プラスインタビュー

AIと陰謀論に対抗できるのは「物理世界との格闘」だけ?樋口恭介と雨宮純が考える『21世紀を動かす思想』

樋口恭介×雨宮純

テクノロジーが急加速し、未来が見えにくくなっている現代。SF作家の樋口恭介氏が、そんな時代を読み解くための武器として上梓したのが『21世紀を動かす思想 加速主義・プルラリティ・SFプロトタイピング』(集英社新書)だ。

本書の刊行を記念し、陰謀論やオカルトの取材を続けるライターの雨宮純氏を迎えた対談の後編。前編では、テクノロジー思想と陰謀論の接続点や、オリジナリティの重要性が語られた。しかし、AIに仕事が奪われるという現実的な未来が差し迫る中で、仕事や社会を取り巻く変化を私たちはどのように見つめればいいのか。

AI時代に不可避な生存戦略と、既存の知性が無効化されていく未来の姿を、両氏が忖度なしの本音で語り尽くす。

『21世紀を動かす思想 加速主義・プルラリティ・SFプロトタイピング』

AI時代に必要なのは社会承認

雨宮 未来のことを考えるにあたって、AIによる仕事や生活の変化を考慮することは避けては通れないですよね。

樋口 巷でもよく言われるように、間違いなくAIで雇用は奪われるんです。本当は現時点でも、ホワイトカラーの仕事の相当な部分が既に、AIに置き換えられるようになっている。だからといって日本では簡単に解雇できる訳でもないし、人を雇い続けることでお金が生まれるモデルが残っているから雇い続けるしかない。でも実際には、多くの人はやることもないのに会社に行って、やる必要もないことをやらされている。つまり潜在的に失業しているんです。

そんなことやってて病んだり狂ったりしないはずがないですよね。「この人生は何?」「私の居場所はどこ?」と思ったやつから突飛な行動をとるようになる。実家で父親と飲んでいるときに、「一億総活躍だとか言って働くのに向いてないやつらまで無理して働かせるから、刺したり刺されたりするんや。引きこもりたいやつには引きこもらせとけ!」とか言っててマジで爆笑したんですけど、ほんとそのとおりだなと思ってて、でもその傾向はより加速している。だからこれからは、よりいっそう社会承認の問題が全面化してくるはずです。そうなると、社会や文化は多くの人に、自分が社会的に主体性を発揮して、承認されている感覚をいかに与えることができるかが大事になってきますよね。

雨宮 陰謀論のコミュニティに入る人が、社会承認を求めているという指摘はよくされますが、その一形態として政治への参画が目立ってきていますね。かつての「NHKから国民を守る党」を率いていた立花孝志氏には「地方議員は、そりゃあもうオイシイ仕事ですよ!」という発言もありますが、彼が口火を切ってしまった「雇用型労働とは異なる生き方として、地方議員に狙いを定めるケースの定着」もその一例です。例えば、参政党のコミュニティで頑張っていると、新型コロナ禍と参政党の発信をきっかけに政治に関心を持ち、あまり具体的な政策には明るくなさそうなタイプでも地方議員、下手をすると国会議員になれたりする。参政党には批判的な私も、この分かりやすい成り上がりルートは魅力的だろうなと思います。

政治家という職業は、地域のためになる仕事がちゃんとできて、安くはない給料がもらえる上、自由時間もありそうに見える。しかも、その自由時間を使ってYouTuberやTikTokerとしての活動を並行し、上手くいけばインフルエンサーに成り上がり、刺激的な人生を送れるかもしれない。ある一定の人々が、潜在的に求めている社会承認を政治家になることで満たせることに気づきはじめているんです。

とくに若い人のなかでは、「企業に入って一兵卒になるより、地元で政治家を目指す方が楽しそう」と思う感覚があるのではないでしょうか。そういったニーズに新興の政党が気がついて、若い人々を取り込んでいる。だからこそ、従来のキャリアパスとは異なる魅力的な選択肢が必要とされてると思うんですよね。

