高額療養費制度〈見直し〉問題をめぐる違和感について語り合う【後編】
勅使川原真衣×轟浩美×西村章ジャーナリストの西村章氏は、2024年末の政府〈見直し〉案に始まる一連の問題を追い、その成果を『高額療養費制度 ひろがる日本の〈健康格差〉』(集英社新書)にまとめた。なぜ高額療養費制度〈見直し〉は行われたのか。議論の進め方に問題はなかったのか。
自分が抱くちょっとした「違和感」を大切にすることの重要性を説いたのが、組織開発専門家・勅使川原真衣氏の近著、『組織の違和感 結局、リーダーは何を変えればいいのか?』(ダイヤモンド社)だ。今進んでいること・起こっていることに対する「違和感」を口に出すことが、今とは違う「よりよい未来」の構想の第一歩になるのではないか。
そんな切り口からなされたお二人の対話の後編には、“特別ゲスト”も登場した。
※2026年5月8日、隣町珈琲にて行われたイベントの一部を採録したものです。
当事者が語る、〈見直し〉の裏側
西村 後半では、僕と勅使川原さんの間におひとり来ていただきました。前半の話でも触れた患者団体、全国がん患者団体連合会(全がん連)事務局長の轟浩美さんです。高額療養費制度の要望活動をはじめ様々な活動をしているなかで、じつはご自身も疾患に罹患していることが昨年判明しました。そういう状態でも、治療を続けながら患者団体としてまさに八面六臂の活動を続けている、人間的にも素晴らしい方です。
轟 よろしくお願いします。今日は観客として見に来ていたのですが、急に前に座らせていただくことになりました。
西村 昨年の参議院予算委員会で轟さんは参考人として証言をしていて、その際の映像をご覧になった方もいらっしゃると思います。石破前首相に一時凍結を決断させた最大の功労者のお一人です。今国会でも、3月の参議院予算委員会で参考人として証言されましたよね。
轟 今のお話にあったように、私は去年、胆のうがんのステージ4だとわかって、現在はその治療中です。10年前には夫をスキルス胃がんで亡くしたのですが、このスキルス胃がんは若い女性の罹患が多くて、小さいお子さんを残して旅立たれる人が多いのです。高額療養費の利用実態をわかってもらうために去年1月に全がん連で緊急のオンラインアンケートを実施した際には、3日間で3600人以上の回答がありました。このアンケートは国会議員の皆様にもお渡ししたのですが、スキルス胃がんに罹患した若いお母さんの「自分の治療代にお金を使うくらいなら、子供の教育費にあてた方がいいのではないかと悩んでいる」という切実な声は国会で何度も取り上げられました。
私はスキルス胃がんの患者会代表をしていたので、自分は見ることがないであろう子供の入学用品やランドセル、成人式の着物を作って旅立っていった人たちを実際に知っています。その話を石破前総理の前でした際に、「この話を聞いて心が震えない人はいない」と言っていただき、その数日後に一時凍結が決まった、という経緯です。

西村 今国会では、轟さん以外にも、全がん連理事長の天野慎介さんや、天野さんとともに高額療養費の専門委員会に患者団体代表として参加している日本難病・疾病団体協議会(JPA)代表理事の大黒宏司さんが参考人や公述人として証言をしているんですね。いずれも、「自己負担引き上げの金額はあくまでも第9回目の専門委員会で厚労省から提示されただけで、充分な議論はしていません」という主旨の証言をしているんですが、その人たちを前にしても「9回にわたる丁寧なご議論をいただいて金額を決定いたしました」と平然と言ってしまう上野厚労相や高市首相には本当に呆れました。
轟 そうですね。私たちは分断を呼んでしまうと物事が進まなくなると考えているので、反対だとか賛成だとかではなく淡々と事実をお伝えして、前半でも取り上げられていた「(なぜそういう結論になるのか)よくわからない」ということを言い続けています。
