ウェブ上の広告表示や、アプリのログイン認証など、デジタル上の手続きに辟易としたことがある人は多いはずだ。
デジタル技術の進化により、便利なサービスが溢れかえっている一方で、それらの運用や管理が煩雑になるのはなぜか――。こうした矛盾を、テクノロジー史の文脈からまとめたのが、速水健朗氏が3月に上梓した『機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史』だ。
本対談では、オカルト研究家の角由紀子氏を迎え、テクノロジーと人間の関係を語り合った。「陰謀論に傾倒する人は、アンチテクノロジーが多い」と語る角氏が、テクノロジーの使いづらさが生む不平不満の正体を、非科学的な観点から読み解く。

「サイト上の広告って陰謀が働いてますよね?」
角 『機械ぎらい』を読んでハッとしたのが、ここ最近、映画を観に行かなくなったということなんです。
単に、映画への興味が薄れたのかなと思っていたのですが、実は予約が面倒だったんだと気付かされたんですね。まず新作がどこの配給か調べて、アプリから館や日時、座席を選んで、当日も館内のタブレットで発券して……。一連の手順に労力がかかりすぎて、自然と足が遠ざかっていたんです。
速水 しかも広告まみれの画面が、よりやる気を削ぎ落としますよね。映画を観なくなっている人たちって、本当は発券するまでの手間に辟易しているのではないかと。
角 そうなんですよ!
速水 テクノロジーで便利になっているはずが、手続きが煩雑になっているのは企業都合なんです。ウェブ広告自体は、1990年代後半からありますが、広告によって無料サービスを成り立たせる仕組みが拡大したのは2000年代半ばくらい。その後、スマートフォンのアプリにも広告やデータ収集の仕組みが組み込まれ、会員登録や通知の許可、別ページへの誘導など、本来の目的とは関係のない手数が増えていきました。
角 これって明らかに陰謀ですよね。サービスの途中に組み込んだ広告に誘導して、さらに迂回させようとしている(笑)
速水 陰謀という名の、まあいわゆるユーザーの囲い込みですよね(笑)
ただ、サービスを使うための手続きは、現代に限った話ではありません。以前の家電やガジェットも、説明書を読み、操作を覚える必要があった。いまは操作自体が簡単になった一方で、アカウント登録や個人情報の入力、広告閲覧、行動データの提供が求められる。機械を使いこなす負担は減ったけれど、企業とのやり取りの総量は急速に増えています。
角 オカルトの文脈で話をすると、一部の人間が世界を支配しているという陰謀論に傾倒している方って、アンチテクノロジーな傾向にあるんですよ。
よく政府や秘密組織が特殊な電磁波で個人の思考を操作しているとか、電磁波の洗脳を防ぐためにアルミホイルで作った帽子を被る陰謀論者がいるじゃないですか。あれは機械が思った通りに使いこなせないもどかしさや、個人情報が勝手に抜かれている不信感が肥大化して、テクノロジーを悪だと決めつけがちになっていくんですね。
速水 おそらく一番身近で、かつ信用ならない機械ってスマホだと思うんです。ただみんな持っているから、スマホを利用しない選択は難しい。背後にいる企業に不信感を抱きつつも、拒めないジレンマもあるのかなと。
角 それこそ居酒屋のQRコード式注文って、それ以外に注文方法がないから抗えないのがもどかしい。だから毎回、画面が小さくて見づらいとモヤモヤしながらも、結局は使いこなせないのが悪いと自責してしまっていたんです。
そこに速水さんが待ったをかけてくれたわけですよ。「いやそうではなくて、機械がダメなんだよ!」って。従来のテクノロジーに関する本って、最新技術や攻略法を紹介するものが大半だったなか、速水さんの本を読んで気が晴れました(笑)
速水 飲食店のタッチパネルやQRコード式注文も、その場で直接文句を言っている人が全然いないんです。よくよく考えれば、それまで店員がハンディで打ち込んでいた注文などの業務を、利用者側が請け負う仕組みになっているわけです。知らぬ間に労働させられているような違和感があって、これはちょっとおかしいのではないかって、ずっと異議申し立てはしないといけないと思っていたんです。
角 ただ、実際にタッチパネルを使う時は、文句を言うどころか、気まずい思いをする瞬間が多くないですか? コンビニのセルフレジも5工程ぐらいあって、その中で決済手段をどうすればいいのかあたふたしていると、並んでる人からの圧を感じる。「いや機械が使いづらいんだよ!」って言いたいのに、なぜか機械音痴が悪いとされる風潮にモヤッとします。

