対談

ホーク・ウォリアーを語ろう~忘れじのヘルレイザーズ~

佐々木健介×斎藤文彦
佐々木健介×斎藤文彦

○橋本真也と道場で交わした忘れがたき会話

斎藤 新日本時代も東京ドームでのメインイベントは何度も体験していますね。ドーム興行でいちばん最後に登場してきて、あの長い長い花道を歩いていくというシーンが何度もあった。…橋本真也とのシングルマッチであったり。

佐々木 いま橋本真也っていう名前が出たじゃないですか。たぶん、これ言ったことないかもしれないけど、すごいライバルだったんです、ぼくら。バチバチだった。そういう関係だったんだけど、あるとき、夜、道場で練習していたんですよ。

斎藤 世田谷区野毛の?

佐々木 はい。ぼくがいるって知ってたか知らなかったかはわかんないんだけど(橋本が)入ってきたんですよ。……なんだかんだ練習やってて、ふとね、ぼくに言ってくれた言葉があって。「俺らバチバチにやってるけど、俺らにしかできない闘いをやっていこうよ。バチバチなこの感情のぶつかり。体のぶつかり、そういう熱い試合をやろう」って言ってくれた。

斎藤 道場で短い会話を交わした。現役バリバリのころですね、初めて知りました。

佐々木 バリバリ。だれにも言ってないですよ、これ。リスペクトはあります。でも、やっぱり若かったからライバル心が強かった。“強い”って認めてたから、負けたくないって気持ちがあった。いまふり返ると、彼のことを目標にしていたんじゃないかな、そういう気持ちだったんじゃないかなと思います。

斎藤 橋本選手以外にも同じ世代で同じくらいのキャリアの人たちが何人もいましたよね。武藤敬司は天才タイプだからわが道をいくだろうし、蝶野正洋はすごく都会的な人だから、そういう人間関係にはあまり関わらないかもしれない。だから、もろにぶつかるのは佐々木健介と橋本真也で、なぜこのふたりだけは…って、ぼくらは遠くから見ていました。

佐々木 たぶん、おたがいに不器用だったんでしょうね。

斎藤 そういう時代だったんでしょうね。健介さんのパートナーだったホークは45歳の若さで亡くなってしまいましたが、橋本選手が海外武者修行から帰ってきたときは「俺は太く短く生きる」みたいなことを話していた。そして、ほんとうにそのとおりになってしまった。40歳はあまりにも若いですよね。橋本選手とのシングルマッチは全部しっかり記憶していますか?

佐々木 何度やったかははっきりおぼえていないけれど。

斎藤 試合の景色は頭のなかに残っている?

佐々木 うん、体の痛みはおぼえています(笑)。たぶん彼が、たぶんじゃないな、絶対だな、彼がいたから強くなれたと思うんですよ。競い合いがあったから。

斎藤 涙を見せる、というか涙の似合うレスラーでしたね、橋本選手は。リング上でしょっちゅう泣いていた。ああいうレスラーってあまりいなかった。どちらかというとクールに振る舞う人が多いなかで、彼は全然クールじゃなくて、何から何までウェットで、そういうスターとして一時代を築いたんだと思います。

それは自分の胸にしまっておけばいいことなのかもしれないけれど、引退してもう何年もたつから、きょうはあの時代の秘密を(笑)。そうでしたか、試合会場以外の場所で、夜の道場でふたりだけで短い会話を交わしたことがあったんですね。

佐々木 あったんです。これは…ひとりにしか言ってないです、それも彼の息子に。

斎藤 プロレスラーになった橋本大地ですね。

佐々木 こういうことがあったんだよ、って。

斎藤 健介さんは引退してからあまりいろいろなことを語ってこなかった。きょうはここまで話していただき、ありがとうございました。

佐々木 とんでもない。ありがとうございました。

 

 

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忘れじの外国人レスラー伝

プロフィール

佐々木健介×斎藤文彦

佐々木健介(元プロレスラー)

1966年8月4日生まれ、福岡県出身。1986年2月後楽園ホールにてプロレスデビュー。IWGPヘビー級王座、三冠ヘビー級王座、GHCヘビー級王座と合わせて、史上初のメジャー3大シングル・タイトルを戴冠する快挙を成し遂げた。2004年度プロレス大賞 MVP、2005年度年間最優秀ベストバウト賞を受賞。2014年2月13日、現役引退を発表し、28年のプロレス生活に終止符を打った。私生活では1995年女子プロレスのカリスマ北斗晶と電撃結婚し、現在2児の父親。タレントとしても活躍中。

 

斎藤文彦(プロレスライター)

1962年1月1日生まれ、東京都杉並区出身。オーガスバーグ大学教養学部卒業、早稲田大学大学院スポーツ科学学術院スポーツ科学研究科修了、筑波大学大学院人間総合科学研究科体育科学専攻博士後期課程満期。現在、専修大学非常勤講師。在米中の1981年より『プロレス』誌の海外特派員をつとめ、『週刊プロレス』創刊時より同誌記者として活動。海外リポート、インタビュー、巻頭特集などを担当した。著書は『プロレス入門』『昭和プロレス正史 上下巻』ほか多数。昨年11月発売の『忘れじの外国人レスラー伝』が話題に。

 

 

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