本編は「人工知能」「バイオサイエンス」「資本主義社会のゆくえ」の三部構成。各パートにそれぞれの分野の専門家がゲスト講師として招かれ、専門的な知見をわかりやすく説明している(人工知能は赤坂亮太、バイオは平川秀幸、資本主義は稲葉振一郎の各氏)。
だが、お説拝聴で終わらないのが本書の面白さ。ゲスト講師もまじえての談論風発の議論がはじまると、岡本氏がテクノロジーの進歩が投げかける問題を手際よく整理して、さらなる思考の深みへとつなげていく。生命倫理などある意味で深刻な問題も扱いながらも、岡本氏の語り口は明るく、どこか楽しげだ。
「実は大学の講義でもジョークを交えることがあります。それは学生の機嫌を取るためではなく、議論に先立ってその場の共通知識を確認するためです。ジョークが通じなければ聴衆はそのテーマについてよく知らない、逆に反応があればある程度の関心や知識があるという目安になります。
また、特に倫理的な問題を考える場合、得てして人は立派なことを言おうと身構えてしまうものです。笑いはそうした固定観念を揺るがせ、思考を柔らかくしてくれます」
プロフィール
岡本裕一朗
1954年福岡県生まれ。九州大学大学院修了。玉川大学文学部教授。著書に『ヘーゲルと現代思想の臨界』(ナカニシヤ出版)、『思考実験』(ちくま新書)、『フランス現代思想史』(中公新書)、『いま世界の哲学者たちが考えていること』(ダイヤモンド社)など多数。