対談

ブレインチップ、不老不死、人工視覚……なぜテクノロジーとオカルトが近づいているのか?角由紀子と読む『機械ぎらい』

速水健朗×角由紀子

不老不死を目指すピーター・ティール、電磁波を嫌う陰謀論者、ブレインチップの普及を予言するスピリチュアル界隈――。

巷には、眉唾もののオカルトや陰謀論が無数に存在するが、それらの背景にはテクノロジーが深く関わっているのをご存知だろうか。一見、相反するように見えるオカルトとテクノロジーだが、史実を紐解くと密接に絡んでいる。

前編に引き続き、3月に『機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史』を上梓した速水健朗氏と、オカルト研究家の角由紀子氏が対談する本企画。なぜオカルトとテクノロジーが結びつくのか、技術革新が起こるたび社会はどう変化してきたのか、将来的に人間はどこへ向かうのか。両者が語り合う。

(速水健朗『機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史』集英社新書)

ログインパスワードの管理できない問題

速水 毎年、確定申告の時期になると、ログインせずに放置していたサブスクが見つかるんです。ここ最近だと、日経新聞の電子版に加入していたことを忘れていて、知らぬ間に月額料金が引き落とされていたんです。

 日経電子版だと月額4200円ぐらいなので、溜め込んでいたらかなりの金額になりますよね。

速水 そうなんです。先日、80代で亡くなった親戚がいたのですが、その方は1つもサブスクに加入していなかったので、デジタル遺品の整理も滞りなく済んだそうなんです。

これが現代になると、そうはいかないじゃないですか。サブスクや銀行口座など解約するサービスが多々あって、全部ログインパスワードを記憶しておかないといけないと考えたら、管理する難易度は格段に上がります。現代人が使用しているパスワードは、100以上あると言われているぐらいですし。

 遺族以前に、そもそも本人が把握していないですよね。私も以前、ランダムに設定していたパスワードを忘れて、あらゆる金融サービスにログインできなかった時期があるんです。面倒で放置していたら、今度は三井住友銀行が新しいサービスの案内が来て、アカウント新設したら余計に混乱しちゃって……

速水 パスワードを一元管理するサービスもありますが、そもそもブラウザが信用できるのかという問題もありますよね。

だから僕、パスワードは紙で記録しておくべきか、ブラウザに紐づけておくべきか、AIに聞いてみたんです。そしたら両方良くないと返ってきて。紙は盗難や覗き見されるし、ブラウザはハッキングのリスクがあるので、どっちつかずということらしいです。最近はパスキーや顔認証に置き換わって、便利になっているように見えつつも、端末を紛失したらどうなるのかという懸念もありますし。

 私の場合、ログインの手続きが楽になりすぎると、浪費に歯止めが効かなくなってしまいそうで。

速水 わかります。それで軽い気持ちで加入していくうちに、サービスに契約したことを忘れて、確定申告で休眠していると気づくんですよ(笑)SNS全盛の時代に、短期記憶が失われていく状況下で、知らぬ間にものを購入しているという。

角 真相は定かではないんですけど、知人がGoogleと共同で、記憶力を治す薬を開発してるらしくて。これが本当だったら究極のマッチポンプで面白いなと(笑)

速水 紙もブラウザもパスワードの保管に向いていないなら、物理的に人間の記憶力を上げるしか策はないと(笑)

だから結局のところ、テクノロジーが進化するほど、手続きなどの管理が煩雑になっていくわけですよ。『ブルシット・ジョブ―クソどうでもいい仕事の理論』(岩波書店)の著者であるデヴィッド・グレーバーも、同様のことを指摘しているんです。企業がDXを推進しようとした結果、IDとパスワードの登録やログイン、2段階認証の手続き、システムの操作や新しい管理業務などが発生し、皮肉なことに非効率になっていくと。

(速水健朗氏)

19世紀パリで起こった「冷蔵庫破壊運動」とは

 デジタル化や業務効率化って言われる改革って、誰のためなんだろうって思いますよね。

速水 身近なところで言えば、マイナンバー制度もそう。とにかく手続きが複雑で、暗証番号にいたっては4種類も設定しないといけない。行政のお世話になるのは、転居や確定申告など限られた機会なのに、そのためにマイナンバーを使うのは労力が見合っていないわけですよ。何のための仕組みかわからないものに、国の予算が投入されているという。

 私もマイナンバーカードは、断固として反対派でした! 「これは悪魔の契約だ、いくら血税が注ぎ込まれているのか明細はあるのか」と記事まで書いたりしていて。

先にも言いましたが、私もそのケがあるのですが、陰謀論者やスピリチュアルに傾倒されている方って、デジタル反対派が多いんですよ。いわゆる一部の企業や政治家が、世の中を支配しているという不信感に結びつきやすいんですね。自分たちの思い通りにいかないうえに、なぜ「同意や確認もなく勝手に導入されているのか」と反発を抱きがちなんですけど、周りがみんな使っているから従うしかないという。