今回の国会参考人招致で私が言ったのは、 昨年の第8回専門家会議で「高額療養費の見直しの基本的な考え方」が取りまとめられて2025年12月16日に政府が発表した内容は、私たちも納得できる「医療保険制度全体の中で丁寧に考えていきましょう」という方針だったのに、その後に24日の厚労相と財務相の大臣折衝で引き上げ額が決まって、 25日の第9回専門委員会でポンと金額を出された、という事実経過の説明です。そのことに関して、全がん連とJPAは即座に「この金額は充分に抑制されているとはいえない」という声明文を出しているのに、「議論の結果、患者団体も納得している」と政府はおっしゃっているのです。
でも、金額が提示された第9回の議事録にも記録されているのですが、厚労省の方は「宿題をいただいたと考えている」と発言しています。「宿題」ということはつまり、この後もこの課題について丁寧に話しあっていこうというお考えだった、ということですよね。
政府の案が示された後には衆議院が突然の解散総選挙になって、それで国会の開催が遅くなり、始まってからは与党議員の数が圧倒的に多い状況で、すごくスピーディーに引き上げが決まりました。しかも「令和 8年(2026)と9年(2027)のパッケージで進める」と上野厚労相は国会でおっしゃっているのですが、どこにもそんなことは書いていません。なのに、2年間のパッケージで上げることがあたかも決定事項であるかのように進めてしまうのは、丁寧に議論を進めるという「基本的な考え方」で示した方針とは違うのではないか、ということを私たちは言い続けています。
西村 あの「パッケージで実施する」という政府の論法は、今国会が始まってから言い出したことですよね。第8回の専門委員会で「基本的な考え方」の文章を煮詰める議論をしていた時も、第9回に引き上げ額を厚労省が委員の前で提示した時も、パッケージという言葉は使っていないし、その考えかたも示していませんでした。今年8月の上限額引き上げは、予算案とも紐付いていてすでに国会を通過し、今は健康保険法の一部改正案が議論されていています(2026年5月29日に参議院を通過)。その付帯決議案に高額療養費制度に関する事項が盛り込まれていますが、上野厚労相の言うとおり引き上げをパッケージで実施するなら、付帯決議案の「必要な医療へのアクセスが阻害されないように留意すること」という文言は空文化してしまいますよね。それだと全然「留意」していることにならないわけですから。上野厚労大臣はその後に「パッケージで引き上げを実施した後に留意する」と答弁したんですが、それを聞いたときには呆れて二の句が継げませんでした。
轟 私たちはもう1年半以上も連日議員会館へ通い続けて国会議員さんたちに会ってお話をしており、その毎日は今も継続中です。今は、なぜパッケージで進めるのか、という疑問をお伝えしています。今年8月の引き上げは予算案が通ったけれども、来年度の引き上げは来年度の予算案に関わることだから、「2年間のパッケージで引き上げを実施します」という政府の説明は丁寧な審議とは違うのではないか、という素朴な疑問をご説明しています。
この疑問に関して「そうだよね」と思っていただける議員さんたちをいかに増やしていけるか、がこれからの課題ですね。とはいえ、健康保険法の付帯決議案として、高額療養費に関することをあれだけたくさん盛り込んでいただけたのは、昨年1月に私たちが動き出した時のことを思えば奇跡のようなことだという気もします。
私は「打ち出の小槌はない」と考えていて、つまり、人がそれまで思っていた考えを変える時は心が動かないかぎり無理だと思っています。人って、誰しも変化は怖いじゃないですか。だから、官僚のお仕事などは社会人として鎧を着て仕事に邁進していらっしゃるのだろうと思うんですが、じゃあいち個人としてはどうですか、と訊ねてみると、ご家族や知り合いに病を抱えている人がいたり、まさにご本人が当事者だったりすることもあるので、こつこつノックをしていくと鎧の下にいる人が出てくるんですよね。そうやって鎧の中から出てくる人をいかに増やせるか、ということでしか物事はおそらく変えられないかなと思っています。

