対談

「喋りながら書く」時代がやってくる?けんすう(古川健介)と考える『機械ぎらい』とポッドキャスト

速水健朗×けんすう(古川健介)

かつて手書きだった原稿は、パソコンの登場でキーボード入力に置き換わり、そして現在はAIに代替されつつある。いまやポッドキャストの音声データを基に、noteや書籍を横展開する事例も散見されるようになった。

こうした技術革新に、人間はどう対応して、産業はどう変化していったのか―。テクノロジーの歴史を辿りながら、速水健朗氏が掘り下げたのが、3月17日に上梓した『機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史』だ。

本対談では、IT業界の黎明期からサービスを作り続け、現在『ハイパー起業ラジオ』など多数のポッドキャスト番組を手掛けるけんすう(古川健介)氏をゲストに迎える。

生業は違えど、互いにコンテンツを発信する両者が、テクノロジーの進化とともに変容するメディア業界の現在、そしてこれからを語る。

『機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史』(集英社新書)

ポッドキャストがすぐに書籍になる時代がやってくる

速水 けんすうさんは、毎朝のようにポッドキャストを配信して、それを基にnoteを配信して、多角的な発信をされているじゃないですか。

けんすう そうですね。コンテンツ・リパーパス(再利用)と呼んでいますが、いまはポッドキャストの書籍化を進めているところです。溜まったアーカイブをAIに読み込ませて、まとまった量のテキストにしつつ、noteなどのサブスクモデルで収益化もできる。ポッドキャスターの負担なく、ビジネスの横展開ができるのではと考えています。

速水 僕もポッドキャストで喋った内容を、エッセイ集として出版したことがあるのですが、音声入力に抵抗があるんですよね。

やっぱり「喋ること」と「書くこと」って、脳の使い方が全然違うなと。喋っている時はそれなりに文脈がつながっているように聞こえるのに、文字に起こすと論理性がないと感じてしまい、推敲の作業がかなりかかる。

文章を書くときに生成AIは使うのですが、あくまでもテキストベースで、自分が書いた原稿を壁打ちするわけじゃないですか。そもそも音声だと、出力の構造が違いすぎて、脳の切り替えが上手くできないんですよね。周りの物書きでも音声入力を駆使している人は聞いたことがなくて。

けんすう 音声や会話だと流暢に聞こえるじゃないですか。それゆえに聞き手も喋り手も「なんとなく正しくて分かりやすい」と、脳が勝手に処理してしまうらしいんですね。

それが文章だと、文脈に沿って、単語の意味を丁寧に定義しないと混乱してしまうじゃないですか。例えば「社会」といった意味の広い言葉だと、発信者の境遇や思想、前後の文脈など、色々な要素を加味しないと解釈がズレてしまう。要は、文章の方が、より高度な解像度が求められるんですよね。

そうした媒体の特性を踏まえた上で、原稿にすることを念頭に喋るよう心がけたら、ある程度書き言葉に変換しやすい話し方ができるようになりました。

速水 そもそも喋り方を鍛えるアプローチが興味深いですね。

この『機械ぎらい』は、機械音痴な人の目線から、テクノロジーや産業が変わっていくことへの障壁を書いているんです。いまの話であれば、音声入力で効率的に本を作れるはずなのに、どこか障壁を感じているような人たちのことですね(笑)

そうした当事者は、つい「最新のデバイスを扱えない自分が情弱だ」と思い込みがちですが、真の原因は「脳の処理が追いついていない」ところにあるのかもしれないですね。要は、知識や情報を持っていてもテクノロジーを使いこなせるわけではなく、新しい仕様に慣れる方が近道なのかなと。

けんすう 人間側のアプローチも重要ですね。

速水 アルビン・トフラーという未来学者は、「過去の経験にしがみつく者は、どれほど知識があろうとも、新しい時代には適応できなくなる」と語っているんですね。つまり、社会の変化に対応するには、新しい知識を身につける以前に、一度身についたやり方を捨てることが重要だと。

