平成消しずみクラブ 第12回

花水木(ハナミズキ)

大竹まこと
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 月曜から金曜の昼間に毎日放送しているラジオが一二年続いている。番組は一時から三時半まで、二時台の頭に「ザ・ゴールデンヒストリー」というコーナーがある。毎週、割り当てられた作家が丹念に取材し、本人が五分間ほどの文章にまとめる。それを私が読む。
 三月後半の週は「私の病気知っていますか」というテーマで、五日間語られた。この週の作家は、本田万里子さんだ。
 三月二八日のテーマは、「ナルコレプシー」。突然、猛烈な眠気に襲われる病で、『麻雀放浪記』の作者、阿佐田哲也さんがかかっていた病気だ。
 本田さんが取材したTさんは小学生の頃、たっぷり睡眠をとっているのに、授業中「あ、眠いな」と思ったら、カックリと寝てしまう。先生に注意されるが、原因がわからない。
 成長期に入ると、ナルコレプシー特有の「情動脱力発作」が起こる。発作のきっかけは様々だが、Tさんの場合は主に笑った時だそうだ。
 笑った瞬間、関節の力が抜けて、倒れそうになってしまうという。
 それでも高校に合格するが、成績がどんどん落ち、留年する。
 薬を飲んでその副作用と闘いながら、大学の農学部に進学する。
 病気を隠して二三歳で一般商社に就職するが、仕事中に寝てしまい、クビになり、職を転々とする。
 そして二〇代後半に開発された新薬を試したら副作用が激減したとある。
「それまで生きるだけで精いっぱいで何も楽しいと思えなかったけど、やっと恋愛でもしてみようかなって気持ちになって。人生で初めて前向きな気持ちになれました」
 後に、Tさんはこのナルコレプシーという病気を理解してくれる女性と出会い、去年の六月に結婚式を挙げた。
 逆境を克服した者だけが何かを手に入れる。

 最後に。
 この番組に封書が届いた。開くと、点字であった。点字の横に、美しい文字の日本語があり、誰かが訳したことがわかる。
 毎日は聞けないが、この番組が好きで聞ける日は聞いてくださっているという全盲の七〇歳の妻と同じ全盲の七一歳の夫からの手紙である。
 特に、月曜日の女性の声と、金曜日の女性の声が気に入っているそうである。
 点字の最後に
「私たちは幸せです」とあった。

 

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平成消しずみクラブ

連載では、シティボーイズのお話しはもちろん、現在も交流のある風間杜夫さんとの若き日々のエピソードなども。

プロフィール

大竹まこと

おおたけ・まこと 1949年東京都生まれ。東京大学教育学部附属中学校・高等学校卒業。1979年、友人だった斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』結成。不条理コントで東京のお笑いニューウェーブを牽引。現在、ラジオ『大竹まことゴールデンラジオ!』、テレビ『ビートたけしのTVタックル』他に出演。著書に『結論、思い出だけを抱いて死ぬのだ』等。

 
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花水木(ハナミズキ)

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