勅使川原 「打ち出の小槌はない」かぁ……。これは物事の本質かもしれないですね。私も「魔法の杖はない」という表現を組織開発で使っていたんですが、本当にロミさん(轟浩美氏の愛称)のおっしゃるとおりですね。「有力な伝手もないのに主張なんてしてはいけないのかな」とか「反論の余地が一切ない仕組みを考えてからじゃないと、SNSでは発信しちゃいけないのかな」と思いがちだったんですが、そういう先入観のような自分の思い込みを崩す勇気もいただいた気がします。でも本当に、無理はしないでくださいね。
轟 はい(笑)。
会場からの質問
勅使川原 今日はせっかくたくさんの方が会場にいらしてくれているので、ぜひ皆さんからも素朴な疑問や、うまくまとまらなくても言葉に出してみたいことがあれば、ぜひご発言をいただければと思います。いかがでしょうか。
質問1 今日はありがとうございます。今の轟さんのお話では、素朴な疑問を官僚や議員の方々に伝え続けて理解してもらえる人を増やしていく、ということですが、日々議員会館を訪れる際には言い方や切り口をどんどん変えていくのか、それともずっと同じことを真摯に言い続けるほうがいいのか、そのあたりの感触を教えていただければと思いました。
轟 ありがとうございます。人によって内容を変えることはもちろんしませんけれども、相手の方によって伝わりやすい話しかたはそれぞれ違うと思っています。たとえば、じっくりとお話ししたほうがいいことはわかっていても、すごく忙しい時に時間を割いていただいている場合だと、のんびり話をしているといらいらしてしまうだろうから、相手の立場や状況次第で変えることはしています。そういうことを考えて接していると、相手の方にも「自分の事情を知っていて、配慮してこういうふうに話してくれているのだ」ということが伝わるように感じています。だから、そこはすごく気にしているところです。
勅使川原 このお話もすごく組織開発的だなと思いました。メッセージの核は変わらないとしても、人によって持ち味は違うので伝わりやすさや受け入れやすさや、腹が立ってしまうポイントなどもまた違いますよね。教えていただいてありがとうございます。
次は手を挙げていただいている兪炳匡先生、お願いします。
兪炳匡(早稲田大学教授、専門は医療経済学) ありがとうございます。コメントをひとつと、登壇者の皆さんに質問がひとつあります。まずコメントです。私は医療経済学を長年研究してきましたが、患者さんの自己負担をいくら増やしても国全体の医療費は減らないんですよね。これは30年前にすでに決着しているにもかかわらず、なぜか日本では患者さんの自己負担を継続して引き上げ続けているんですが、これは社会の連帯を潰すと思います。たとえばドイツでは、公的医療保険制度の目的は社会連帯のためと明言していますし、フランスの場合、医療の皆保険制度を創設した当時の省庁の名前は、連帯省でした。公的医療保険は社会の連帯感を強めるので、その連帯感を潰す目的が近年の日本の政府には、はっきりではないにせよあるのではないか、と疑いたくなります。
質問ですが、私は医療関係のことで、官僚や政治家にブリーフィングに行った経験がありますが、エビデンスを出しても彼らはなかなか動いてくれません。「予算配分を変えるのはサイエンスじゃない、最後は世論だ」とはっきり言われました。つまり、まず世論が動き、ついで政治家が動けば官僚も動かざるをえない、ということです。全国紙の一面トップ記事や論説が官僚や政治家に大きな影響を与えた時代もありましたが、昨今は新聞を読む人が激減しているため、新聞の影響力も弱くなっていて、他方でSNSはメディアとして怪しい面もある。では、どうやって世論を盛り上げる新しいメディアを作ればよいのか、教えていただければと思います。
西村 どうやれば世の中に伝わるのかということは、僕も常々考えることです。新聞やテレビの影響力は世間全体で見れば確かに落ちているのでしょうが、それでも霞が関や永田町の方々にはいまだにものすごく大きな力を及ぼすそうです。特に全国紙の新聞や民放の夜のニュースはかなり効果的だ、と聞いたことがあります。去年の3月に当初の〈見直し〉案が一時凍結に至る過程では、いろんな要素が影響したと思いますが、民放の夜のニュース番組に2夜連続で高額療養費の問題が取り上げられた際に、「こういう報道が続くと政権が持たない」という判断につながった、という話も聞きました。だから、オールドメディアと言われていても、霞が関や永田町では一定の大きな影響力が今もあるのだろうと思います。
