「それから」の大阪 第4回

西九条の立ち飲み「こばやし」最後の日々

スズキナオ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Clip to Evernote

住民投票の前日に

2020年11月1日、「大阪市廃止・特別区設置」の是非を問う住民投票が大阪市で行われ、約1万7000票差という僅差で否決されることになった。これを受けて大阪市長の松井一郎氏は2023年4月の市長任期満了をもって政界を引退する意向を表明。橋下徹氏が大阪市長を務めていた2015年に行われた住民投票に続き、「大阪維新の会」の悲願は二度退けられることになった。

大阪市民を二分する大きな判断が迫られたその前日の10月31日、JR環状線の西九条駅近くにある立ち飲み居酒屋「こばやし」が創業40年の歴史にひっそりと幕をおろした。

高架下の気楽な立ち飲み店「こばやし」(2020年10月撮影)

最終営業日が近づくある日の店内の様子(2020年10月撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過去に雑誌の取材でこばやしを訪れたことのあった私は、それ以来、何度かこの店で酒を飲んだ。新型コロナウイルスの感染拡大によって外出自粛が叫ばれ、飲食店には休業要請が出ていた時期を過ぎて「気をつけつつも経済活動を再開していこう」というムードが世間に漂い始めた6月のある日、こばやしの前を通りかかると看板に明かりが灯っていた。間を詰めて並べば30人ぐらいは収容できそうな大きなコの字カウンターの内部がぐるりとビニールカーテンで覆われ、感染予防対策をしながら営業をしている様子。久々に立ち寄ってお店の方にコロナ以降について伺うと、休業要請を受けて4月から休んでおり、5月中旬にようやく営業を再開できたとのこと。「それはよかったですね」と私が言うと、「でも10月で店を閉めるんです」という言葉が返ってきた。

阪神電鉄西九条駅付近の高架下に店舗を構えるこばやし。40年前の1980年3月から同じ場所で営業を続けてきたが、高架の耐震工事が開始されることに伴い、10月末で営業を終えることを決めたという。思いがけない知らせに動揺した私は、閉店までの間にできる限りお店に足を運ぼうと決めた。

次ページ  町工場と木造住宅の町で40年
1 2 3 4 5
 第3回
「それから」の大阪

2014年から大阪に移住したライターが、「コロナ後」の大阪の町を歩き、考える。「密」だからこそ魅力的だった大阪の町は、変わってしまうのか。それとも、変わらないのか──。

プロフィール

スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。WEBサイト『デイリーポータルZ』『QJWeb』『よみタイ』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、パリッコとの共著に『のみタイム』(スタンド・ブックス)、『酒の穴』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)がある。

 
集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル

プラスをSNSでも

Twitter, Youtube

西九条の立ち飲み「こばやし」最後の日々

連載