平成消しずみクラブ 第12回

花水木(ハナミズキ)

大竹まこと

 ずいぶん昔、私は、卒業間近の大学生を呼んだ番組に出演したことがある。今でも、はっきり覚えているのだが、彼らに能力主義をどう思うかの質問があった。
 五〇人中、四〇人以上が、自分に能力があると思いますかという質問にイエスの隠しボタンを押した。
 もちろん、これから社会の荒波に出てゆく若者たちだから、当然といえば当然なのだが、一歩下がって俯瞰すれば、五〇人のうち、世に出てうまくやっていける人は何人いるのだろう。
 問題はここにある。誰もが出世はできない。それに若い人は気づかない。
 経営側にとって、非正規はとても便利な存在である。雇用の調整弁ともいわれている。忙しい時は増やし、そうでない時は減らす。
 企業が業績を伸ばし、国が潤い、市民が豊かになるはずだという。
 本当にそうだろうか。この先、一〇〇〇万人にも増える非正規の人々に何の保障があるのか。彼らは労働者でも消費者でもあるから、働く人々の収入が低く固定化されてしまえば、一部の資本家たちだけがますます富を増やす。
 それで良いのだろうか。
 誰かが誰かの肩を支え、もし自らが弱った時、それを補う社会があってほしいと思うのは、私のような年寄りだけではないはずだ。
 若者たちは、自らの足元を見よ、君は大切なものを踏みつけていないか。そこに草があって、今まさに花をつけようとしてはいないか。
 タレントのモト冬樹は巣から落ちた雀を飼育していた。都の環境局からはそれはまかりならんとお達しが来た。
 まったく笑えない笑い話である。

「ハードコア弁当」なるものがSNSで話題になっているらしい。
 ハードコア弁当とは、白飯の上に出来合いの惣菜が一つだけ載ったお手軽弁当のことらしい。
 例えば、白いごはんの真ん中に、焼いた鯖が半身だけとか、焦げた春巻きを三本とか、まるで昔の梅干し一個(日の丸弁当)の復活かと疑いたくなるような弁当である。
 どんな時にそうするのか、解説では、
・“インスタ”映えに疲れたあなたに
・夫婦ゲンカの仕返しに
・反抗期の子どもへの圧力に
 云々とある。
 会社で弁当を広げた時、学校の昼飯時、当人はどんな気持ちになるのだろうか。
 自分の昼飯に持っていくのは良いが、他(ひ)人(と)にそんなことをして良いはずがないと思うのは私だけか。
「ハードコア弁当」発案者は芸人さんらしい。私は笑えなかった。
 若者にエールを送るつもりで書き始めたのだが、今回もどうやら失敗してしまった。年寄りの愚痴に聞こえてしまいそうだ。

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平成消しずみクラブ

連載では、シティボーイズのお話しはもちろん、現在も交流のある風間杜夫さんとの若き日々のエピソードなども。

プロフィール

大竹まこと

おおたけ・まこと 1949年東京都生まれ。東京大学教育学部附属中学校・高等学校卒業。1979年、友人だった斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』結成。不条理コントで東京のお笑いニューウェーブを牽引。現在、ラジオ『大竹まことゴールデンラジオ!』、テレビ『ビートたけしのTVタックル』他に出演。著書に『結論、思い出だけを抱いて死ぬのだ』等。

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花水木(ハナミズキ)