その一方で、高額療養費の問題が新聞やテレビでもオンラインニュースでもほとんど取り上げられなくなっていた昨年夏頃に、あるニュースメディアにアプローチしたことがあるんですが、「よそが騒げばうちもやるんですけどね」とか「今はヒグマですからねえ」という反応でした。そういった横並び体質も、日本のメディアの一面だと思います。
政治を動かすという意味では、先日、選挙取材の第一人者の畠山理仁さんが「日本の有権者は政治家に声をかけなさすぎる。政治家は何でも知っていると思いがちだけれども、意外なくらい有権者が抱えている現実を知らない」と指摘していました。だから、自分の選挙区出身の地元政治家にもっと分厚く声を届けることはしてもいいのかな、と思います。
勅使川原 私からもよろしいですか。すごくいいコメントとご質問をいただき、ありがとうございます。今の兪先生のお話にはいくつかポイントがある気がして、ひとつは「水は上流から下流に流れる」ということです。つまり、上流と下流の両方から挟み込むように押さえていく、ということを私は組織開発でも心がけるようにしています。上流下流というのは立場や地位ということではなくて、たとえば「理念」と「草の根の実践」という意味での上流と下流と言えばいいでしょうか。企業側の求める人材像や「能力」の考え方にアプローチをしながら、ワークショップを開いたり、時には自分の子供のPTA活動に参加したり、と臨機応変に立場を変えながら挟み込んでいく、というようなイメージです。
もうひとつは、エモい話になって恐縮なんですが、楽しそうに素敵に活動することも大事にしています。活動の「えぐさ」というか渋味のようなものばかりが前面に出てしまうと、広く共感を得る社会運動になりにくい気がするんですよね。どんな運動でも、やはり健やかさや楽しさは大切にしたいと思います。ロミさんはいかがですか。
轟 この活動を始めた当初は、じつは報道の方々に「そんなことをやっても無駄ですよ」「国会で決まったらおしまいですよ」「国会の仕組みを知らないんですか?」と言い続けられて、心が折れそうになりました。最初の頃は「高額療養費ってなに?」という人が多かったんですが、それでもコツコツと要望活動を続けていると、どこかの段階で世間の関心が高まってきました。先ほどの「どこかがやればうちもやりますよ」じゃないけれど、どこかがやったんですよね。そのときに反応があると、別のところもやるわけです。それが繰り返されていくと、今度は報道のほうが逆に情報を求められるようになってきました。自分たちの側に載せてもらおうという邪念があると、切り取られて変なことになっていくようにも思います。だから、自分たちは周囲に惑わされずに淡々と続けていくことによって正確な情報が届くようになる、ということをその時に感じました。
新聞やテレビはオールドメディアだと言われていますが、そういうところの力はやはりすごいし、報道が取り上げたということで信頼感を得ることにもなるし、それによってもっと広い層にも届く。いかに多くの人に届けるかということが、やはり重要なのだと思います。
勅使川原 面白いですね。もうひとつ聞いていいですか? ロミさんたちの高額療養費の要望活動って、チームワークですよね。誰かが突出したりして和を乱すようなことがなく、それぞれのキャラクターの特徴があってグループ全体が丸く束ねられている、と聞いたことがあります。要するに、驚くほど人間的な営みなんだ、ということですよね。
轟 そう思います。人を信じないとやっていけないし、信じているからこそ続けることができているのかもしれないですね。
勅使川原 素晴らしいお話をありがとうございます。他にご質問のある方はいらっしゃいますか?
