アメリカを中心に巨大テック企業や、イーロン・マスクやピーター・ティールに代表されるようなテクノロジー右派たちが影響力を持つようになった現代において、人々はどのように未来を構想すればいいのか? そのような状況下で、SF作家でコンサルタントの樋口恭介氏が、現代の技術をとりまく思想である「加速主義」や、SF作品作りの手法を用いて未来のサービスを具体化する「SFプロトタイピング」などを解説し、未来を探索するための方法を論じた『21世紀を動かす思想 加速主義・プルラリティ・SFプロトタイピング』(集英社新書)を刊行した。
本書の刊行を記念し樋口恭介氏と、陰謀論やオカルトの取材を続けるライターの雨宮純氏が対談。テクノロジー思想は現代のオカルトと密接に関わり合っているが、どのようにしたら陰謀論に陥らず未来を考えることができるのだろうか。

シンギュラリティのほんとうの意味
樋口 『21世紀を動かす思想』は一般向けに未来について考える基礎知識を伝えたいと思ってできた本なのですが、着想を得たのは学生やビジネスパーソン向けのワークショップなんです。私が担当するワークショップで多いのは「未来について考える」というテーマが多いのですが、そもそも現代のテクノロジー思想や考え方の前提知識がない人がワークショップをしても、出てくるアイデアがどうしても陳腐な紋切り型っぽくなってしまうんです。だから、未来についての考え方をマッピングして、そのルーツについて知れる本が必要だと感じていました。
もっというと、普通の人が現代の世界や未来について考えようとしたときに、YouTubeやSNSなどインターネットから情報を追っていくと「陰謀論」にたどり着いてしまうことも多いように感じます。そこで、現場の陰謀論を取材されている雨宮さんといろいろ議論したいなと考えたんです。
雨宮 ありがとうございます。本書を読んで、まず私がいいと思ったのは「トランスヒューマニズム」が丁寧に解説されている点です。AIによるシンギュラリティって言葉は、世の中でも広まってきたと思うんですが、その概念が提唱された『シンギュラリティは近い 人類が生命を超越するとき』(レイ・カーツワイル著、NHK出版)を読むと、遺伝子改変、ナノマシン、マインドアップロードといった、非常にSF的な話も書いている。実は、シンギュラリティはテクノロジーによって人間が進化するといったようなトランスヒューマニズムに近い思想なんです。ところが世間的にはそれらがすっ飛ばされて、「シンギュラリティ=AIによって新時代がくる」みたいなイメージが先行していますよね。本書では名前だけ知られているような言葉を、隣接概念も含めて、分かりやすく解説しているところがよかったです。
樋口 たしかに、言葉だけが先行して広まっているものを中心に扱うことは意識しました。たとえば加速主義というワードがよく使われるようになった一方で、その内実はあんまり整理されていません。だから本書では、加速主義にも色々なカラーやグラデーションがあり、隣接領域として多種多様な考え方がありますよと言いたかったんですね。
それにくわえて、テックライトやテックオポチュニストたちの考え方には、SF的な発想と陰謀論的な発想も不可分であるということも同時に書きたかったことでした。
雨宮 私も最初の著書『あなたを陰謀論者にする言葉』(フォレスト2545新書)で書いたのですが、テック系の思想はオカルトやスピリチュアルとも近い場所から生まれてきたものでもあります。それらはどちらも、1960年代からのヒッピーカルチャーやニューエイジの影響を受けてきているからです。
戦後のスピリチュアル思想を勢いづけた人々は、従来のキリスト教社会、大量消費社会のような「みんなと同じような社会」ではだめなんだと考えて、菜食主義や瞑想、あるいはメンタルワークとかをやり始めた。その延長線上に、人間の可能性を拡張しようとするトランスヒューマニズムや、その延長線上でおこるシンギュラリティがあるんです。ただ日本の場合、それらはあまり知られていませんでした。
むしろ日本において「トランスヒューマニズム」という言葉を広めたのは、僕は関暁夫だと思うんですよ。

