対談

暴言・命令形・ハラスメント…ルール違反のコミュニケーションに人はなぜ惹かれてしまうのか?(後編)

玉置周啓×水野太貴

ルール違反のコミュニケーションに人はなぜ惹かれるのか

──水野さんに、言語学的な見地からうかがいたいのですが、『奇奇怪怪』では、もちろん玉置さんとTaiTanさんの関係性を前提として、「うるせえ」とか「黙れ」とか、時には「死ね」といった言葉が交わされているのですが、これについてはどう考えますか。

水野 その話、しちゃいますか。

玉置 言葉だけ抜き出すと、とんでもない番組ですよね。

水野 玉置さんと対談するなら、この話は避けて通れないなと思っていました。

──要は、別に黙ってほしいと思っていなくても、人は「黙れ」という言葉を使う時がありますよね。

水野 「黙れ」は命令形ですから、たしかに言葉だけで考えると、相手を黙らせたい時に使います。だけど、人間は言葉を意味だけで解釈しているわけではなくて、言葉の奥にある含意を読みとります。これはポール・グライスという言語哲学の学者が言っていることですが、簡単にいうと、会話には4つのルールがあって、そのルールに違反しているにもかかわらず、あえて発せられた言葉というのは、何かしら別の意味があるんだ、と。違反してでも伝えたいメッセージがあるはずだ、ということです。

玉置 ちゃんと研究されているんですね。

水野 ルール違反を共有している間柄で「黙れ」という言葉が発せられた時、これは黙ってほしい以外の含意があるはずだと、人は爆速で推論します。その結果、大きなトラブルにもならず、コミュニケーションが行われている。というのが言語学的な説明になるでしょうか。

玉置 へぇ、すげえ。めっちゃおもしろい。

水野 同じPodcast番組だと、『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』でも、たびたび「私たちの間では問題ないけど、これほかの人が言ったら完全にハラスメントだからね」みたいな会話をしてますよね。関係性に依存したコミュニケーションであることを自覚しているからこその発言。

──『奇奇怪怪』も『OVER THE SUN』も人気番組ですから、そんなルール違反のコミュニケーションに多くの人が魅了されている、というのも興味深いです。

水野 ある雑誌の編集長が言っていたんですけど、「紙の雑誌は炎上しにくいプラットフォームなので、フィルターバブル疲れした人に寄り添えるんじゃないか」って。わざわざお金を払う人しか読まないので、関係性に依存したコミュニケーションが成立しやすい。それを聞いて、Podcastにも通じる話だなと思いました。

玉置 ネットのフィルターバブル疲れもあると思いますけど、そういう罵詈雑言だったり、ハラスメントになり得る言葉を言い合えるような関係性、つまり、仲のいい友人だったり、言語を雑に使っても大丈夫な相手がいない人が多いんじゃないかなって思います。とくに若い世代は、乱暴な言葉を使わないことがだいぶ内面化されているだろうし。

水野 おもしろい視点ですね。「黙れ」と言える相手がいない。

玉置 大人になるにつれて、社会的に補正されるのは当然ですけど、TaiTanとしゃべっていると、子ども時代にただおもしろいからって快楽的に口にしていた語彙を再現しているような気分になることがあるんです。

水野 なるほど。リスナーはその関係性に憧れる、というのはよくわかります。

玉置 別に僕とTaiTanの乱暴な言葉のやりとりが正解だなんて決して思わないし、推奨もしないですけど、こういうコミュニケーションもありなんだ、っていうのがPodcastとしてアーカイブされることは、意味があるのかもしれないなって思うようになりました。

水野 TaiTanさんとの関係性は、ずっと変わらず、ですか?

玉置 最近はもう二人で一人になってきたなっていう感じですね。

水野 え、どういうことですか?

玉置 僕とTaiTanのキメラがしゃべってる、みたいな。お互いに、自分が思っていることや言いたいことを相手が先に言ってくれる状況というのがけっこうあって、それってもう対話じゃなくて、同じ意識の一人が別々の口からしゃべってるみたいな感覚なんですよね。

水野 それは本当にすごい関係ですよ。

玉置 僕なんてほとんどあいづち打ってるだけですけど、TaiTanが言葉に詰まった時ほど、僕のほうが口がまわったりするんです。あとは、TaiTanの話を聞いていると、実際は初めて聞く話なのに、まるで自分も前からそう思っていて、TaiTanの声を聞きながら整理しているような気分になることもあったりとか。

水野 それは関係性とかではなく、もう思考が繋がってますよ。長い時間ずっとしゃべっていると、考え方や使う言葉も近くなってくるでしょうから。

玉置 あまりに一体化すると、それはそれで危険だなとも思うんですけどね。

水野 僕もそうですけど、相方によって、自分でも知らなかった一面を引き出されているなと感じることは多々あるので、それだけでも貴重な体験ですよ。今後どうなっていくか、楽しみですね。

玉置 言語学の変なサンプルとして、使ってください。

取材・文/おぐらりゅうじ 撮影/野﨑慧嗣

『奇奇怪怪』

2020年5月にPodcastで配信開始。2023年5月、番組名を『奇奇怪怪明解事典』から『奇奇怪怪』にリニューアル。2024年より、全プラットフォームへの配信がスタート。パーソナリティは、ヒップホップユニット「Dos Monos」のラッパーTaiTanと、バンド「MONO NO AWARE」と「MIZ」のギターボーカル玉置周啓。日々を薄く支配する言葉の謎や不条理、カルチャー、社会現象を強引に面白がる。ガンダーラを漂う耳の旅。著書に、『奇奇怪怪』(2023年、石原書房)などがある。

『ゆる言語学ラジオ』

2021年1月にPodcastとYouTubeで配信開始。パーソナリティは、編集者の水野太貴と、YouTuberで著述家の堀元見。「ゆるく楽しく言語の話をする」をコンセプトに、水野が持ち込んだ言語にまつわる身近なトピックを、堀元が聞き役として進行する。著書に『言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼』(2023年、バリューブックス・パブリッシング)などがある。

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