これも人間が機械に合わせる風潮と同じですよね。昨今、謳われるようになった「リスキリング」も、新しいスキルや知識を学び直すことと定義されていますが、本質はこれまでの慣習を手放すことだと捉えています。

けんすう キーボード入力に慣れているから、音声入力に抵抗があるのもそうですよね。よく社内で「DX(Digital Transformation)を推進しよう」と号令を出しても浸透しないのは、旧式の組織体系やオペレーションが染み付いているから。いわゆる「慣れ」って、強力なUX(User Experience:テクノロジーを通じてユーザーが感じている体験の積み重ね)なんですよ。

速水 そう考えると、けんすうさんが、ポッドキャストを原稿に展開しているのが画期的に聞こえます。

けんすう もちろん自分がチューニングを合わせたのもありますが、技術の進歩も大きいです。いま僕が作成しているポッドキャストを書籍化するツールだと、過去のアーカイブから、その人の思考や喋りの流れなど、話し方の構造を汲み取ってくれるんですよ。

速水 話し方の構造ですか?

けんすう 例えば、あるPodcasterが「営業術」について話した内容を、文章に変換するとします。その際、ポッドキャストのアーカイブを大量に読み込ませると、話の流れや構造を体系化してくれるんです。

すると、最初に「ビジネスには信用が大事」といった原理を話す。

その上で、いかに営業を上手にやるかの原理原則を話す、そして最後に自身の経験を語る、みたいに、常に「大枠」→「技法」→「経験」と、大まかな流れで話している、などの特徴が見えてきたりするんですね。

この型をAIに学習させると、本人に見せても違和感がない記事構造になったりするわけです。

あとは、抽象的な単語も、その人の人物像や思想を打ち込んでおけば、AIが意味を補完してくれる、なども可能です。    

自分でも意識していないような癖とか、構造とかをAIが把握して、書籍にした時もわかりやすい、みたいなことをできるようになっている時代ですね。

速水 会話だとふわっとしている話し方や、その人なりの言葉の定義を突き詰めることで、音声から書籍化もぐっと近づくわけですね。

速水健朗氏

AI時代に必要な物書きの素質とは?

速水 まさに『機械ぎらい』というタイトルも、この話が通ずると思っていて。この本のテーマは、「UI(機械やサービスにおける操作画面や仕組みのこと)が難しい」という話なんですよ。

ただ、担当編集に「UIについて書きたい」と相談しても、なかなかピンと来ないんですよね。だから、少しずつUIの定義をずらしながら、機械に疎い立場にも伝わるよう試行錯誤して、このタイトルに着地したんです。本の中でもUIという言葉を使わないようにしていて。

けんすう タイトルに「UI」を入れると、専門的に思われて、読者層も狭まりそうですよね。

速水 それと今回は、ページ数にもこだわったんです。一般的に、本を読む時の満足度って、最低でも200ページ、だいたい10万字分ほど必要だと言われているんですね。全体の本文は186ページあるのですが、満足感もありつつ、読みやすさにこだわった。

ポッドキャストであれば、30分聞けば満足するじゃないですか。サッカーなら90分強、野球であれば3時間前後と、それとなく尺感が刷り込まれている。媒体によって、人が満足する分量や密度が異なるのも、突き詰めて考えればUIやUXの一部なわけです。

固定観念のように確立されてきたフォーマットを、今回は実験的に崩してみたかった。それで本書は、章ごと丸々削るなどして、あえて180ページ台に収めてみたんです。

けんすう その発想、めちゃくちゃ面白いです!