SNSは機械音痴を弱者扱いしがち
速水 いやそうなんです。本来なら人間同士が結託して、機械側の不備を糾弾すべきなのに、かえって余計な分断を引き起こしている。
角 以前、SNSで高齢の外国人が、セルフレジの顔認証で20歳以上がどうか確認されて、ブチギレている動画が流れてきたんですね。私は不憫だと思ったのですが、コメントでは「機械が正しい」という声で溢れていたので不思議だなと。
速水 SNSでは、新しいテクノロジーにうまく適応できない人を、すぐに弱者扱いしがちですよね。裏返せば、自分が「情弱」だと思われたくない。そのため、使いこなせることをアピールする人が増え、機械に文句を言いにくい空気ができていってしまう。
角 それこそ『機械ぎらい』のなかで、意外とみんな機械について下調べしている件が痛快でした。実は、機械の進化に動揺しているのがマジョリティーで、みんな情弱と思われないように装っているのが面白かったですね。
そう思えば、SNSは全体の総意ではなくなっていますよね。蓋を開けたら、機械音痴が多数派かもしれないのに、世論が歪められてるような気もします。
速水 SNSは、本来ならいろいろな人の本音が見える場所になるはずだったんです。初期のインターネットには、「自分と同じことを感じている人がいた」と気づける面白さがありました。
でも今は、むしろ本音を言わず、周囲に合わせるためのコミュニケーションの場になっている。機械についても、本当は使いにくいと感じていても、それを口にすると自分の能力不足だと思われる。だから黙って使いこなしているふりをする。その積み重ねが、「機械は使えない側が悪い」という世論をつくっているんだと思います。
角 一部の煽っているようなアカウントって、もしかしたら「botなのでは?」と勘ぐっています。運営側が発信して、あたかも「テクノロジーが凄い」という詭弁を作り上げようとしているのではと(笑)
速水 でも、そう疑いたくなる気持ちはわかります。実際、「機械についていけない人が悪い」という空気が広がるほど、新しいサービスを導入する側には都合がいい。複雑な機械でも文句を言わず、むしろ褒めながら使ってくれる人が増えるわけですから。ユーザーの側も、いつの間にか製品を使う人というより、擁護する人になっていくんですよね。つまり信者になっていく(笑)
角 陰謀論だと思っていたら、割と現実味がある話になってきましたね。
速水 しかもGAFAのような巨大企業は、国境を越えてサービスを展開しています。一方、法律や税制は基本的に国ごとにつくられている。だから、一つの国が規制しようとしても、企業の動きになかなか追いつけないんです。その間に企業はさらに大きくなり、利用者の側も、その仕組みに従うしかなくなっていく。ITの世界では、この繰り返しが長く続いています。

これからは脱テクノロジーの時代に?
角 その一方で、いまは技術革新の反動が来ていると思うんです。スピリチュアルに深くハマっている人は、エコビレッジ(化石燃料を極力使わずにサステナブルな暮らしを実践するコミュニティ)のように、テクノロジーに触れない生活を続けている方もいて。今後、そうした脱デジタルの選択が増えていくと思うんです。
速水 ライフスタイルを変えるレベルで、デジタルデトックスを実践する人って、結構いらっしゃるものなんですか?
角 興味深いのが、経営者などの富裕層で、デジタルデトックスや瞑想に耽る人が増えているんです。スティーブ・ジョブズは有名ですが、ビル・ゲイツも1週間ほど外界との連絡を完全に断ち切って山小屋などに篭ったり、Twitter(現X)創業者のジャック・ドーシーもヴィパッサナー瞑想(10日間会話やスマホ、飲酒を禁じて瞑想するトレーニング)を定期的に実践していたりしていて。
速水 たしかに国内でも、デジタルデトックスをコンセプトに掲げている、富裕層向けのグランピング施設がありますよね。インターネットを一切遮断している高原のような場所で、一部のエリアだけWi-Fiが使える会議室が設置されている感じの。
角 喫煙所みたいでシュールですね(笑)
速水 いやまさに(笑) テクノロジー発展の功罪がいろんな場所で露呈し始めて、いまは富裕層に向けた宿泊施設が、いずれWi-Fi使用禁止のカフェなんかが流行っていくのかもしれないですね。
角 速水さんは今後、テクノロジーと人間の関係はどうなっていくと思いますか?
速水 結局、反発が起こるのは最初だけなんですよ。時間がたつと、みんな不便だったことも疑問に思っていたことも忘れてしまう。気づいたときには、生活の方が機械に合わせて変わっていて、もう元には戻せない。機械に従っているとわかっても、その段階ではどうにもできないんです。
角 少数派ではあるけど、速水さんの指摘に共感する人は多いですよ。それこそ私が映画館から遠ざかっていたのも、この本を読んで「実は機械ぎらいだったから」と気づけたわけで。
速水 機械ぎらいというと、機械に詳しくない人の話だと思われがちです。でも、詳しい人ほど使いにくさに敏感なこともある。スティーブ・ジョブズも、操作をできるだけ簡単にすることに強くこだわっていました。テクノロジーの世界の内側から、「これは使いにくい」と言える人が増えれば、少しは変わるかもしれません。
角 ある意味で、速水さんもメカに強いからこそ、この本を書き上げたわけですよね。そういう意味では、速水さんがジョブズ的な立ち位置になってくれるのではと期待しています!

(構成:佐藤隼秀 撮影:旭興太郎)






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