樋口 その指摘は非常に面白いですね。「普通の会社員になってもつまんなそうだからいっちょ政治でいくか!」みたいな感覚でしょうか。たしかに10年前だったら起業を目指していたであろう大学生たちにとって、政治家になることがリアルな選択肢になってきたことが、ある種の政治の盛り上がりに繋がっているのもあるのかもしれないですね。

雨宮 社会承認の問題が全面化してくるという話がありましたが、今の社会で会社員のキャリアを考えるとき、「仕事がつまらない」という観点が軽視されていると思うんですよ。仕事は有意義なものであって、みんな自己成長をしたいはずだというイデオロギーが前提になりすぎている。「いや、そもそも仕事がつまらないんだけど」という感情が切り捨てられているのかなと。その結果、もう陰謀論にでもハマらないと、自分の人生が無価値なんじゃないかという虚無感に陥りがちな時代になっているとも思うんです。宗教なき時代の宗教じゃないですが、そういう個人の社会承認欲求に寄り添った思想が必要になってきている。

会社員として我慢して働き続けて、貯金や投資をしてFIRE(Financial Independence, Retire Early:早期リタイア)したらアガり……みたいなルート以外の将来への希望を、今の社会が与えてくれるわけではないですから。だから、陰謀論とか、たとえ色々な批判がされているとしても、その新興政党のコミュニティで地方議員を目指すとか、僕も今の若者だったらそういう方向に惹かれてたかもしれないなとも思います。

樋口 もう社会が面白くないんですよね。何もかも予測可能で既視感と反復感があって。社会が面白くないから、社会破壊活動をしているめちゃくちゃな政治家が面白いものかのように見えてしまうのかもしれません。実際はそういうパフォーマンスも既製品の流用にすぎないことも多く、面白いことなんてないわけですが。だからこそ、さっき(前編)の話でいう、オリジナリティのある面白い妄想をしてぶっ飛ぶのが大事だと思うんですけどね。

樋口恭介氏

必要なのは現場の身体性

樋口 これからAI時代の進化と共に起きることとして、知識を持つことの価値が下がってくるだろうと思うんです。なんなら、もう既に現時点でないのかもしれない。この対談すら無意味かもしれないという世界観になってくる。まあ僕はこうやって雨宮さんと会えて、話せて、それはかけがえのないことで、そこには意味はあるんだけど。

ピーター・ティールとアレックス・カープは、パランティアの経営において「もはや前線で手を動かすエンジニアにしか価値がない」と言っています。フォワードデプロイドエンジニア(前線配置エンジニア)と言って、システムエンジニアリング業界では非常に話題になっていますね。AI時代には、客先の現場に直行して、最前線のぐちゃぐちゃな情報の中にまみれてその場で手を動かして解決するエンジニアだけが、価値のある仕事人として残ると。それはデータやソフトウェアを念頭にした議論ですが、もっと身近に考えると、工業高校を出て物理層の技術を手に職として身につけて、物理レベルの地域課題を解決する仕事をしている人たちが一番当てはまると思うんですよね。

しかも、これからの日本では、空き家問題、道路陥没、水道管やガス管破裂といった物理的なインフラに関わる問題がどんどん起きていく。こういう時に一番クイックに地域課題を解決できる工業高校出身の技術者が、AIを搭載したドローンを操作し、老朽化した道路や橋をセンサーで特定しながらVibe Coding(設計ありきではなく、AIと協働で組み立てていく作業の志向性)でLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)を経由してその場で修理するような社会になっていくかもしれない。そういった仕事が、一番価値がある時代になる気がしています。これからの若い人は、工業高校に行って手を動かしまくるのがいいんじゃないかな。

雨宮 ブルーカラービリオネアという言葉も最近はよく聞くようになりましたよね。僕も工学系出身ですからメーカーで働いている知人は多いのですが、そうではなくても、例えば建設業界では現場で動ける職人が足りていないというような報道は多く耳にしますよね。僕もAIによる大失業時代には、現場の身体性が要ると思います。

