2019年春、ロシアで。取材こぼれ話2

宇都宮直子

 ミーシン先生と引き合わせてくれた運命に感謝しています。また、私たちはとてもよい関係にありますので、その関係を保てている運命にも感謝しています」
 彼女の表情は、晴れ晴れしていた。師を信じ、敬う姿勢が、ストレートに伝わってくる。ふたりは「とてもよい関係」なのだ、たしかに。
 
 今シーズン、トゥクタミシェワはグランプリシリーズ2試合に出場し、2度、3位になった。ファイナルへの出場は叶わなかった。
 だが2019年12月現在、彼女は4回転トゥループを成功させている。4回転ルッツの練習を始めたとも報道された。
 トゥクタミシェワが、これから4回転時代に割って入るとすれば、まさに快挙と言えるだろう。22歳からの技術的な挑戦は、それこそ、ひとことでは言い表せないほど難しい。
 アレクセイ・ミーシンは、何かを諦める指導者ではないし、エリザベータ・トゥクタミシェワもそうだ。大いに期待したい。
 話をすべて終えると、トゥクタミシェワは言った。
「本が出たら、送ってくださいね。お願いできますか?」 
「もちろんです。お送りします」
 それから、彼女はあとから来た人と一緒に店を出て行った。

 

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プロフィール

宇都宮直子
ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』『三國連太郎、彷徨う魂へ』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また2022年12月には『アイスダンスを踊る』(ともに集英社新書)を刊行。
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