それでいうと、アプローチは全然違うのですが、編集者の箕輪(厚介)さんが立ち上げた幻夏舎は、年1冊ペースでの刊行を前提としているそうです。本来であれば、一定のペースで刊行して部数を稼がないといけない。ただ、出版不況で厳しいぶんノルマに縛られて、一冊の本を手掛ける時間が薄くなってしまう。

箕輪さんはおそらく、こうしたジレンマを解消するために、YouTubeのメンバーシップなどを通して、本を作る過程を見せるモデルを構築しようと試みている。コミュニティを醸成しながら、収益化も担保して、時間をかけて良質なコンテンツを発信していく。

ある意味で、箕輪さんの試みも、書籍の発信方法を模索していると思うんです。

速水 僕はページ数という形式をいじり、箕輪さんは出版までの過程を見せる。やり方は違えど、書籍の次の形をどうすればいいかを考えている面では共通しているかもしれませんね。

けんすう(古川健介)氏

人格IPの時代がやってくる

速水 いま物書きが、続々とポッドキャストに参入しているじゃないですか。それも似て非なることだと思うんです。伝えたいことがあるけど、本を手に取る人は減っている。メディア環境が変われば当然、届ける媒体や表現形式をアップデートしていくのは自然な流れですね。

そう考えると、けんすうさんがポッドキャストに関心を寄せるのもかなり腑に落ちます。

けんすう 冒頭で話したコンテンツの再利用も、効率的な広げ方とマネタイズができるわけですよね。これまで本という形でしか届かなかったものが、ポッドキャストで語られ、記事になり、動画になり、さらにコミュニティや講演へと広がっていく。

そのとき重要なのは、「その人らしさ」をどう抽出し、別の形式に翻訳できるかなんです。僕は「人格IP」と呼んでいるのですが、その人が何を考え、どんな観点で世界を観ているかという、“切り口や思考の型”みたいなものですね。

速水さんの場合であれば、日常の些細な違和感を鋭く拾い上げ、それを社会や歴史の文脈に接続していく視点に当たるのかなと。

『機械ぎらい』もそうですが、今では飲食店がスマホのセルフオーダーに置き換わり、新幹線や飛行機も事前に席を確保できるようになった。それは一見、テクノロジーの恩恵に思えますが、速水さんは「サービス過剰で使いづらい」「事前予約が面倒だ」と、見落とされがちな視点を持っている。

そこから論を展開して、テクノロジーの変遷を紐解いていく。速水さんなりの読み味が、人格IPというコンテンツとしての価値だと感じています。

速水 物書きとしては、食文化や都市論、テクノロジーなど、興味がある分野は雑多で、飽きっぽいところがあるのですが(笑)。逆に言えば、常に新しい問いを見つけて、食いついているとも言えるのかもしれません。

今回の対談でも、けんすうさんが「実は予約嫌い」なのが分かった。日常的な何気ない一言から、新しい引き出しを開けたいタイプなんですよね。

けんすう そうした個性は「人格IP」に直結するところですね。ぜひ速水さんも、人格IPを利活用して、ポッドキャストからの展開をお待ちしてます。

『機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史』(集英社新書)

(構成:佐藤隼秀)

関連書籍

機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史

プロフィール

速水健朗×けんすう(古川健介)

速水健朗  はやみずけんろう ライター、ポッドキャスター。1973年石川県生まれ。コンピューター誌編集者を経て、2001年よりフリーランスの編集者、ライターとして活動を始める。主な著書に『1995年』(ちくま新書)、『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『ケータイ小説的。』(原書房)、『東京どこに住む?』(朝日新書)、『1973年に生まれて』(東京書籍)などがある。2022年よりポッドキャスト「これはニュースではない」を配信している。

けんすう(古川健介) アル株式会社代表取締役。学生時代からインターネットサービスに携わり、2006年株式会社リクルートに入社。新規事業担当を経て、2009年に株式会社ロケットスタート(のちの株式会社nanapi)を創業。2014年にKDDIグループにジョインし、Supership株式会社取締役に就任。2018年から現職。会員制ビジネスメディア「アル開発室」において、ほぼ毎日記事を投稿中。

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