たしかに、工業高校からは職人・技能職になる道もあるだけでなく、そこから大学の理工系学部に行く人も少なくないですし、推薦入試も活用できる。そうすると技術職や研究職に就くことももちろん可能です。新しいテクノロジーが出てくると大抵「闇の勢力による陰謀だ」と見なす陰謀論が出てきて、それを拡散している人々は科学技術を扱う人々を何か特別な存在と見ている節があるのですが、少なくとも日本では陰謀論で言われるような秘密結社の関係者でなくとも(当たり前ですが)、あるいはSNSの人達が好きな「文化資本」に恵まれた家庭の出身でなくとも、地道にやっていけば大学に進学したり、専門的なスキルを高めることは可能なんです。ところがいまだに大学といえば文系のキラキラキャンパスライフ幻想が共有されており、先ほど話したようなコースは例外的なものとされている。これはやっぱり問題ですよ。しかもこんな日本にしてきたのに、産業界は理系人材が不足して困るなどと言う。本来は国を挙げてそんな話が不要なくらいに理工系を増やし、文化的な面でも理工系こそイケている、という言説をばら撒くべきだったのです。文科省は40年までに高校生の理系比率を39%にする などと言っていますが、果たしてそれで足りるのかどうか。自然科学やテクノロジーに関するインフルエンサーがどんどん誕生してYahoo!ニュースで毎日取り上げられるくらいになってもらいたい。そして以前から尊敬している、くられ先生・薬理凶室さんのア理科シリーズが1億部売れるようになってほしいですね。もちろん私自身こんな活動をしているので宗教社会学者や政治学者による陰謀論研究を参考にしており、人文学・社会科学の重要性も日々感じているのですが。こう話しているとそもそも、真面目に学問に取り組む行為全般が地味な活動と見られていること自体が問題な気もします。

樋口 ホワイトカラーって、やっぱりある種の不健康さがあると思うんですよ。いつも抽象的なことばかり言っていて、どうでもいい交渉なんかに忙殺されて、なんだろうなこれとか思いながら日々をやりすごしていくというようなところがある。

でもこれからは、どんどん物理を動かせる人の方が強くなっていく。僕が仕事にしているコンサルタントにせよ文筆家にせよ、言葉で何とかなる職業っていうのはもう限界がある。そもそも現代の現実が、言葉で何とかなるほど単純じゃなくなってしまっているという側面もありますしね。

だから、こういった抽象的な議論をしたり思索をしたり、そういった言葉による活動に価値があった時代が、過去のものになりつつあるんですよね。そのことに気づかない亡霊たちがXみたいな虚無のアルゴリズム空間で無意味に議論を続けているようにも感じる。けれど、本を書いている僕も含めて、もうそういった仕事で何かを変えるっていう時代ではなくて。本当に道路の陥没を今から見つけに行って、道路が壊れてたんで直しておきました! なんてことを勝手に言い始めるくらいの行動力に意味がある時代になるのかなって。

雨宮純氏

専門知は、手を動かした人だけが語れる時代に

雨宮 前編の「ロケット打ち上げに挑戦したフラットアーサー」にも通じるのですが、僕は陰謀論者こそ、物理的に手を動かすことが必要だと思っています。身近な実践として、陰謀論者は、自分でパンをこねてみるべきだという持論があるんです。

パン生地を発酵させ、ふわふわ、もちもちとしたあの食感を得るためには、小麦粉をこねることで形成されるグルテンの作用が不可欠です。一時は小麦を盛んに批判していた参政党は、今でも米粉パンの開発支援をウェブサイトで掲げており、何気なく確認しただけだと単に米粉で置き換えれば良さそうな話に聞こえるかもしれませんが、米粉をこねてもグルテンは形成されません。するとグルテンの代用品を探す必要がある。よく使われるのはサイリウムという、インドオオバコから取れる食物繊維なのですが、これはそのほとんどがインドで生産されていますから輸入しないといけない。しかし、参政党ならやはり国産で揃えたいですよね。するとさらなる選択肢として、品種改良によってアミロース含有量を調整したパン用米粉が出てくるのですが、これは膨らんでくれる一方で生地がドロっとしているので、型に入れて焼くと美味しいのですが手で丸めるような成形には向きません。などと検討していく過程はまさに科学実験における材料検討や条件検討であり、パンの場合はイーストによる発酵もかかわってきます。こうして見てみると、家庭で行う料理というのは極めて知的で科学的な営みなんですよね。科学というのは何か遠い世界のことではなく、身近なところで触れているものなのです。

