対談

【前編】患者団体は、高市政権下での高額療養費制度〈見直し〉をどう捉えているのか?

全国がん患者団体連合会理事長・天野慎介氏と振り返る
天野慎介×西村章

医療費が高額になった場合、自己負担額を一定に抑える「高額療養費制度」。石破政権時の2024年度末に、自己負担上限額の大幅な引き上げなどを含む〈見直し〉案が出されると、疾患当事者や研究者の発信が多くの人の批判を喚起し、〈見直し〉案は、土壇場で一時凍結された。
ジャーナリストで、自らも高額療養費制度利用の当事者でもある西村章氏は、この一連の出来事、さらに日本の医療保険制度の問題点を多角的に検証する『高額療養費制度 ひろがる日本の〈健康格差〉』(集英社新書)を上梓した。
本書の刊行を記念した対談第三弾で、西村氏が今回ゲストに迎えるのは、全国がん患者団体連合会理事長の天野慎介氏。本書の中で「政府〈見直し〉案に歴史的な方向転換をさせた功労者」と紹介される人物だ。
石破政権から高市政権に代わっても、永田町に日参し、国会議員などへの地道な要望活動を続ける天野氏に、本書には盛り込まれなかった高額療養費制度問題の「その後」を伺う。事態を注視し続けている西村氏と、議論の最前線に立つ天野氏による充実の対話(全二回)。
 
撮影:五十嵐和博

西村章氏と天野慎介氏

治療現場で起きていることと、永田町・霞が関での議論との乖離(かいり)

西村 高額療養費〈見直し〉案の議論は、健康保険法改正案の質疑としてまだ国会で続いているのですが(註:5月29日に参議院で採決され可決)、今日はまず、昨年の「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」を振り返るところから始めてみたいと思います。天野さんは患者団体の代表としてこの議論に第1回から参加し、2025年12月25日の第9回で引き上げ金額が提示されたわけですが、その前の第8回で「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方」を専門委員会で取りまとめましたよね。そこに至るまでの過程では、どれくらい充実した議論をできたとお考えですか。

天野 この専門委員会には、我々全国がん患者団体連合会(全がん連)と日本難病・疾病団体協議会(JPA)から 1名ずつが患者団体の代表として委員に入ったことによって、私たちの申し上げたいことはある程度聞いていただくことができました。高市早苗首相や上野賢一郎厚労相が国会で繰り返しおっしゃっているように、多数回該当の据え置きまたは引き下げ、および年間上限の新設、という部分については我々患者団体や超党派議員連盟からの要望を受け入れていただいたと思っています。一方で、そもそも専門委員会の立て付けが、我々患者団体の委員以外は社会保障審議会医療保険部会の委員と同じ構成で、しかもその医療保険部会はもともと全体的なトーンとして、負担引き上げを前提としているような雰囲気でした。その中で我々患者団体が引き上げは慎重に検討すべきという主張だったので、私たちの意見は聞いてはいただいたものの、それを完全に通すのはなかなか大変な場だと感じました。

西村 専門委員会では、天野さんと大黒さん(大黒宏司氏・JPA代表理事)は孤立無援だったんですか?  あるいは、事務局の厚労省官僚や他の委員の中には、陰でアシストや応援してくれる人がいたんでしょうか?

天野 専門委員会の委員の方々は患者の自己負担を引き上げるべきという意見の方が大多数だったので、私たちの意見をそのまま受け入れていただくのは難しかったです。この専門委員会は石破茂首相から「専門委員会を設置して患者団体の委員も入れるように」という指示があって出来上がった組織なので、むしろ事務局の厚労省の方々のほうが我々に対して気を遣ってくださっているような雰囲気を感じました。

西村 専門委員会で天野さんたちは様々な疾患や所得階層の実態をデータとして出すように要求して、その結果、厚労省が疾患・所得別の例を出してきましたよね。今国会の議論では、高市首相や上野厚労相が答弁で「延べ20を超える様々な事例や家計の収支状況に関する資料などをお示しし、議論をいただきました」と再三述べていますが、天野さんは十分に検討・検証ができたとお考えですか?