日本でぶっ飛んだ発想をしようとすると関暁夫に辿り着く
雨宮 関暁夫はトランスヒューマニズムを実践し始めていて手にチップを埋めていたりするんです。しかも「僕らは将来的にAWSのサーバーの中に閉じ込められる」みたいな話をしてるんですけど、それにはAmazon創業者のジェフ・ベゾスはエイリアンと人間とのミックスだという前提があって……。
樋口 関暁夫ってそんなこと言ってるんですか(笑)
雨宮 言ってるんです。「Amazonの真の目的はAWSにあって、AWSっていうのはマインドアップローディングを利用して、そこに将来的には人民を閉じ込める。さらにベゾスは同じく『エイリアンとのミックスで、宇宙遺伝子が覚醒した』ゲイツと手を組んでいて、マイクロソフトが打ち上げる宇宙船の中にサーバー群があって……」と、彼の話はキリがないんですが。トランスヒューマニズムをゴールデンタイムのテレビで話すなんてことをしているのは、日本では彼くらいしかいないんですよ(他にケロッピー前田さんもいますが)。だから、「シンギュラリティ」という言葉だけがひとり歩きして、テック思想よりもむしろ陰謀論に接近しやすくなるわけなのですが。
樋口 僕や雨宮さんが触れてきた90年代から2000年代の都市伝説って、本当に「伝説」で現実とは離れたところにあるフィクションでしたけど、いつの間にかそれが本当に現実と隣接するものとして流通するようになりましたよね。
雨宮 陰謀論者が求めているのって、ある種の超越なんですね。自分という個を超えたいという超越の欲求がある。ディープ・ステートを倒したら俗世じゃない何かがくるんじゃないかとか、添加物なんか摂らないで自然食を実践したら何か自分があり得るべきピュアな状態に戻れるんじゃないかとか。
ただ本来はトランスヒューマニズムって想像するとワクワクするだけではなくて、考えるに値する思想でもあるはずなんです。その点において、加速主義とも共鳴すると思います。樋口さんの本でもSFプロトタイピングの章で、「大事なのは妄想してぶっ飛ぶこと」と書かれていたことも印象的でした。そのようなことからしか、未来を作るような発想が生まれないと。
樋口 妄想してぶっ飛ぶことは、オリジナルな考えを構築していくために大事です。しかし、冒頭でも触れたように日本ではそのための前提知識があまり共有されていないがために、オリジナルな発想が生まれないんですよね。
雨宮 だから、妄想のぶっ飛びを楽しむ情報を探すと、日本だと関暁夫にたどり着いちゃうんですよね。

