カルチャーから見る、韓国社会の素顔 第10回

なぜ、ドラマ『SKYキャッスル』が韓国を知るうえで重要と言われるのか?

――「上流階級の妻たち」がモンスター化する、その理由

伊東順子

3年前に大ヒットした、もう一つの「上流階級ドラマ」

 その中でも今回、韓国女性の多くを虜にしたのが、主演の一人であるキム・ソヒョンだった。財閥家の長男の嫁として、傲慢で怠惰な夫以下一族全体に気合を入れる役なのだが、そのオーラが半端ない。

 そして、このキム・ソヒョンといえば思い出されるのが、今回のテーマであるドラマ『SKYキャッスル』である。そこで彼女が演じたのは「謎の受験コーディネーター」、ドラマのキーパーソンだった。

 『SKYキャッスル』は2018年末に韓国のJTBCで放映されて空前の大ヒットとなったドラマだが、最近になってネットフリックスでの配信も始まり、再び注目を浴びている。ここにもまた、美しく、そして激しい、韓国上流階級の女性たちが登場する。

 「韓国を知る上で、絶対に見たほうがいい」

 日本でも2019年にCSやBSで放映されたようで、検索してみたらいろいろ出てきた。大手新聞の記事もあり、その中には映画ライターの成川彩さんが書かれた以下のようなフレーズもあった。

 「韓国の記者から『韓国社会を知るには絶対に見た方がいい』と勧められ……」(2019年1月19日付、朝日新聞GLOBE+)

 この記事にも書かれていたが、ドラマは初回視聴率1.7%から始まったのが、途中から口コミでぐんぐん上がって最終的には23.8%。これは『愛の不時着』の21.7%を越えるもので、まさに当時の韓国で「シンドローム」的なものだった。私自身も友人から「見て見て、韓国あるあるだよ」と言われて、一生懸命見た記憶がある。たしかに、韓国人自身が言うように、このドラマには韓国社会の矛盾が凝縮されている。

  ちなみに、ドラマ『SKYキャッスル』の日本語タイトルには「上流階級の妻たち」という副題がついている。ただ、前回のコラムでもふれたように、韓国の上流階級は「財閥」と「一般富裕層」に分かれており、ドラマ『Mine』に登場するのが「財閥」、映画『パラサイト』やこの『SKYキャッスル』に登場するのが「一般富裕層」である。日本語タイトルを見ると、「なるほど、富裕層の人たちの物語ですね」と理解されるかもしれないが、これが実に韓国社会全体の問題なのである。

 

『SKYキャッスル』の意味

 タイトルの『SKYキャッスル』は、ドラマの舞台となる高級住宅街の名称である。韓国には「~~キャッスル」というブランドの高級タワーマンションも多く、その意味では馴染みのある名称なのだが、ただしこの「SKY」はタワマンがイメージする「空」という意味ではない。韓国の最難関大学であるソウル大学(S)、高麗(コリョ)大学(K)、延世(ヨンセ)大学(Y)の頭文字を合わせた「SKY」、韓国人なら誰でも知っているパワーワードだ。

 三つの大学はいずれもソウル市内にあり、「日本でいえば東大と早慶ですね」と例えられることが多いのだが、一つ注意しなければいけないのは、日本で最難関といえば東大の次に京大などの旧帝大、さらには地方の国立大医学部などもある。ところが韓国の場合はSKYの地位が突出して高いという特徴がある。そこの違いを説明するには、李朝の中央集権と江戸の幕藩体制までさかのぼる必要があるのでここではパスするが、ともかく他の大学に比べてSKYは文字通りのスカイハイ、雲の上なのである。

 ドラマはその「雲の上」をめざして、突撃するSKYキャッスルの住民たちの戦いの日々を風刺的に描いている。主な登場人物は同じ大学に勤務する4人の大学教授とその家族。大学教授といっても、医学部と法学部(ロー・スクール)などの選ばれたエリート教授たちで、SKYキャッスルはその人たちだけに特別に与えられた「高級社宅」という設定だ。

 そこで繰り広げられる受験戦争は文字通りの「戦争」であり、どのくらいすさまじいかといえば、いきなり猟銃が登場するほど過激なものだ。ありえないでしょう……という部分も多いのだが、それでも韓国の人が「韓国社会を知るために必須」というほど、リアルな部分も多いのである。

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カルチャーから見る、韓国社会の素顔

「愛の不時着」「梨泰院クラス」「パラサイト」「82年生まれ、キム・ジヨン」など、多くの韓国カルチャーが人気を博している。ドラマ、映画、文学など、様々なカルチャーから見た、韓国のリアルな今を考察する。

プロフィール

伊東順子

ライター。編集・翻訳業。愛知県生まれ。1990年に渡韓。ソウルで企画・翻訳オフィスを運営。2017年に同人雑誌『中くらいの友だち――韓くに手帖』」(皓星社)を創刊。著書に『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)等。チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房、斎藤真理子訳)の解説を担当。

 
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なぜ、ドラマ『SKYキャッスル』が韓国を知るうえで重要と言われるのか?