天野 たしかに20を超える事例を出していただきました。ただし、厚労省の事例の取りかたは若干恣意的だったように思います。大半は負担が減る例で、負担が増える例は少ないように感じた、というのが正直な印象です。

我々は、高額療養費の引き上げを慎重にすべきだという意見をお持ちの医療者や医療経済学者などの意見も聞いていただきたいと思っていたので、そういった方々を参考人として呼んでほしい、あるいはそのような資料を出してほしいと何度かお願いしたんですが、それは丁寧に断られました。

つまり、厚労省は役所が提出した資料、あるいは厚労省が出席を認める参考人に基づいて議論を進めていた、という側面は否めないと思います。

西村 そういう意味では、EBPM(Evidence-Based Policy Making:統計データなど客観的な証拠に基づく政策立案) のような体裁を作ってはいるけれども、実際のところは語義どおりのEBPMになっていなかった、ということですね。

天野 議論の過程では賛否両論があってしかるべきだと思うんですが、厚労省にとってネガティブな意見は取り上げられにくい構造はあったと思います。たとえば「こういった資料を使ってほしい」とか「この人を参考人に呼んでほしい」と言っても、厚労省が調べたもの以外は難しいということだったのですが、委員提出資料であれば認めていただけるという話だったので、東大大学院五十嵐(あたる)特任准教授(当時・現在は慶應大学大学院特任教授)の推計データを私からの資料という形で提出しました。ただ、それも政府案の作成にどの程度影響を与えたのかは、正直なところわからないですね。

西村 つまり、そのような委員提出資料は「提出させてあげるけれども、受け取るだけですよ」みたいな感じだったんですか?

天野 厚労省が事務局として出す資料と委員が提出する資料では全然格付けが違って、委員が出したいと言って出す資料は、あくまでも参考資料扱いということだと思います。

西村 でも、専門委員会が立ち上がる前に医療保険部会で高額療養費の議論をしていた頃から、厚労省の恣意的な資料の出しかたは問題として指摘されていましたよね。

天野 2024年秋の医療保険部会では、高額療養費の引き上げはやむを得ないという空気だったので、委員の皆さんは資料についてあまり問題意識を持っていなかったと思います。

そもそも今回の引き上げの一番の問題点は、治療や医療の現場感覚が欠如したまま議論された、ということが根源にあったと考えています。特に私が印象に残っているのは、医療保険部会である委員の方が「がんは手術をすれば終わりではなくて、その後も長期にわたって治療が続くことを、つい先日テレビを見て驚いた」と発言されていたことでした。現在のがん治療では、年単位で薬物治療を受けている人がたくさんいる事実すら、委員の方々は十分にご存知ないまま議論をしていたのか、と感じましたね。

西村 2025年3月に最初の政府案が一時凍結された後の、5月頃の医療保険部会でしたね。

天野 そうですね。大変申し訳ないんですが「そんなことも知らずに委員の方々は患者負担を引き上げる議論をしていたのですか?」と思ってしまいました。 だからおそらく、2024年末に引き上げを決めた時は、「1ヶ月の負担くらい耐えられるだろう」という感覚だったのでしょう。今はその頃よりも認識が変わってきていると思いますが、それでも「月額上限が多少引き上げになったとしても、数ヶ月間ならがんばって支払えるでしょう?」という誤解がまだ多いと感じますね。

しかし、金融機関や民間調査会社のデータを見ればわかることですけれども、現役世代の貯蓄額はけっして高くないです。そういった現役世代の方々がひとたび大病をして、一時的であってもお金を払わなければいけない状況になると、かなり厳しいです。また、これも繰り返し指摘していますが、特に子育て世代や扶養家族が多い世帯は負担が非常に大きくなりますが、これも今の制度では考慮されていません。

西村 審議会の委員や厚労省の官僚や国会議員と話をしてきた天野さんの感触では、この人たちはそういった「治療現場で起きていること」を実感として理解しているんでしょうか。

天野 それはまさに、人によりますね。専門委員会の委員の方々は、先ほどから言っているように「社会保障財政が厳しいのだから引き上げは当然だ」という考えが大前提としてあるように感じました。そういうお考えの人たちに対して、「高額療養費の伸びは本当はこの程度なんですよ」「患者の負担はすでにこんなに過重なんです」とお話ししても、正直なところ、なかなか理解していただくのは難しい感触でした。ただ、国会議員さんの場合はまったく別で、与党議員は高額療養費引き上げに賛成で野党議員は反対、という単純な区分けでもないんですよね。与党議員で引き上げに反対している方が実は結構いらっしゃいますし、また、引き上げを抑えるために行動してくださった与党議員の方々もいます。逆に野党でも、高額療養費を引き上げるべきだという考えの議員の方々もいます。だから、高額療養費はそれぞれの政党内でも一致するのは難しいテーマなのだろうと思います。

