田(祐二)くらいしかその場に居合わせていないことになります。だから当事者として否定するのは当然でしょう。あるいは総理執務室の出来事ではなかった可能性も指摘されています。いずれにせよ高市さんと今井さんのあいだに強烈な隙間風が吹いているのは間違いありません。こと外交でいえば、外務省も高市さんに気遣い、動けていないのが実情です」

迷走する対米外交と機能不全の官邸

 日米首脳会談では、外務省がかなり綿密に情報を収集して会談に臨んだことになっているが、実情はお寒い限りのようだ。元外交官が分析する。
「米国政府にはいろんな役所があって大使館の連中はいわゆる局長クラスとか次官補クラスと付き合っています。けれど、山田(重夫)大使のところには、まったくその情報が入ってこない。大使館だけでなく、国務長官兼 NSC 補佐官のマルコ・ルビオのカウンターパートである日本のNSC局長である市川(恵一)さんのところにも情報が降りてこない。だからどうしようもない、とぼやいています。要するに米国では、ホワイトハウスの一部で決めたことが公式見解として発表されるだけ。それはまさにトランプが言ってることと同じ発言でしかないそうです」
 首脳外交では通常、政策の決定事項が発表される過程の情報をつかまなければ対処できない。しかし、当の米政府の役人でさえそれを知らないのだから、日本政府もお手上げだというのだ。
「つまり米国では各省庁が重要な政策決定に関与してないのです。大事なことはトランプとその周りの 5人で決め、それを発表するだけらしい。5人は国務長官のルビオや副大統領のバンス、 NSCのナンバーツーで大統領次席補佐官のスティーブ・ミラー、国防庁長官のピート・ヘグセス、それに大統領補佐官のスージー・ワイルズというあのおばちゃんです。 といっても、事実上はトランプが独断で物事を決め、側近たちはそれに従うだけ。ワイルズは唯一トランプに遠慮せずズケズケとモノを申せる人物で、第一次政権のときから選挙戦略を練っています。もっぱら演説の段取りをし、トランプも彼女の話には耳を傾けるそうですけれど、内政担当の補佐官だから外交関係は埒外です。とくに外交面のトランプ政権は王様一人が決める独裁体制となっていて、バンスは当初イランとの戦争を止めようとした挙句、トランプに嫌われて関係がギクシャクしている」
 なにやら日本の高市政権と似ている。ワイルズは自民党事務総長の元宿仁のような存在として、MAGA派をはじめとした大統領の支持率を細かく分析し、トランプから頼りにされているという。
 高市内閣では政権発足当初、外務官僚の市川恵一の国家安全保障局長抜擢が話題になった。在米日本大使館の筆頭書記官や公使を歴任してきた市川は、外務省親米派のエースとして知られる。旧民主党政権時の枝野幸男、藤村修という両官房長官の事務担当秘書官として官邸入りし、2012年12月に自民党が政権に返り咲くと同時に、菅義偉の官房長官秘書官となる。安倍から菅に政権が移る直前の2020年7月には北米局長に昇格している。
 その市川は元JR東海会長の葛西敬之からの信頼も厚かった。運輸族議員としてJR東日本と近く、ライバルのJR東海とは縁の薄かった官房長官の菅をリニア中央新幹線の実験線走行に招き、葛西との縁をつないだパイプ役とされる。
 そして安倍を師と仰ぐ高市は2025年10月21日、石破茂内閣でインドネシア大使となったばかりの市川を引き戻し、国家安全局長に起用した。大使就任期間わずか5日という前代未聞の強引な人事は、霞が関の評判となった。実際、この人事のせいでしばらくインドネシア大使が空白となる。
 なぜそこまでしたのか、高市本人がそれほど市川を信用しているか、といえば、そこは疑問としか言いようがない。前述したように第二次安倍政権では官邸官僚と外務省ルートの2つが存在したため、互いに手柄を競い合う場面も見られた。外務省ルートの中心である国家安全保障局は、安倍・菅政権時代に谷内からいったん警察庁出身の北村滋へ移り、岸田文雄政権で元外務事務次官の秋葉剛男へ戻った。石破政権の2025年1月に同じく元外務事務次官の岡野正敬へと引き継がれたが、高市は政権発足と同時に市川を国家安全保障局長に据えたため、岡野はわずか10カ月足らずで辞任する結果となる。インドネシア大使からの国家安全保障局長への登用も異例中の異例といえた。その市川に対する外務省関係者の評価は悪くないが、高市政権で機能しているわけでもなさそうだ。
「市川さんは外務省本流の親米派を歩み、菅さんに気に入られていました。高市さんは安倍政権で菅さんのあとに総務大臣に起用されたけれど、実のところ総務官僚たちが菅官房長官に気遣ってその指示に従うので、高市さんはむくれていました。それで高市さんは菅さんのことを毛嫌いするようになりましたが、市川さんは柔軟なので、そこをうまく立ち回っていました。高市政権で重宝されているのは、市川さんが高市さんに気に入られているから。彼のキャラクターに負うところが大きいのではないでしょうか」
 事実、市川は高市政権の発足以来、対米外交の要としてルビオ国務長官のカウンターとなり、新聞各紙の報じる首相動静にも毎日のように彼女との面談記録が残っている。また同じ外務省の親米ラインで市川の先輩にあたる秋葉もまた、外務省の特別顧問として政府に残り、陰ながら米国交渉を担っている。
 ただし、相手はあの米大統領だけに厄介だ。なにより肝心の高市本人の外交手腕に大きな不安が残る。先の3月19日の日米首脳会談でも、あまり話題に上らなかった場面がある。外務省関係者が次のように振り返った。
「首脳会談では、高市さんの歯の浮くようなゴマすりばかりがクローズアップされたけれど、そのあとのほうが問題でした。高市さんが晩餐会でX JAPANの曲に合わせて米軍の音楽隊の前でダンスを踊って顰蹙を買ったシーンがあったでしょう。その晩餐会の第1テーブルでは高市さんがトランプの隣、トランプの隣がソフトバンクの孫正義さんという並びでした。トランプは孫さんが大好きだから民間のゲストとして自分の隣の席を用意させたんでしょうね。で、外務省としては高市さんに、『あくまで社交の場だから、軍事的な話は避けてください』とクギを刺していた。トランプなら孫さんに何でもしゃべってしまうから。イランの状況、なかんずく高市さんは自衛隊の派兵問題などをうっかり話してしまう危険性があるので、そこだけは神経を使ったわけです。それはそれでよかったのですが、あのダンスはやりすぎでした」