速水 過去の歴史を見ても、テクノロジーってなし崩しに普及していく構造にあるんですよ。

『機械ぎらい』でも触れたのですが、19世紀にイギリスで鉄道が開通し始めた当初は、かなり風当たりが強かった。騒音や景観破壊を懸念する声に、詩人や美術評論家などの文化人が「移動が効率化されることで旅情や風情が失われる」と異を唱えていたんですね。それが一転、大衆側が利便性を求めて利用し始めるようになり、一定の利用者を超えると必要不可欠なインフラとして定着していく。

マイナンバーカードのように、本当に必要か疑問に思う制度も同じなんですよね。導入時は、逆効果だと異論を唱える声が多かったものの、いまや保有率が8割に届いたとも言われている。選挙のようにはっきりコンセンサスが確認できるわけでなく、世論もぼやっとしているからこそ、いつの間にか日常生活に入り込んでしまっている。

 たしかに今は、マイナンバーカードを持っているのが、当たり前な雰囲気すらありますよね。

速水 Twitterが出てきた頃も、ブロガーからは「短文で何が伝わるのか」と不評だったんですよ。それが時代の波に飲まれると、Twitterがない時代にどう過ごしていたのかすらうまく思い出せないじゃないですか。

実は『機械ぎらい』で書きたかったのも、テクノロジーが浸透するまでに、世の中でどのような軋轢があり、それに人々がどう対応してきたのかという過程なんです。

例えば、19世紀後半のパリでは、冷却した野菜を売る青果店に対して、民衆が冷蔵庫を引きずり出して燃やす「冷蔵庫破壊運動」が起こったんです。当時は、人工的に作物を冷やすという行為が、今でいう遺伝子組み換え作物に近いような忌避感があったそうなんですね。あとは産業革命期のイギリスで、仕事を奪われる職人らがラッダイト(機械打ち壊し)運動を起こしたりと、いま普及している機械も洗礼を受けているんですよね。

 最近のスピリチュアル界隈では、ここ10年以内にブレインチップが浸透していくだろうと言われているんです。おそらく導入段階では、安全性の懸念や、非人道的だという批判も出るのでしょうが、それも次第に収まっていくんでしょうね。

(角由紀子氏)

オカルトとテクノロジーの関連性とは?

速水 新しいテクノロジーが入り込む黎明期は、未知のものに対する軋轢や畏怖のような感情が付きもので興味深いんですよ。いま振り返ってみると、オカルトチックで荒唐無稽に聞こえるんですけど、人間の本質が垣間見えるような気がしていて。

そう考えると、テクノロジーの発展は、オカルト的な思考と深く結びついていると思うんです。エジソンといえば蓄音機や映写機の発明で有名ですが、晩年は死者の声を聞く「霊界通信機」の制作を構想していたと言います。生きている人の声は聞けるから需要がないし、それなら死者の声を拾える発明に商機があると考えたんですね。

遡れば、モールス信号もこっくりさんの交信に使われていたし、ラジオもどうやって死者とコミュニケーションを取るかが開発時の議論になっていて。要は、新しいメディアが登場するたびに、霊界との通信を試みる試行錯誤が見て取れるんですよね。

 言われてみれば、メディアも霊媒師も、媒介するという意味では同義ですもんね。

速水 そういう意味でも、「メディアの変遷」と「オカルト的な発想」って近しいと思っていて。見えないものを見たいとか、死者とつながりたいという根源的な欲求が、新しい技術やオカルトを生む原動力になっていると思うんです。カメラというテクノロジーが生まれたからこそ、多くの人が心霊写真を撮ろうと躍起になったわけですし。

 それで思い出したのが、最近は目が見えない人の視覚を電子的に刺激して、映像を認識させる技術(人工視覚)が出てきているんです。あれも紫外線やウイルスなど、今まで人間には見えなかったものが見えると期待されていますが、かつて幽霊を捉えようとした発想と変わらないじゃんって(笑)

速水 宗教と科学の関係にも、似たようなことが言えると思っていて。近代科学が台頭し始めた時代に、キリスト教の信者が聖書を正しいと主張すると、それを科学で証明しようとするムーブメントが起こるんですね。ノアの箱舟を探そうと地層学が発展していき、掘っていくうちに恐竜の骨が出てくる。

そこで神は完璧な生き物しか創らないはずだから、絶滅した生物が発見されるのは矛盾しているとなり、今度はキリスト教会が科学で宗教を説明しようとするんです。ただ、繰り返し聖書と異なる事実に直面して、どうやって信仰を続けていくかが課題となっていくんです。

