ガザの声を聴け! 第42回

2017年4月「家の一つ一つの石には歴史があるのだ」

清田明宏
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朝9時前にダマスカスにあるUNRWA「ウンルワ」の事務所を車2台で出発。ダマスカスの外に出るのは内戦が始まってから初めてだ。ダマスカスを出たその北部に紛争地があった。崩壊した建物が道路の両側に広がる。ただ、その地域は比較的小規模で、すぐにのどかな岩石砂漠や農耕地が続く。内戦前に訪問した時に見た、とても平和な景色そのものだ。直前に見た紛争地との差に愕然とする。

 

私は中東での生活が長いのだが、パレスチナ・イスラエルの紛争、イラク戦争等、戦禍をこの目で見ることがあった。その時、我々は一体どのような世界を我々の子孫に残そうとしているのか、と暗澹とした思いになることが正直あった。その思いを今回の移動中も強く感じた。

 

ダマスカスを出てから2時間、ホムスについた。市内の国連機関の事務所が入っているホテルに寄りすこし休憩をとる。これからアレッポに着くまで4時間以上を一気に進むため、運転手も我々も気を引き締める。

 

移動中は緊張の連続であった。ホムスを出るとすぐに激戦で崩壊した街の中を通った。かなり広い地域で建物が崩壊しており、その現実に言葉が出ない。途中で、我々が通る直前にあったであろう戦闘の跡も目にし、今も内戦中であることを強く意識した。アレッポに入る前にも砲撃で崩壊した建物群を目撃した。

 

アレッポに着いたのは出発して7時間近くたった午後4時前だった。アレッポ市内は落ち着いて見えた。店も開いており、人通りも多い。驚いた。そして、20階はあるであろう高層のホテルに入る。我々は国連が治安上泊まってよいというホテルにしか泊まれない。建物に複数砲撃の跡があり、ここで内戦があったことを思い知らされる。

 

翌日はアレッポ市内東部のネイラブキャンプに行く。キャンプ内は内戦の戦禍はほとんど見られないが、UNRWA「ウンルワ」のクリニックの職員によると、過去3年ぐらい全く電気は来ていなかったという。「食事も白と緑しかなかった」と笑いながら話してくれた。白とは周りの村から手に入れたヨーグルト、緑とは農地で育てた野菜だ。

 

その中で、このクリニックは診療活動を1日も休まず続けていた。「何故、診療を続けたのか」と聞いた。「我々が診療しなければ、誰が一体キャンプの難民の健康を守るのか、命を守るのか。我々しかいない」と彼らは答えた。

 

私は海外での保健現場での従事が長いが、これほど献身的に仕事を続ける人々にあったことがない。戦争中のガザもそうだが、シリアもそうだ。

 

我々UNRWA「ウンルワ」は医療サービスの改善のために、難民一人一人がかかりつけの医師・看護師を持つ家庭医制度を導入している。このクリニックでも導入していた。内戦のなか、電気もなく、食事は「白と緑」しかない、その中で新しい制度を導入する。その心意気に頭が下がる思いだった。

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ガザの声を聴け!

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

プロフィール

清田明宏
1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。
 
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2017年4月「家の一つ一つの石には歴史があるのだ」

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