▼厚労省作成の叩き台はツッコミどころがあまりに多く……

西村 天野さんたちが行ってきた要望活動に関することもいろいろと伺いたいのですが、まずは専門委員会の話に戻すと、「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方」をまとめる際に、厚労省の叩き台に各委員から様々な指摘や要求があって、それらに修正を加えて取りまとめたものが2025年12月15日の第8回で示された文書でしたよね。当初の叩き台は修正要求をしなければならない部分があまりに多かったので、文書に原案のまま残ってしまった箇所がいくつかあったじゃないですか。たとえば「諸外国と比べてもこのような恵まれている制度を擁している国はほとんどなく……」という、現実と乖離した自画自賛の文言が残っています。これは、そこ以外に指摘しなければならない箇所があまりに多かったので、天野さんたちもそこまで手が回らなかった。

天野 おっしゃるとおりで、実際にそれ以前の専門委員会の開催時に、「日本の制度は、患者の自己負担だけをみると、諸外国と比較して必ずしも優れているわけではない」という指摘を私からしています。

その時のことを話すと、そもそも海外との比較が必要だと言い出したのは有識者委員の方々だったんです。アメリカは民間保険主導で参考にならないため、私から日本の公的保険制度に近いヨーロッパの例などを出して、例えばフランスの場合は抗がん剤など代替性のない医薬品には患者負担がないことや、ドイツの場合だと年収の2パーセントが支払い上限額に定められていることなどを示したのですが、すると急にその有識者委員の方々が「他国の制度は日本と条件が異なるので単純な比較をできない」と言い出してですね……。あなたたちが海外と比較しろと言ったから例を出したのに、都合が悪くなるといきなり比較が難しいとおっしゃるのはいったいどういうことなんだと思ったのですが、それを専門委員会の場で言ってしまうとさすがに問題になるので言いませんでした。

西村 このときの様子はオンラインで傍聴していましたが、露骨な前言撤回には失笑しました。専門家の有識者に対して失礼ながら、この人は委員をお辞めになったほうがいいのではないか、とも思いました。

天野 私も違和感をおぼえましたが、ご指摘のように、専門委員会の報告書の細かい文言をすべて指摘しだすと、おそらく会議の間じゅうずっと私が発言している状態になってしまうので、ここだけはさすがに直さなければまずい、という箇所だけに絞って発言をしていました。

だから、西村さんご指摘の部分は文書に残ってしまったし、それ以外にも「制度の不断の改革に取り組んでいかなければならない」という部分が残ってしまったことも、実はけっこう厳しいですよね。「不断の改革」ということはつまり、不断の引き上げをするという意味だとも解釈できますから。それでも、年間上限の新設や多数回該当の据え置きは盛り込んでいただけたので、なんとか最低限の要求は入ったかなという感触でした。

西村 多数回該当の据え置きと年間上限が取りまとめに盛り込まれたのは、厚労省に理解があって「そうだね、入れた方がいいよね」という姿勢だったのか、あるいはしょうがないからいやいや入れたのか、天野さんの感触としてはどうだったんですか?

天野 ここは世の中に誤解されている部分もあるように思うのですが、厚労省は基本的な姿勢として、負担引き上げを積極的にやりたいと思っているわけではないと思います。私たちが話をした官僚の方々の中にも「こんな引き上げはすべきではなかった」などとはっきりおっしゃる方々がいて、皆さんが諸手を挙げて引き上げに賛成しているわけでもないと感じます。

では何が問題になっているのかというと、財政上の圧力です。つまり、多数回該当の据え置きも年間上限の新設も、財務省がうんと言わない限り入りません。今は医療費に関するあらゆるものが負担増のオンパレードですよね。例えば今年度の診療報酬は最終的に本体3.09パーセントのプラス改定になりましたが、財務省が示した最初の案ではマイナス改定だったと聞いています。全国の病院が赤字でどんどん潰れているのに、それぐらい財務省は厳しい姿勢で臨んでいるわけです。

このように、財政上の強い圧力がある中で厚労省としては、「我々は多数回該当の据え置きや年間上限の新設を頑張って勝ち取った」という感覚なのではないかと思います。月額上限の引き上げ幅にしても、前回の引き上げ案と比べると半分に抑えられていますから、厚労省からすれば「財政上の圧力に対してこれだけ頑張っている」というのが、厚労省の気持ちではないかと思います。

西村 そのような本音は、専門委員会の前の打ち合わせなどの際にポロッと出たりするものなんですか?