2026年3月19日、ホワイトハウスの晩さん会での高市早苗首相とトランプ大統領。 写真:ロイター/アフロ

 外務省関係者はさらにこう言葉を足した。
「実は晩餐会の第2テーブルには茂木(敏充)さんと副大統領のバンス、市川さんたちが座っていました。茂木さんは音楽隊の演奏で会話がかき消されるのをいいことに、バンスとイラン問題で突っ込んだ話をしたようです。つまり日米会談は事実上、茂木さんとバンスが取り仕切った。それを茂木さん自身が周囲に漏らしているのです」
 外務大臣の茂木にしてみたら自分自身を売り込むチャンスととらえたのかもしれないが、イラン問題の日米外交で〝主役〟になった茂木は、高市政権でかつて自らの外相秘書官を務めた山田重夫を駐米大使に送り込んだとされる。トランプ政権ではその山田もいま一つ機能していないが、茂木はポスト高市を睨んでいる、ともっぱらだ。

統治なき政権の行き着く先

 畢竟するに高市政権の内部事情は、ガバナンスが欠如し、支える幹部たちがバラバラに動いている感がある。その象徴が会員制情報誌「選択」の記事にあった内閣官房参与の今井や自民党政調会長の小林鷹之との亀裂だと見る政府関係者は少なくない。
 複数の自民党議員に聞くと、高市は真剣に日本の自衛隊のホルムズ海峡派遣を考えていたフシがあり、今井だけでなく官邸の幹部や外務省が心配していたようだ。そんな日米首脳会談をはじめとした高市外交の評価について、自民党政調会長特別補佐の鈴木英敬に「選択」の記事は事実かどうかを確かめるべくインタビューした。さすがに「選択」の記事についての判断はせず、トランプ対応などについて次のように分析した。