そういうことは、自分でパンを作り、生地と向き合えば実体験として分かるのです。だから、陰謀論者も自分で手を動かして、この物理世界と向き合ってもらいたいなと。どんな主張を行おうが条件が合っていれば成功するし、何か間違えていれば失敗する、これは誤魔化せないリアルであり、それと向き合う姿は立場を超えて応援したいです。実は僕も今、ピザの生地を寝かせているところです。

樋口 たしかに、パンを作ったことがある人間じゃないとパンについては語れないですよね。それと同じで、言葉だけじゃなく手を動かして経験した視野を持った人間だけが、その分野を語れるっていうようにした方がいいですよ。

雨宮 ITエンジニアの世界も、自分で手を動かさなくても仕事が成り立つようになりつつある。ただその一方で、新人がスキルを身に付ける機会が減っているのではないかという懸念は色々なところで言われていますよね。仕様を理解したつもりで設計し、自身で実装した結果思わぬバグが発生して、必死にソースコードやデータを辿るような経験をしていない場合、AIのミスに気付いて直せるのか不安がある。まあ、全てAIでやってしまえるようになればそんな心配は無駄なものになるんでしょうが……

樋口 そのような経験を積んでおくと、異常な数字やコードが直感的に浮かんで見えて、問題の発生に気づける能力に繋がりますからね。

経験を積まないで、言葉だけで仕事をしている人間が影響力を持つという時代は終わっていくと思うし、終わっていくべきだとも思いますね。

政治家もまさに言葉だけで仕事をしている人たちだと思うんですが、経験したことによる視野を持つ人間だけが、政策を語るという形にした方がいい。それは専門性というものが、言葉だけでは再現できないくらい複雑になっているから、仕方がないことだと思うんです。

僕がAIを専門的に取り扱っていて思うことなんですが、AIをどう制御し、どう使いこなすべきかという問いは、もはや一般市民が民主的に議論できる次元を超えているんです。高度に専門化したこの領域において、社会的リスクの分析や法律の整備は、政治と行政が責任を持ってどうにかするしかない。

そこの不安を大衆に抱かせている時点で、僕は政治の敗北だと思っています。必要なのは、丁寧なコミュニケーションを通じて、新しい技術基盤と新しい常識を迅速に整備することですよ。国民がAIによる不安を抱かずに、便利なもの、共生可能なものとして享受できる。そこまでのコミュニケーションシステムや社会システムを組み上げるのが、本来の政治の役割だと思いますね。

取材・構成:茂木響平)

関連書籍

21世紀を動かす思想 加速主義・プルラリティ・SFプロトタイピング

プロフィール

樋口恭介×雨宮純

ひぐちきょうすけ SF作家、コンサルタント、東京大学大学院客員准教授。1989年生まれ。SFの社会実装をミッションとするAnon Inc.でCSFO(Chief Sci-Fi Officer)を務める。著書に『構造素子』『Executing Init and Fini』(早川書房)『未来は予測するものではなく創造するものである』(筑摩書房)、『AI先生のSF小説教室』(晶文社)、『反逆の仕事論』(PHP研究所)、『何もかも理想とかけ離れていた』(双葉社)など。

あまみやじゅん オカルト・スピリチュアル研究家。幼少期のオカルトブームや思春期のカルト宗教事件多発により、オカルトやカルト集団に関心を持つ。元はオカルト少年だったものの、成長と共に懐疑派に転向し、科学に関心を持ったことから理工系大学院を修了。ライターデビューはマルチ商法集団についての取材だが、以降は陰謀論に関する記事を多く手掛ける。著書に『あなたを陰謀論者にする言葉』『危険だからこそ知っておくべきカルトマーケティング』、共著に『コンスピリチュアリティ入門』がある。

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