AI・バイオサイエンス・資本主義の未来。なぜこの三つの問題を取り上げたのか。
「今まさに、近代社会のバックボーンであった人間中心主義が終わりつつあるということです。AIやバイオサイエンスの発達は、やがて人間の定義を変えていくでしょう。たとえば、人間の定義の一つに『考える動物』というものがありますが、AIが自律思考を始めたら、思考は人間の占有ではないことになり、人間の定義も見直さざるをえなくなります。バイオサイエンスの遺伝子操作により、生物としての人間の条件も変わるかもしれません。
そして、AIやバイオサイエンスの発達は、資本主義における人間中心主義も終わらせるでしょう。例えば、かつてマルクスが想定したような資本主義像では、人間の労働が価値の源泉でした。しかし工場労働による生産と貨幣経済に特徴づけられる経済体制はすでに終わりつつあります。つまりビジネスモデルが根本的に変わる。
やがてAIが生産活動に従事し、人間の労働が無意味になる時代がやってきます。そうなったら、労働・生産とは別の対立構造が社会の軸となるでしょう。それを一言で表せば生き方の対立です」
新たな対立構造とは何か。一つは欲求に没頭する生き方であり、これをアレクサンドル・コジェーヴを参照して「動物化」と呼ぶ。これに対して動物化しない生き方とは、特定の職業や専門に縛られずに自由人として生きることだという。
本書の最終章では、「一人のなかに十の色、十の個性を認める『一人十色』のほうが面白い」と、岡本氏はジル・ドゥルーズに由来する「分人主義」を、個人という枠組みからも解放されたこれからの生き方のモデルとして有効ではないかと提示している。
現代思想を通して見えてくる未来予想図は、読者をクリエイティブな思考に誘うだろう。
文責:広坂朋信
※季刊誌『kotoba』36号に掲載されたインタビューを修正の上、転載しております。
プロフィール
1954年福岡県生まれ。九州大学大学院修了。玉川大学文学部教授。著書に『ヘーゲルと現代思想の臨界』(ナカニシヤ出版)、『思考実験』(ちくま新書)、『フランス現代思想史』(中公新書)、『いま世界の哲学者たちが考えていること』(ダイヤモンド社)など多数。