取材に応える鈴木英敬氏。撮影:筆者

「あの日米首脳会談は、とてもうまくいったと考えています。総理はずっと事態の早期収束を訴えてきましたので、トランプ大統領との会談でもそれを言いつつ、わが国としての立場も伝えています。イランのアラグチ外務大臣にどこまで力があるのかわからないけれど、日本にはイランと特別な関係があります。なので、茂木外務大臣を中心にヨーロッパとの関係を強めながら、G7が一体となって向き合っていく形をとれている。そういう形を引き続きやっていくことが大切ではないでしょうか」
 加えて、トランプ外交一辺倒ではだめだ、とこう続ける。
「僕はヨーロッパとの連携を非常に重要だと考えています。グリーンランド問題をはじめNATO(北大西洋条約機構)内で米と欧州に溝が入っているなか、ヨーロッパの首脳はしきりに中国の北京詣でをし、放っておくと米欧の溝がさらに広がって欧州がより中国と近くなる可能性があります。その一方で、フランスのマクロン大統領などヨーロッパの首脳が日本を訪問してくれています。そのあいだを取り持つ形で、日欧がしっかり連携し、日本が米との橋渡しをして事態の早期収束に向かって力を合わせる環境を作っていく必要があります。あともう一つはフィリピンやベトナムなどASEAN と連携しながら、日本が能動的・主導的に外交戦略を立て、トランプ大統領と対峙していくことが大事だと考えています」
 とはいえよくよく見ると、ペルシャ湾情勢における高市外交の成果など何も見あたらない。目下、米国はパキスタンを介した停戦を模索しているが、高市政権がそこで何らかの役割を果たした形跡もない。外交上、どこが進展したのかさっぱり見えないのである。早晩、日本国内も混乱していくのではないか。
「日本でいえば年内いっぱいの原油の確保はできていますが、(与党の)イラン関係の合同会議でも国民へのメッセージとして具体的なデータで大体ルートなどを示すべきだと申し上げました。たとえば石油はサウジアラビアやUAE 、アメリカやアゼルバイジャンなどからいつまでにどのくらい調達できるか、そこに応じてどのくらい備蓄を放出しないといけないか、と一定の具体的なデータを示し、場合によっては行動変容が必要といったメッセージを国民に早期にお示しする必要があると思います。そのロードマップは大事でしょうね」
 常識的に見て原油価格の高騰が長引くのは誰の目にも明らかだ。なのに、国内の政策でもさしたる手を打っていないのが実情ではないか。
 高市は独断で物事を決めるきらいがあり、出てくる政策や国会運営が無理筋に感じる。限られた側近以外は首相執務室に入れないと「選択」に書かれている事実はないのか。鈴木自身が高市本人と会って助言することはあるか。そこも尋ねた。
「私自身、あの場にいたわけでもないので、『選択』の件はわかりませんが、私は自民と維新が提出した副首都構想の実務者協議の事務局長をしています。それで新聞の首相動静欄にも私の名前こそ出てないけれど、実は3月31日には総理の執務室で直接お会いしました。法案骨子で合意したので報告に行ったのです。そのときの総理はすこぶるお元気でしたし、笑顔もありました。木原稔官房長や尾崎正直官房副長官とお話をさせてもらうことが多く、官邸内は意思疎通がなく、風通しが悪いように書かれます。けれど、お二人は総理のご意向やお考えを的確かつリアルタイムで受け取っておられる感じがします」
 本稿で書いてきた通り、木原や尾崎たちは高市の受け入れる限られた側近でしかない。問題は、首相が各省庁の幹部から政策面でのアドバイスを受け付けないところである。
 イラン情勢を含めた話に戻すと、高市外交では政権発足当初から始まったパフォーマンスから何も進んでいないではないか。その点について元外交官が苦言を呈する。
「高市さんは昨年10月に首相就任早々にASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議でマレーシアに行き、今年3月に訪米してトランプと会いました。それらは石破政権時代から予定されていた外遊で、彼女のパフォーマンスが国民にウケたに過ぎません。しかし、そのあとの韓国の李在明や仏のマクロン、インドネシアのプラボウといった首脳たちとは、みな日本国内で会っています。外務省は高市さんが外遊嫌いだとわかっているから、外遊日程を入れないようにしているようです。高市さんはヘビースモーカーなので海外でタバコを吸えないストレスもあり、それに加えて脳梗塞の後遺症がある夫の山本拓さんの介護という理由もあり、日本から2泊以上離れられないらしい。それでは中東の湾岸諸国を歴訪できません。安倍総理は第一次トランプ政権時にイランのハメネイに会いましたけれど、そんな発想はハナから彼女にないでしょう」
 高市は夫の介護を自ら明かし、周囲に風呂に入れなければならないので夕方に公邸に帰宅しなければならないと話しているという。が、それと外交が別問題なのはいうまでもない。米国のイラン攻撃を国際法違反の疑いありと指摘し、ローマ教皇のレオ14世に対するトランプの誹謗を批判するイタリア首相のジョルジャ・メローニの外交姿勢と高市外交が比べられるのは、むべなるかなである。
 高市早苗はかねてより持病の関節性リューマチを公表し、2月の総選挙以来、右手に保護手袋をつけたまま国会に臨んでいる。小食なうえショートスリーパーなので永田町や霞が関で健康不安も囁かれている。「選択」の記事ではないが、そうした事情もあり、先に触れた茂木のみならず、ポスト高市の行方が注目されるようになった。意外なところでやる気を囁かれているのが岸田文雄だ。日本・イラン友好議員連盟会長の岸田はさる3月24日の総会で自民党議員たちを前に言った。
「あらゆる外交チャンネルを駆使して解決に向けて汗をかかねばならない。日米同盟を基軸にバランスをとりながら、国益をどう守っていくのか」
 総会には岸田と旧知の駐日イラン大使ペイマン・セアダットも招かれ、評判になった。参加者の一人が打ち明ける。