質問2 石破さんが「この話を聞いて心が震えない人はいない」と答弁されたということですが、石破さんはそういう気持ちがわかる人だと私は思っています。一方で現首相の高市さんは人の気持ちがわからない人だと私は勝手に思っているんですが、そんなふうに総理大臣が変わることは活動にどういう影響があるのかということと、高市さんのような人に対してどうアクションすれば轟さんたちの要望活動がいい方向に向かうのか、ということをお聞きしたいと思います。
轟 昨年の石破首相の時は、衆議院でも参議院でもとにかく現場に行って傍聴し続けたんですね。国会はNHKをはじめいろんな局が中継をしていますが、カメラが映っていないところでも石破さんはものすごく人間的な人だと感じました。本当に実直で、何かの時にふっと自分の言葉で言うことがとても温かい。だから、私はこの方を信じたいと思ったし、参議院の参考人として証言をした時も、まったく緊張しませんでした。あの方だったらきっと私の言葉を聞いてくれる、と思ったんですよね。
では、高市さんはどうなのかというと、私は全然違うと思えないんですよ。ご自身も病の経験があるじゃないですか。ただ、違うとしたら、女性初の首相になって、圧倒的多数で選挙に勝った与党の総裁として自分はどうあるべきか、ということがとても大きく影響しているので、石破さんのように自分の気持ちで動ける部分はおそらく少ないのだろうと思うんですね。でも、人間だから、話す機会があれば「まったく聞きません」というような人ではきっとないだろうし、自民党総裁選の時に「高額療養費の引き上げには反対だ」と言った、 あれがたぶん本心だと思うんです。だから、私たちの声が届くといいなと思うし、届いたからこそ、多数回該当の保険者が変わってリセットされる問題には早急に取り組んでいく、という言葉が出たんだと私は思います。
質問3 高市さんが女性政治家として歩んできたであろう道について考えると、やはり相当に自分を殺して生き残ってきて首相の座にたどり着いたのかな、と思います。大先輩の小泉純一郎さんは郵政解散で国民の人気を一気に集めて郵政民営化をやり遂げたわけですけれども、きっとそういうところを高市さんは学習しているのだろうと思うんです。でも、小泉さんのように男ではないし大きい派閥に所属しているわけでもない。だけど、憲法改正など、本人の強い政治的信念でやりたい優先順位を上から数えていくと、高額療養費のことは高くないのかな、と今日の話を聞いていて思いました。国家予算の配分で、日本が本当にジリ貧になっていてすべて切り詰めているのならまだ理解できるんですが、防衛予算は年々増額されているので、個人的にはとても納得がいかないところではあります。
西村 高市首相については、先日の国会で非常に象徴的な答弁がありました。厚労省の〈見直し〉案による保険料軽減は患者の受診抑制を見込んでいると野党議員が指摘した際に、高市さんは「受診が抑制されるとは考えておりません」と答弁しているんですよ。あなたがどう考えようが、実際に厚労省が受診抑制を見込んでいることは彼らの資料に記されているし、さきほどの轟さんのお話にもあったように、実際に受診抑制が発生してもいるんですよね。そういう、目の前にある事実や現実を認めようとしない彼女の頑なさはどこから来るんだろう、ということが不思議でしょうがないんですよ。今日は最初からずっと「不思議でしょうがない」ばかり言っていますけれども(笑)。
おそらくその頑なさを読み解くヒントのひとつは、高市さんの尊敬している人物がマーガレット・サッチャーであるというところにあるのではないかと思います。サッチャーは「鉄の女」と言われていて、その強靱さのようなものを自分も体現したいと思っているのではないか。そんなふうに鎧を身にまとって生きていらっしゃるのかな、と見えなくもないです。
勅使川原 鎧といっても、不安が強そうにも見えますよね。でも、不安は誰にもあるものだから、蔑んだり恥じたりするようなものではないと思います。そんな鎧を纏った相手に何かを訴えるときでも、完璧な理論武装は必要なくて、素朴な疑問を口に出して自分にできることをしていけばいい、ということをロミさんのお話をはじめ、今日のディスカッションで確かめることができて、すごく励みになりました。
そろそろ時間のようですが、西村さんから最後に言っておきたいことはありますか?