昨今の日本の陰謀論はトビ具合が足りない
雨宮 そもそも昔の日本のオカルトは、妄想のトビ具合と、それにもかかわらずつい続きを聞きたくなってしまうストーリー展開の妙があったからこそ、フィクションや思考遊戯として消費されている部分があったはずです。
しかし今の日本の陰謀論は、発想のトビ具合や物語要素の工夫が欠如しているんですよね。特にこの半年くらい流通しているのは、不正選挙論とか、排外主義に結びつくようなムスリム関連の陰謀論とかですが、全部アメリカで流布された陰謀論を真似しただけなんですよね。内容の悪質さもそうですが、かなり陳腐なものが多い。
日本の陰謀論界隈は「愛国者」と自認している人たちが多いですが、主張がどれも輸入品の横流しなんです。少し前であれば、もう少し味わいというか、立場を超えて「グッとくる要素」を語り合えそうなオカルト陰謀論がありました。
例えば「東京駅地下のオリハルコン無限城」がその好例です。これは安倍晋三元首相の国葬が行われていた時期に出回ったもので、「実は国葬はカモフラージュであって、東京中心部をバリケード封鎖している裏で、地下施設から子供を救出する作戦が光の勢力によって行われていた。東京の地下にはオリハルコンで作られた地下施設が、そして地上には山手線で作られた結界が存在している。なぜ東京がこのように複雑なのかといえばディープ・ステートの中心地だからで、東京を舞台にした最終決戦の準備が進められてきていたのだ」というものです。これだったらまだ、「えっ、それで次はどうなるの?」というストーリー要素があって、妄想の広がり具合を追いかけたくなりますよね。
それが、陰謀論が輸入物の分かりやすい部分だけを流すコンテンツだらけになったことで、「日本が外国勢力に支配されている」といったリアルで政治的な方向のものばかりになってしまっています。話の多くは短文で完結していて、「これがこうなってこうなっているのだけど、実はこうで、それは元を辿ればここから来ていて云々」といった展開はあまり見られません。
樋口 陰謀論自体が陳腐なビジネスになってしまっているのでしょうね。Xのインプレッションで収益が入るようになってから、安易な「インプ稼ぎ」が増えていますし。だから既にビジネスモデルとして成功している陰謀論が各所で転用され続けるのでしょうが、ネタとしても陳腐で面白くないがゆえに、フィクションとしての強度がなく、実際の排外主義やナショナリズムと結託しやすくなっている気がします。
雨宮 それはありますね。昔のオカルトに携わっていたのは、金にもならないのに、何か怪文書を延々と書いてたりとか、すごい熱量で自分の信じていることを形にしようとしているような人たちでした。それが今や海外から持ってきて、真似をして、適当にイジって流したら儲かる、くらいの認識の人が多いので主張に一貫性がないし、オカルトへの愛も感じられない。
樋口 僕はイーロン・マスクやピーター・ティールを、オリジナリティを持ち続けているという点で凄いと思います。彼らも元ネタとして影響を受けたSFがあって、それをそのまま信じて本気でやろうとしている点ではある意味「パクり」なのかもしれないんですけど、明確に違う点が三つあります。
一つはちゃんと思想を事業にしている、つまり物理を動かしている。次に、自身の発言によって株価を操作し、言動がダイレクトに自身の資産と連動するような状況に自ら身を置いている。最後に、物理的にも市場の動きにも自身の実践が反映される状態にいるから、常に実証可能性を要求される。これは、「科学になる」ってことだと思うんですよね。
つまり、最初はたしかにSFみたいな「ウソ」から始まったパクリとも言える思想だったかもしれないけど、もう事業やっちゃってるし、事業やるって言って株価あげちゃってるし、みたいな状況に身を置くことで、背水の陣で何とかしないといけなくなっている。そして本当に何とかするというフローにおいて、反証可能性を繰り返していく。そのように、物理的にいけるところまでいく、という挑戦をちゃんとやっていて、その中では本当にウソなものはウソとして棄却されて、物理として残るものだけが残る。これは、SFを科学にしているとも言えます。イーロン・マスクやピーター・ティールは、単なる思弁的な陰謀論やオカルトなどとはやっぱり違う。そういう覚悟みたいなものがあると、単純に肯定はできないですけど、一目置きたいなっていう感じですね(笑)