2023年9月20日、ニューヨークでイランのエブラヒム・ライシ大統領と会談する岸田文雄元首相。提供:Iranian Presidency/ZUMA Press/アフロ

「第二次安倍政権で外務大臣を長く務めた岸田さんは、多くの外交団体の代表をやっています。日本イラン議連の会長もその一つで、イランとのパイプがあるのはもちろんですが、日仏友好議連の会長もやっています。だからマクロンは高市総理と会ったあと、岸田さんと会談しているのです。つまりマクロンもイラン問題で岸田さんと会う必要があるからそうしたでしょう。なぜ、高市総理はそれがわからないのか。元総理の議員外交として、高市さんが岸田さんを特使に立てるべく、岸田さんに頭を下げればいいのですが、それもできない」
 1994年の核開発問題で米元大統領のジミー・カーターが北朝鮮主席の金日成と会談したように、元国家元首による外交は枚挙にいとまがない。だが、政治基盤の弱い現職首相としては、手柄を持っていかれる恐怖感が先に立つのかもしれない。岸田に野心の腹づもりがあるかどうはさておき、外交手腕には一定の評価もある。
 高市は「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想を打ち出しているが、これも岸田が第二次安倍政権の外務大臣時代に打ち出した政策であり、岸田政権でも継続してきた。公益財団法人「日印協会」の会長は安倍から引き継いだ菅義偉が務めてきたが、菅の政界引退により、このポストが宙に浮いている。そこに岸田を持ってくる案も浮上し、岸田の存在がクローズアップされている。
 高市にとってはますます岸田を脅威に感じているのかもしれないが、そんな悠長な事態でもない。ことほど左様に不安定な政権といえる。(敬称略 つづく)

 第二回

プロフィール

森 功

(もり・いさお)
1961年、福岡県生まれ。ノンフィクション作家。2008年、2009年に「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」受賞。2018年『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』(文藝春秋)で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞。『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』(東洋経済新報社)『国商 最後のフィクサー葛西敬之』『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』『地面師vs.地面師 詐欺師たちの騙し合い』(講談社)他著作多数。

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