西村 今日は高額療養費制度〈見直し〉案に感じる「違和感」が入り口になりましたが、語り出したら長いテーマばかりなので、充分に話しきれなかったかもしれません。でも、それは皆さんと一緒にこれから良い出口や着地点を探していくことが重要だ、ということなんでしょう。勅使川原さんという非常に心強いパートナーに相手をしていただいて、さらに後半では轟さんという素晴らしい人にも加わっていただく機会にも恵まれて、今日は自分自身の勉強にもなったし、今後はさらに頑張って取材活動をしていこうという励みにもなった2時間でした。皆さんも、ここへ来た甲斐があったと思っていただけたのであればうれしいんですが、いかがだったでしょうか。今日は本当にありがとうございました。
轟 突然、参加することになってすみません。このイベントを配信でご覧になっている方は、「あれは誰だろう?」みたいな状態だったと思うんですが、昨年の一時凍結という節目に関わり、今もその渦中にある者として、今日のお話に加えていただけたことをうれしく思います。高額療養費制度の議論は現在も続いていて、多くの人が納得できる着地点を見つけるために、これからも日々、活動を続けていきます。今日はどうもありがとうございました。
西村 勅使川原さんも最後にひとこと。
勅使川原 私からは、今、申し上げたとおりです。本当に今夜は話が尽きないんですが、西村さんとは今日の続きを5月13日の武田砂鉄さんの「ラジオマガジン」(文化放送)でお話ししましょう(*)。
西村 はい、では13日もよろしくお願いします。今日はありがとうございました。
勅使川原・轟 ありがとうございました。
*編集部より

5月13日、文化放送「武田砂鉄 ラジオマガジン」にて、勅使川原真衣さん・武田砂鉄さんと西村章さんのトークが実現しました。
イベントでのトーク内容も引き継ぎつつなされた充実の対話を、ぜひ聞き逃し配信にてお楽しみください!
プロフィール

勅使川原真衣(てしがわら まい)
1982年、横浜市生まれ。組織開発専門家。おのみず株式会社代表。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。ボストンコンサルティンググループ、ヘイグループなど外資コンサルティングファームでの勤務を経て、2017年に独立。企業をはじめ病院、学校などの組織開発を支援する。また、論壇誌やウェブメディアなどにおいて多数の連載や寄稿を行っている。著書に、紀伊國屋じんぶん大賞2024で第8位となった『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)、新書大賞2025の第5位に入賞した『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)のほか、『人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと』(KADOKAWA)、『組織の違和感』(ダイヤモンド社)、『「頭がいい」とは何か』(祥伝社新書)などがある。2020年に乳がんと診断され、闘病中。今夏、自身初の小説となる『「対話」がやってきた』(ホーム社)が発売予定。
轟浩美(とどろき ひろみ)
東京都出身。2015年、スキルス胃がん患者会として「希望の会」発足。16年、夫の逝去に伴い、NPO 法人希望の会理事長就任。17年、 希望の会が認定NPO法人として承認。17年から19 年まで厚生労働省がん対策推進協議会構成員。21年より、全国がん患者団体連合会理事となり、25年には事務局長に就任。25年11月、一般社団法人 igannet 設立(希望の会は解散手続き中)。患者向け胃癌治療ガイドライン作成委員。東京都がん対策推進協議会委員。医療の質・安全学会理事。在宅療養財団理事。
西村章(にしむら あきら)
1964年、兵庫県生まれ。著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞・第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)、『MotoGP 最速ライダーの肖像』、『スポーツウォッシング なぜ〈勇気と感動〉は利用されるのか』(集英社新書)など。自己免疫疾患の治療で2009年から高額療養費制度を継続利用中。






天野慎介×西村章
速水健朗×福尾匠

樋口恭介×中路隼輔
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