学んだこと
僕は、入札については、世間を騒がせるようなニュースを耳にすることもあるが、プロポーザル方式の入札は額面通り行なわれるものだと思っていた。そんな当たり前の事が普通に行なわれる世界で僕は生きていた。
実は、現在でも、時々企業などから「プロポーザル方式のトレイル事業募集に斉藤さんからご協力頂けないでしょうか」と話を頂くことがある。「問題ありません。協力します」と返答をするようにしているが、おそらくすでに受ける会社は決まっているのではないかと思う。ただ、残念ながら一度も落札しましたという連絡は頂いたことがない。それは、日本で唯一のプロハイカーでトレイル有識者の僕が関わっても評価の対象にはならないですよ、という悲しいほどの影響力のなさなのか、すでに落札先が決まっているからなのか、僕には判らない。ただ、プロポーザル式での入札には、意図的に落札させたい企業にしかできないことを仕様書に書き加える事もできるのだ。
しかし、応募すること自体は意味がないとは思わない。1%でも落札できる確率があれば僕は応募すべきだと思う。本当にいい提案が採用される、今まで僕が生きていた世界と同じように当たり前の事が通る世界であれば、きっと採用されるに違いない。
このときのことを通して僕が声を大にして言いたいのは、行政が行う入札方式だけが問題なのではないという事だ。むしろプロポーザル方式のほうが不正が行われやすいといえる。
自治体は、仕様書と称して募集内容を調整し、応募者に制限を加える事ができる。つまり、自分たちが依頼したい相手に有利な募集要項を作る事ができるのだ。もし他に応募者があっても、仕様書(募集要項)を熟知した予定落札者に勝つことはない。仮に他社が良い提案をしても審査するのは発注者側の幹部であり、発注者が決めた有識者によって選考される。つまり、より閉鎖的にひっそりと不正を行うことが可能になると言える。僕ら市民は、こうしたプロポーザル方式が本当に正しく行なわれているか、確認する必要があるのではないだろうか。
昨今の物価高で誰しもが苦労して生活する中、納税額は過去最高を更新している。これから国によるAI関連の民間投資も大きな規模で行なわれるだろう。こうした特殊な案件はプロポーザル方式で行われやすいと思われる。だからこそ、原資となっている税が正しく使われているか監視することが必要だ。「知らないは罪」良くも悪くも知る事、知る努力は大切だ。また、メディアもどこまで情報を正確に伝えているか判らない。僕たちは学び、正しい情報を選択できるようにしなくてはならない。僕は、トレイルをつくる活動を通して学んだ。結論としては、トレイルづくりは急いでもしょうがない。本来時間のかかるものを早く進めようとするといい加減なものになる。ならば、時間のかかるものは時間をかけて作ればいいのだ。
白鷹丘陵トレイルの完成

K氏と僕の二人三脚の活動は2018年、「YLT(Yamagata Long Trail)クラブ」として再スタートした。それまで多くの時間を費やしてきたトレイル調査を最小限にして、現時点でトレイルの候補になっているエリアを歩くイベントの開催を中心に、トレイルを体験してもらうこと、トレイルをまず知ってもらうことにウエイトを置いて活動を行うことにした。
僕たちはアメリカのトレイルを参考にYLTクラブのマークを作成した。もちろんモデルにしたアメリカのトレイル管理団体の承諾も得た。現在、日本で多くのトレイルがつくられ始めているが、アメリカのトレイルのように三角形を丸くした形の統一マークを使用している団体は不思議なことに日本には無い。また、僕たちは、YLTクラブのマークでもあり、トレイルを誘導するマーカー(マークの中のTの字が矢印になっていて方向を示す)を国定公園内に許可を取って設置することに成功した。山形県の助成金を頂き、マークを作成し取り付け、3年後の2021年には国定公園内で想定されるルートの8割ほどにマーカーを設置する事ができた。
そしてコロナ禍に入ると、僕たちの活動は山形市の西側にある県民の森へと広がり、初心者の方がトレイルを始めやすいように、周回式の白鷹丘陵トレイル(1周約32km)を完成させた。白鷹丘陵トレイルは、4つの山頂を通る山エリアと、民家や廃村を通る町エリアに分かれている。町エリアには、有名な山城である畑谷城があり、このエリアは北の関ヶ原と呼ばれる、上杉軍と最上軍が戦いを始めた歴史的重要地でもある。直江兼続、前田慶次など、歴史上人気のある武将が戦いを繰り広げた場所で、歴史も、自然も楽しんで頂けるエリアになっている。残念ながらこのエリアは現在過疎化が進んでおり、僕がこの地区を担当していた郵便局員だった頃、1人だけいた小学生が卒業してからは、小学校も廃校になってしまった。多くの若い家族が山を降り、里に移住している。この場所にトレイルを作ったのは、トレイルを通してこの地区の良さを知ってもらえたらという思いもあった。

白鷹丘陵トレイルがオープンしてからは、毎年5月にキックオフイベントを開催し、メーカー各社さんにご協力頂き、商品展示なども行っている。現在のYLTクラブの活動は、初心者の方に里山に親しんでもらうことから蔵王の冬山体験まで領域を広げている。だが、山形ロングトレイル設立当初から取り組んでいる、蔵王国定公園を通るルートは完成していない。そして、トレイルをどう管理すれば良いのか、どうすれば継続的に維持していけるのか、核心には至っていない。しかし、今決める必要はないと思っている。社会情勢に合わせて、柔軟に山形にトレイルを作る活動を継続させていきたい。最終的には僕がいなくなったとしても活動を維持できるようになればと思う。
そうして、民間の手によりトレイルをつくり維持していく方法ができ上がれば、他の地域でも同じようにトレイルをつくり、維持管理できるようになる。各地でトレイルを通して自然を体験できる場が増えていけば、自然に興味を持つ人が増え、自然を体験する人も増える。そしてその経験は自然保護に繋がっていく。トレイルは自然を体験する時に、自然を踏み荒らさないよう人が歩くための道としてつくられている。文明人と自然は共に生きていくことが可能だ。それには文明人がまず自然を知ることが大切なのではないだろうか。まだまだ僕の作り手としての苦行は続くのだろう。
(続く)

トレイルはアメリカ発祥の概念で、山野に付けられた道を歩く、いわゆる「山歩き」。 北米ではポピュラーなアクティビティであり、文化として根付いている。 山に登るのではなく、山を歩くとはどういうことか。なぜ人々は山を歩くのだろうか。 20年にわたり国内外のトレイルを歩き、日本におけるトレイルカルチャーの普及に努めてきたプロハイカーが、その豊富な実体験を通して「山歩きの哲学」を伝える。
プロフィール

(さいとう まさふみ)
プロハイカー
1973生まれ。山形県新庄市出身。アパレルブランドやディベロッパー企業などに勤務後、
2012年より日本で唯一のプロハイカーとして活動。トレイルカルチャー普及のため、海外のトレイルを歩き、アウトドア媒体を中心に寄稿、講演やイベントを行う傍ら、地元山形にトレイルのコースを作る活動「YLTクラブ(山形ロングトレイル)」に携わる。スルーハイク(単年で一気にルートを歩く方法)にこだわり、踏破した国内外のトレイルだけで25,000km(地球半周以上)を超える。
公式HP https://hikermasa.wixsite.com/
Instagram @hikermasa
Facebook https://www.facebook.com/saito.masafumi.3
斉藤正史




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