オリジナリティを追求するか
樋口 だから陳腐で悪質な陰謀論も問題なんですけど、それらとも一部重なり合う飛躍した発想自体がダメだと思ってしまうと、未来が想像できなくなってしまうと思うんです。科学的根拠があるかないかという基準だけだと、自分の発想をオミットするべきか判断しにくいかもしれません。やはりそこも、雨宮さんが言っていたパクリかオリジナルか、という点が大事になってくるような気がします。
自分で一生懸命考えたオリジナルのネタだったら、単純に面白い話として聞くに値すると思う。だけど、明らかに海外や過去のネタの使い回しなら、まず疑ったほうがいいでしょう。僕は結構、科学的・統計的に検証可能かと、単純に面白いかどうか、という二つのレイヤーでものごとを見てることが多いですね。
雨宮 それはよく分かります。例えば、自分で地球が丸いところを確認するまで俺は納得しないと言い張るフラットアーサー(地球平面論者)のおじさんがアメリカにいて。確認するために、自分でロケットを作って打ち上げようとして、実際それなりには飛ばしていたんです。そこまでやられると、陰謀論を批判する側からしても、意見は違うけど本気ぶりはスゴいなって感心する人が現れ始めたんですよね。
樋口 それはもうアリストテレスですね。普通に実証主義ですよ。
雨宮 そうなんですよ。言っていることには全く同意できないんだけど、その人は自分の目で本気で確かめようとしている点において、その行動自体は正しいのかもしれない。一生懸命にちゃんと物理を動かそうとして、プロダクトができている。さっきのイーロン・マスクやピーター・ティールと同じで、その点は凄さを感じてしまうわけです。
樋口 その地球平面論者は実際にロケット打ち上げて、どういう意見になったんですか。
雨宮 最後はロケットから墜落して死んじゃったという話なのですが、自分の生き様に忠実に生きた人かなというか、それはそれで一人の冒険家のドラマとしてはやり切っていますよね。いい話ではないですけど……
樋口 実はイーロン・マスクの伝記に、似た話が出てくるんですよ。ロケットの外部コーティングは一度剥がれると再利用できないというのが通説らしいんですが、彼はエンジニアに「トンカチで叩いて溶接し直せば使えるだろう」と言った。エンジニアは「物理学的にやっちゃダメなんで無理です」と止めたんですが、マスクは怒ってその人をクビにして、自分でトンカチで叩きまくって溶接し直し、もう一度飛ばしたら実際に飛んだ、という話がある。
真偽はともかく、彼はとにかく「やってみて、自分で実証する」という姿勢なんですよね。安全面や法的基準の問題は当然あるにせよ、自分が納得できるポイントは別にある。その基準で通説を覆しにいく姿勢は大事なことだと思うんです。
その姿勢を自分だけの物語として、それぞれが自分の人生で追究していくことで、多様な未来が開かれていくのかなと。そういう変な人こそ、世界にとっては、超ウェルカムと思っています。
雨宮 そういう飛躍した発想や実証的な視点が、何か新しいことをもたらす可能性があるわけですよね。それが日本のテクノロジー政策を良くするかもしれませんし、逆に陰謀論を有用なものに変えていく可能性があると。まあ、あまり危険な方向に本気を出す人が増えると危うい事態になりかねないので、倫理観の重要性は言っておかなくてはいけないのですが。
樋口 僕はもともとパンクロックが好きで。パンクロックってDIYの精神がある一方で、パンクロックそのものも一つの型じゃないですか。
だから、パンクロックが好きなんだけど、いかにパンクを否定しながらオリジナリティを追究するか、というようなことを青春時代ずっと考えていて、そういう思考しかできなくなったんです。だから外から様式をパクることしかないって居直るのは嫌なんですよ。
もちろん、そもそもオリジナリティなんて存在しないという考え方もあるし、難しいことなんだけど、それでもなお、何かの仕方でオリジナリティを追究してみませんか、と。少し押しつけがましいかもしれないけれど、それを提案するのが自分の仕事なのかなと思っています。
(取材・構成:茂木響平)
プロフィール

ひぐちきょうすけ SF作家、コンサルタント、東京大学大学院客員准教授。1989年生まれ。SFの社会実装をミッションとするAnon Inc.でCSFO(Chief Sci-Fi Officer)を務める。著書に『構造素子』『Executing Init and Fini』(早川書房)『未来は予測するものではなく創造するものである』(筑摩書房)、『AI先生のSF小説教室』(晶文社)、『反逆の仕事論』(PHP研究所)、『何もかも理想とかけ離れていた』(双葉社)など。
あまみやじゅん オカルト・スピリチュアル研究家。幼少期のオカルトブームや思春期のカルト宗教事件多発により、オカルトやカルト集団に関心を持つ。元はオカルト少年だったものの、成長と共に懐疑派に転向し、科学に関心を持ったことから理工系大学院を修了。ライターデビューはマルチ商法集団についての取材だが、以降は陰謀論に関する記事を多く手掛ける。著書に『あなたを陰謀論者にする言葉』『危険だからこそ知っておくべきカルトマーケティング』、共著に『コンスピリチュアリティ入門』がある。


樋口恭介×雨宮純







金子信久
佐田尾信作×前田啓介
高畑鍬名×伊賀大介
田村正資