天野 専門委員会では、厚労省はまったくそういう素振りを出しません。けれども、厚労省の様々なお立場の方々と話をしていると、省内にも頑張っている方がいるのだなとひしひしと感じることはありました。

だから、厚労省は第8回の取りまとめで方向性を決めることまではできたとしても、具体的な細かい金額はおそらく財務省が決めているのだろうと思います。ただ、国会であれだけ問題になって石破首相が一時凍結したので、2024年案と同程度の引き上げが無理なことは財務省も当然わかっていたと思います。とはいえ、霞が関の感覚は我々とのズレはまだまだ大きくて、我々からすれば「破滅的医療支出の水準に達しています」「これ以上の負担増は厳しいです」と示していても、霞が関の予算折衝のプロセスでは、「あらゆるものが負担増となっている中で、高額療養費はむしろ配慮されている」というのが、おそらく政府の本音だと思うんです。

西村 「してやっている」感があるわけですね。

天野 おそらく。ただ、我々が高額療養費の要望活動をしている時には、少なからぬ数の官僚の方々が私たちを応援してくださいました。

高額療養費制度〈見直し案〉をめぐる高市政権の姿勢

西村 2025年12月25日の第9回専門委員会で具体的な引き上げ金額が示されましたが、あれを見た時はどんな印象でしたか?

天野 想像以上に引き上げをするのだな、これは厳しい、と思いました。 ただ、厚労省は「月額上限の引き上げ幅は昨年案の半分です」と繰り返し言っていたんです。それに対して率直に、「私たちがんや難病の団体は、この負担増だと厳しいと考えている」と申し上げると、ショックを受けた様子でした。

西村 自分たちはこんなに頑張ったのに、ということですか。

天野 「これだけ頑張っても厳しいと言われてしまうのか」という感覚なのかもしれません。しかし我々としても患者さんたちのことを考えれば、「よく頑張ってくださいましたね、じゃあこれでいきましょう」とは言えませんので、直ちに共同声明(「高額療養費の見直しに関する共同声明」2025年12月24日付)を出しました。

西村 ということは、霞が関の人たちはいかに現実が見えてないか、ということですか?

天野 現実が見えていないのかもしれないし、社会保障費を削減すべきだという財政上の強い圧力の中で、現実を見ずにやらざるをえない、という面もあるのかもしれません。

西村 でも、彼らの言うとおりに負担額を上げていくと本当に人が死ぬわけじゃないですか。

天野 だから、高額療養費は現時点でも自己負担額の引き上げに関しては、もう現在でもギリギリのところまで来ている、ということを知っていただかないと困るんですよ。

西村 その現実感がなくて、「これだけ頑張ったのに……」とショックを受けている人たちにどうやって理解をしてもらうか、という作業はハードルが高そうですね。

天野 ナラティブとエビデンスの両方が必要だと思います。ナラティブに関しては、患者や医療者の方々の声を2025年1月に緊急のオンラインアンケートを実施して、その声が国会でも紹介されました。しかし、それだけでは政治は動かないので、たとえば破滅的医療支出などのエビデンスも繰り返し国会で取り上げていただきましたが、それに対する答弁は、西村さんが本や記事で繰り返しご指摘されているように、同じような答弁を繰り返すばかりなので、なかなか厳しいところですね。

専門委員会の取りまとめ文書に「不断の改革」という文言があるとおり、厚労省は今後も不断の引き上げをしてくる可能性があると思います。しかし、不断の引き上げをしたいとおっしゃっても、患者の負担増はもはや限界に達していると声を大にして言っていかなければ、大変なことになると思いますね。

西村 でも、声を大にして言ってもはたして聞こえるんだろうか、という虚しさも感じるんですよ。特に今国会であれだけ話を聞かない姿勢を目の当たりにしてしまうと。

天野 答弁に関しては、去年は石破総理や厚労省も患者の声に寄り添わなければいけないという姿勢があり、国会答弁でも総理が一切メモを見ずにご自身のお気持ちを率直に発言する場面がしばしば見られました。それが一時凍結につながった面もあるんですが、今年は厚労省も政府側もそのときのことを反省材料というか教訓として、「鉄壁の答弁」で臨む、という方針であるらしいことは記者さんたちから漏れ聞いています。

西村 高市首相も上野厚労相も、木で鼻をくくったような同じ答弁ばかりを繰り返していますもんね。天野さんは今国会で、衆議院では予算委員会の公聴会公述人として(3月10日)、参議院で厚生労働委員会の参考人として(4月2日)意見を述べましたが、その際の感触はどうでしたか?

