対談

電機産業だけではない。日本企業は何を間違えたのか?

『日本の電機産業はなぜ凋落したのか 体験的考察から見えた五つの大罪』発売記…
桂 幹×江上剛

頭のいい人間は雇うな! ダイバーシティのない弱さ

江上 僕はいつも会社の社長に、「頭のいい人間は雇うな」と言っています。僕がいた銀行にはいわゆる“頭のいい”人はいっぱいいる。だけど、その人たちは役所と同じで、毎年右肩上がりの事業計画を立ててしまう。経済成長率以上に数字を伸ばしたり、右肩上がりの計画を立てるんです。そして役員もこれにOKを出す。「なんでOKを出すんですか」と聞いたら、他の会社のパイを獲れば達成できるから、と言うわけです。

 銀行の人事部にいた時に、頭のいい人ばかりを採るのはダメだと思いましたね。入ってくるのが、大学どころか高校も麻布とか開成とか一緒なので、同質な人間しか採用しないことになって発想が同じになってしまうんです。

 それは本当にそうですね。さらに、同じ企業にいると、どうしてもその企業カラーに染まります。終身雇用でずっと同じ企業にいたり、部署も変わらないとなると、DNAがどんどん重なってきてしまう気がします。その弊害は大きいです。

江上 だから雇用の流動化は進めた方がいい。給与などの問題はあるにしても、国としては流動化をできるようにした方がいいですよね。

 このあいだ『ザ・パターン・シーカー』という本を読んだんです。自閉症の人が世の中の発明をけん引してきたというアメリカの心理学者の本ですが、エジソンもイーロン・マスクも、みんな自閉症的な傾向があるそうです。

 スティーヴ・ジョブスも一般社会では通用しないような人ですよね。そういう尖った人が日本の大企業で活躍できるかというと難しいかもしれない。

江上 昔、富士通でパソコン作った池田さんという研究者の本を読んだことがありますが、この人もそういうタイプの人だった。今模索しているのは、そういう人たちを活かせる多様化の社会でしょ。会社の中では、チームリーダーになったり出世したりするのは、組織人としてバランスの取れた人で、個性的な人はそこからこぼれ落ちていくけれども。

 少子化で15歳から65歳までの労働生産人口が減って、将来の日本社会に問題が生じると心配しているわけです。多様性を考えたら、65歳以上でも才能があれば活かせばいいし、中学生でも才能のある人はいっぱいいるわけで、会社がそういう人たちに実験的にいろいろやらせてみるとか、そういうことがあってもいい。でも、困窮している会社や社会にはその余裕がないでしょうね。

 そういう社会になってほしいですけどね。いろんな人が自分の持ち味を十分に発揮できる社会にね。

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プロフィール

桂 幹

1961年、大阪府生まれ。86年、同志社大学卒業後、TDK入社。98年、TDKの米国子会社に出向し、2002年、同社副社長に就任。08年、事業撤退により出向解除。TDKに帰任後退職。同年イメーション社に転職、11年、日本法人の常務取締役に就任も、16年、事業撤退により退職。今回が初の書籍執筆となる。

江上剛

1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学卒業後、第一勧業銀行に入行。2002年『非情銀行』で作家デビュー。主な著書に『会社という病』(講談社+α新書)『会社人生 五十路の壁 サラリーマンの分岐点』(PHP新書)、小説「庶務行員 多加賀主水」シリーズなど多数。

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