対談

火中の栗を拾った二人~「会社は誰のものか」プロキシーファイトが問いかけた事業承継の本質~

大塚久美子×福田淳 対談(前編)
大塚久美子×福田淳

 大塚家具の元社長であり、現在は数々の企業でコンサルティングや社外役員を務める大塚久美子氏が、『後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える』(集英社新書)を昨年11月に出版。一方、ブランドコンサルタントやプロ経営者として数々の企業の再建を手掛け、新著『結局、熱狂できる人がうまくいく。 タブーを恐れず成果に導く60の金言』(PHP研究所)を上梓した福田淳氏。
 かつて大塚家具のリブランディングを通じてタッグを組んだこともある両氏の対談が実現した。前編では、大塚氏が直面したプロキシーファイト(委任状争奪戦)の裏側にあった「価値観の相違」を通して、リアルな事業承継の深層に迫る。

構成/井尾淳子 撮影/織田桂子

「火中の栗」を拾う二人の出会いとカルチャーギャップ

福田 今日の対談は、僕の本(キャリア・ビジネス論)と久美子さんの本(事業承継)、表面的には全然違うテーマに見えますが、共通しているのは「火中の栗を拾う」ということですよね。

大塚 お互い、そこに飛び込んでしまうタイプですね(笑)。私は10数年前に大きな火中の栗を拾いました。

福田 以前から久美子さんは、憧れの経営者の先輩でした。共通の知人を介して初めて大塚家具のショールーム見学会にお伺いしたとき、寝具担当の方から「いい枕と悪い枕の違い」を教えていただき、ものすごく感動したんです。社長室にも現代アートがたくさん飾られていて、銀座の寝具専門店も素晴らしかった。「大塚家具はこれほど高付加価値で、ライフスタイル全般を提案できる会社なのか」と驚きました。

大塚 眠りには力を入れていましたからね。その見学会では私自身も“家具オタク”の本領発揮でした(笑)。その後、福田さんにリブランディングのコンサルティングをご相談したのでしたね。

福田 はい。その後、ヤマダ電機(現:株式会社ヤマダホールディングス)さんとの提携もありました。ただ、大量生産・低価格文化と、久美子さんが目指す高付加価値なカルチャーでは、相容れない部分があったのではないですか?

大塚 そうですね。基本的なカルチャーの違いはあると思いますが、面白いもので、大きな組織の中にはいろいろな人がいます。違いがあるからこそ、違いを上手に活かせば、面白いことができることもあります。当時、福田さんとも話していたのは「家電も家具も高付加価値なものは大塚家具で、お求めやすいものはヤマダさんで」という、“顧客層の横割り”で再構成する戦略でした。そうすれば両方とも伸びるはずだと。しかし、提携の直後にコロナ禍になり、家具店は営業自粛、家電店は営業可能という逆風が吹き、当初の想定通りには進められませんでした。

プロキシーファイトの真の引き金

福田 会社にはいろいろな運命がありますが、大塚家具が持っていたDNAや歴史はとても価値のあるものだったと思います。今回、久美子さんが「事業承継」というテーマで本を書こうと思われたのはなぜでしょうか?

大塚 私自身が経験したことに対する疑問を解こうと考える中での気づきを共有したかったからです。私は長く父(大塚勝久氏)と一緒に仕事をしてきて、父の考えや行動はかなり深く理解していて、予測を外すことも余りありませんでした。「こう言ってはいるが、考えているのはこういうことだな」と。でも、初めて完全に予測を外したのが、あのプロキシーファイトだったんです。本当に最後までやるとは思っていませんでした。高付加価値の小売業にとって、ブランドイメージが傷つく争いはダメージが大きすぎますから。

福田 そうですよね。そもそもプロキシーファイトに至ったきっかけは、お父さまが春日部にお店を出したい、とおっしゃったことでしたね。

大塚 ええ。父がリタイアメントプランとして、自分の生まれ故郷である春日部に、引退後も自分が家具の営業ができるような大きな拠点を作りたいと提案しました。詳しいことは本に書きましたが、取締役会としては、その投資を通せなかった。それが、父が株主提案をした理由になりました。

「会社とは誰のものか」という根本的な価値観のズレ

大塚 事業承継の過程では、意見の対立や感情的な葛藤は珍しいことではありません。それでも、「会社が良くなることが第一優先だ(企業価値が大事だ)」という共通の価値観があれば、必ずどこかで妥結の糸口が見つかるものだと思います。実際、私は、父が自分の作った会社だから、会社を傷つけるような手段まではやるはずがない、どこかで落とし所が見つかるはずだと思ってました……。

福田 いや、思いますよね。

大塚 無意識に思い込んでいて、本当の意味で警戒してなかったんだと思うんですよね。でも、現実は違った。
日本的経営って言いますけど、なんとなく自分が勤めている会社のことを共同体だと思っているじゃないですか。そこに帰属意識を持って、それに貢献しなきゃいけないとか、そういう気持ちを昭和の時代の人って持っていたと思います。私もそういう感覚があった。でも、創業者には違った感覚があるのだと思います。自分の自己実現のために事業を起こし、人生を懸けて事業を成長させ、自分のアイデンティティとなっていますから、会社は自分と切り離せないものです。切り離したら、価値はなくなるんです。「会社か自分か」という究極の選択では、自分に天秤が傾きます。

福田 なるほど。「会社に対する認識」そのものが違ったのですね。それは深いですね。

大塚 はい。社長を退任して、事業承継について話を聞きたいというようなお声をかけていただくようになり、改めてあの時に予想を外した原因について考える中で、ああ、「会社」そのものについての根本的な認識が違ったのだと腹落ちしたんです。

福田 日本でも今は、会社は共同体ではなく「株主のもの」という意識に変わってきていますね。

(後編に続く)

関連書籍

プロフィール

大塚久美子

(おおつか くみこ)
埼玉県生まれ。1991年、一橋大学経済学部卒業。クオリア・コンサルティング代表。94年、大塚家具に入社、96年取締役。経営企画、営業管理、教育研修等の長を歴任。2004年に退職し、翌年、クオリア・コンサルティング設立、代表に。09年、大塚家具社長就任。14年7月に社長職を離れるが、翌年1月に再任。20年の退任後は現職。明治大学グローバル・ビジネス研究科兼任講師。著書に『後継者不足時代の事業承継 当事者の視点で考える』(集英社新書)

福田淳

(ふくだ あつし)
スピーディ 代表取締役CEO(現任)、STARTO ENTERTAINMENT社 創業CEO、ソニー・デジタル エンタテインメント 創業CEO。日本最大のタレントエージェント経営、世界19か国での出版事業、ロサンゼルスでアートギャラリー運営、カリフォルニア全域・日本の沖縄・富士山麓でリゾート開発、無農薬ファーム運営、エストニアでのデジタルコンテンツ開発、スタートアップ投資など世界中でビジネスを展開。受賞歴にカルティエ「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」受賞 (2016年)など。月刊誌『GOETHE』連載中。『好きな人が好きなことは好きになる』(Speedy Books)など7冊の著書、講演多数。

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