平成消しずみクラブ 第12回

花水木(ハナミズキ)

大竹まこと
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 東京では、もう桜の花も散って、今は花水木(ハナミズキ)が綺麗な花をつけている。
 私が住む町の近く、神田川沿いには、薄桃色と白の花の木が交互に植えてあって、ほんの短い距離なのだが、年寄りたちを慰めてくれる。
 花水木。誰がつけたか美しい名前である。
 (ひと)()(よう)さんの名曲のタイトルにもなっているらしいが、私はその歌をよく知らない。
 少し調べたら、花水木は水木の仲間で、花が目立つのでこの名前がつけられたらしい。大正四年に日本がアメリカのワシントンに桜を寄贈したお礼として贈られたのが最初で、全国に普及した。
 一青窈は、花水木の花言葉「永続性」から、「君と好きな人が百年続きますように」と歌っている。二〇〇一年九月一一日、アメリカの同時多発テロ事件発生時、ニューヨークの友人からのメールをきっかけに書いた詞だとある。
 知らなかった。

 四月。中学や高校を卒業した人も、大学を卒業した人も、進学しなければ学生ではなくなり、社会人になる。一七歳の若者は一八歳になり、選挙権を手にする。新しいルールが君たちを迎える。
 私は六九歳になり、世間から少し遠く離れた気分である。
 世間からはみ出した年寄りは、()()でタバコを吸うわけにはいかないから、階段を二階分下りて、地下の喫煙所に行っていたのだが、上りの階段はしんどかった。
 喫煙所では、四〇代とおぼしき男がコンビニで求めたであろう「海苔巻き」をラップから剥がして食べていた。
 他に食べる場所がなかったのかもしれない。どこかの市はタバコを吸った者は四五分間エレベーターに乗れないようにするらしい。
 四五分たったら、もう一本、タバコを吸いたくなってしまう。
 たぶん、それがその市にとって良い社会に向かうことなのだろう。
 私はわからない。

 さて、国は近年、雇用が増え、失業率が減少傾向にあるといっているが、果たしてそうだろうか。
 日本総合研究所調査部主席研究員(もう少し短くならないか)の()(たに)浩介さんは、二〇一六年三月二五日の毎日新聞「時代の風」の中で、異を唱えている。
「アベノミクスによる景気回復で、5年間に就業者が250万人増えた」
「いや増えたのは主に非正規雇用だ」
 という応酬も年齢を見ていない点でピントがボケている、と指摘し、増えた二五〇万人(正規、非正規合計)の六分の五にあたる二一一万人は六五歳以上であり、景気回復で雇用増というのであれば、六五歳以下の男性の雇用も増えているのが筋ではないだろうか、また「若者の雇用増」というイメージに反し、三九歳以下の就業者も一一六万人も減っている、と。
 きつい論理である。

 私のような高卒のチンピラが言うことではないが、君たちが向かう社会は、昔よりも厳しい。
 おそらく、何十社も会社を訪問して、何十回も落ちたであろう。この日本社会のシステムにも問題がある。何故、新卒ばかりが就職に有利なのか、それも理解できないが、船出の第一歩がそこにある。誰かが、日本特有のこのシステムを変えなければずっと続いてしまうだろう。
 誰でも銃を持つことのできる(昔よりは規制が厳しくなったらしい)アメリカでは、学校内の銃乱射事件が頻発している。トランプ大統領は、それでは教師にも銃を持たせれば良いと発言した。
 教師が生徒に銃を向けろというのか。教師に生徒を撃てというのか。
 アメリカの各地では、高校生たちがこれに反対し、一〇〇万人規模のデモが起こっている。
 友を失った悲しみを二度と繰り返したくないと立ち上がった高校生たちの想いがいつか叶うことを願う。
 前述の藻谷浩介さんは、同じ文章の前段で反対勢力がいてこそ社会は健全化するというのが民主主義の基本原理であると書いている。私もこれに賛同する。オール与党では民主主義ではなくなってしまう。
 社会学者の橋本健二さんが、『新・日本の階級社会』という本の中で、かなり絶望的な日本の将来を書いている。
 社会構造が変化し、新たに登場した「アンダークラス」下層階級、誰もがそこに落ちる危険があるという。
 労働者が正規と非正規に分かれてしまい、現在非正規の人はおよそ九〇〇万人超となった。
 この受け皿を社会が作ってこなかった。そして非正規はこれからも固定化していくであろうと述べている。
 本の中身はもっと深刻である。

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連載では、シティボーイズのお話しはもちろん、現在も交流のある風間杜夫さんとの若き日々のエピソードなども。

プロフィール

大竹まこと

おおたけ・まこと 1949年東京都生まれ。東京大学教育学部附属中学校・高等学校卒業。1979年、友人だった斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』結成。不条理コントで東京のお笑いニューウェーブを牽引。現在、ラジオ『大竹まことゴールデンラジオ!』、テレビ『ビートたけしのTVタックル』他に出演。著書に『結論、思い出だけを抱いて死ぬのだ』等。

 
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