天野 政府答弁は、今おっしゃったように、いわゆる「鉄壁の答弁」を繰り返しているわけです。だから「政府は変えるつもりがないのだな」と、正直なところ感じざるをえませんでした。一方で、国会議員の方々は感触が変わってきていると思いました。

たとえば、与党議員の中にはかなり厳しい意見をお持ちの方もいて、昨年には私たち患者団体に対して「あなたたちは社会保障のことを全然考えていない」とお叱りをいただいたこともありました。しかし、今年になってからは「高額療養費は大切な制度なので、変えるべきではない」とおっしゃっていたそうです。他にも、高額療養費を引き上げるべきではない、という考えの与党議員の方々はいらっしゃいます。党議拘束もあるので反対の声を上げるのは難しいでしょうが、与野党を問わず我々の主張に耳を傾けて理解をしてくださる方々が増えていることは感じています。

全がん連の轟浩美事務局長が参議院予算委員会の参考人として答弁した時(3月25日)も、委員会の終了後に与野党問わずたくさんの議員の方々が轟さんに「頑張ってください」「応援しています」「あなたの言ったことはよくわかる」などと挨拶に来られました。「力になれなくてごめんなさい」と言いに来られた与党議員の方もいました。

西村 国会質疑では、高市首相が「8月まで専門委員会を開催するつもりはない」(4月7日参議院予算委員会)と言明しましたよね。あれは要するに、「患者団体や当事者が何を言おうが我々はまったく聞く耳を持っていません」という宣言のようにも聞こえたんですが。

天野 8月までに専門委員会を開催すると、今年8月の第一段階の引き上げに対する意見が出かねません。政府としては、2026年度の政府予算が国会を通過してすでに決まったことなのでこれ以上意見を聞く必要はない、という考えなのだと思います。

西村 そこはもう動かないんですね。

天野 2026年8月の第一段階の引き上げは、すでに政府予算案が国会で議決されているので、これは動かないでしょう。ただ、2027年8月の第二段階目については、国会での質疑と政府の答弁を聞いていると、まだ流動的なようにも思えます。

西村 ただ、上野厚労相は何度も「2026年と2027年をパッケージで実施する」と言っていますよね。

天野 具体的には、「制度見直し全体の一環としてパッケージで実施をさせていただきたいと考えています」と答弁しています(註:4月2日参議院厚生労働委員会。また、4月7日の閣議後記者会見でも「来年8月からの2段階目の内容についても、見直す予定はなく、一体としてご議論いただいているものと考えています」と発言)。つまり、上野厚労相はあくまでも「考えています」と言っていて、「承認していただいた」とは言っていないんですよ。

このように微妙な言い回しになっているのは、実はそこに明確な根拠がないからではないかと思います。実際に、この第二段階目の引き上げについては、2027年度予算案の審議で改めて議論すべきだ、と国会での質疑で複数の野党が指摘しています。だからいずれにせよ、来年8月の引き上げについてはまだ流動的だと思います。

西村 政府は「引き上げによる受診控えが発生しないように注視します」と言っているのに、パッケージで2年連続の引き上げをするとあらかじめ決めているのでは、注視をする意味がないですよね。天野さんたちは、この「パッケージ」という政府の考えにどう対応していくお考えですか?

天野 国会での質疑を聞いていると、2027年8月の引き上げは来年度予算案の話なので、その予算案審議の際に議論になることは避けられないと思います。

西村 今後はそこを視野に入れて要望活動をしていく予定ですか?

天野 2027年の引き上げを抑制していただくための活動と同時に、高額療養費の運用上の課題もありますよね。例えば年間上限を新設したのはいいけども償還払い(事後の払い戻し)になっていることや、保険者が変わると多数回該当がリセットされてしまう問題、現役世代は2万1000円を超えないと異なる診察科の合算ができない問題、といった運用上の課題は、できるかぎり早く修正していただけるように引き続き要望していきます。また、特に最近は子育て世帯の厳しさも焦点になっています。現状では扶養家族の人数は考慮されていないために、子育て世帯の過重な負担が可視化されていません。この部分については、高額療養費制度本体での対応が難しければ、たとえばこども家庭庁で支援の枠組みを別途作っていただく、などの追加的な対策もあり得ると考えて要望しています。

(後編に続く)

関連書籍

プロフィール

天野慎介

(あまの しんすけ)

1973年東京都生まれ。27歳のときに血液がんの悪性リンパ腫を発症。一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長。2021年に患者の立場として初めて朝日がん大賞を受賞。2025年5月より、社会保障審議会医療保険部会「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」委員。

西村章

(にしむら あきら)

1964年、兵庫県生まれ。著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞・第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)、『MotoGP 最速ライダーの肖像』、『スポーツウォッシング なぜ〈勇気と感動〉は利用されるのか』(集英社新書)など。自己免疫疾患の治療で2009年から高額療養費制度を継続利用中。

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