いわば、科学と宗教は合わせ鏡のように発展していき、それはオカルトとテクノロジーとの関係性にも通ずるはずですよね。

 ブレインチップの話にもつながると思うんですけど、いまトランスヒューマニズムがホットだと思うんです。ジェフ・ベゾス(Amazon創業者)や、ピーター・ティール(Palantirなどの創業者)も、バイオテックや宇宙開発領域に投資を集中させていて、テクノロジーで老化や死を乗り越えようとしている。側から見たらスピっているように見えるんですけど、当の本人たちは真剣なんですよね。

速水 ブライアン・ジョンソン(決済サービスBraintreeの創業者)も、かなり風変わりな実践をしているんです。30人ほどの医師に、臓器や組織を測定管理させ、血圧や老化評価、骨密度スキャンなどを図ってデータ化している。いわば自らの肉体を実験台に、最新テクノロジーを駆使して、アンチエイジングを徹底している。

しかもそこで得たノウハウを、血液分析やビジネスとしても提供している。これが日本だと医療規制が厳格なので、自由診療の領域に踏み込んでいくのは倫理的に問題なのですが、ブライアン・ジョンソンはそこを厭わず規制緩和しようと取り組んでいて。その自由さというか、ニューエイジ思想(20世紀後半に広まった自己意識運動や精神世界)みたいな発想が、いかにも西海岸シリコンバレーの起業家らしさを感じるというか。

 スティーブ・ジョブズも、LSDをやってインスピレーションが生まれたと話していますし、サイケデリックスとテクノロジーも近しいですよね。

速水 もともと西海岸のシリコンバレーって、アメリカの宗教革命で迫害された人たちが東海岸に渡って、さらにそこでも馴染めなかった人たちが、西へ西へと流れて辿り着いた場所と言われているんです。いわば、「ならず者」たちが集まった場所から、オカルトやコンピューターが生まれているんですよ。

これが第二次世界大戦後になると、過去の戦争を正当化する体制側に対して、反発する形で若い世代がヒッピーやロックに傾倒していった。スティーブ・ジョブズもその潮流にいて、IBMのような巨大な権力への反発として、コンピューターが発明されたとも言われている。ある意味で、テクノロジーとオカルトの進化は、外れものの自由な発想であり、旧世代への反発でもあると取れる。

 さっき新しいテクノロジーに抵抗感を抱いても、時代が変われば順応してしまうという話があったじゃないですか。ある程度ユーザーが増えれば、テクノロジーを避けるのは抗えないし、いずれ反発していたことも忘れてしまうと。そうしたテクノロジーの変遷や変革期に対する無頓着さが、使いづらいテクノロジーが蔓延り、機械ぎらいが増えていく要因につながっていると思うんですよね。

そこに対して、速水さんの『機械ぎらい』は、メディア史や文化論などのアプローチから「本当にそれでいいのか?」と待ったをかけている。「意外と機械ってダメだよね?」と投げかけていて、スカッとする読後感がありました。

速水 新しいテクノロジーを生み出すのは一部の天才ですが、それらが世の中に浸透するかどうかはマジョリティーである凡人、つまり「機械ぎらい」にかかっているんですよ。だからこそこれ以上、人間が機械に合わせて辟易としないようにも、多数派の方が声をあげるべきだと思うし、本作で投げかけたかったことでもあるんです。

(左:角由紀子 速水健朗)

(構成:佐藤隼秀 撮影:旭興太郎)

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プロフィール

速水健朗×角由紀子

速水健朗 (はやみず けんろう)
ライター、ポッドキャスター。1973年石川県生まれ。コンピューター誌編集者を経て、2001年よりフリーランスの編集者、ライターとして活動を始める。主な著書に『機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史』(集英社新書)、『1995年』(ちくま新書)、『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『ケータイ小説的。』(原書房)、『東京どこに住む?』(朝日新書)、『1973年に生まれて』(東京書籍)などがある。2022年よりポッドキャスト「これはニュースではない」を配信している。

角由紀子(すみ ゆきこ)

オカルト研究家、編集者、ライター。白夜書房、BABジャパンでの勤務を経て、株式会社サイゾーに入社。2013年にオカルト専門メディア『TOCANA』を立ち上げ、編集長に就任。2022年にTOCANA編集長を退任し、フリーランスとして活動開始した。現在は登録者数45万人以上のYouTubeチャンネル『角由紀子のヤバイ帝国』をはじめ、テレビ・ラジオをはじめ、さまざまな番組・メディアで活動中。著書に『引き寄せの法則を全部やったら、効きすぎて人生バグりかけた話』(扶桑社)など。

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