孤独社会ニッポンの行方 〈つながり〉と〈孤立〉の人類学 第2回

軍事でも経済でもない。共感に根差した道徳的・文化的な革命へ

 
小澤デシルバ慈子

第1回「<孤独>を癒す日本の好機——ロンリネスとソリチュード」では、日本語でロンリネスを指す言葉である「孤独」という言葉が英語のロンリネスとソリチュードの意味を両方含む故に生じる問題について探求した。「孤独」という言葉は、自ら選んだ孤独(「拓独」もしくはソリチュード)と、孤立の痛み(ロンリネス)との境界線が、言語そのものによって曖昧になっている。今回、取り上げるのは、もう一つの差し迫った問題であり、激しい議論を巻き起こし、日本社会に深く根ざした不安を露呈させた問題、すなわち移民問題である。

移民問題は「移民」が問題なのか?

  SNSを開けば、ヘイトスピーチを見ない日はない。この高まりつつある反移民感情は、本当に外国人によって引き起こされた問題なのだろうか。突き詰めて言うと、「移民問題」の問題は移民自身にあるのだろうか。長年イギリス、アメリカに住み、日本社会の研究をしている上で明らかなのは、移民問題は社会自体の問題であると言うことだ。そして、日本がこの課題にどう対処するかは、今後数十年の未来を決定づけるのではないか。

 現在の状況は矛盾に満ちている。私たちの街や職場で外国人の存在が増えているのは、移民侵略が起きているからではなく、国の政策の直接的な結果である。少子高齢化が進むばかりの労働人口不足という緊急事態に直面した政府は、積極的に観光客や外国人労働者を誘致してきた。その結果、日本の在留外国人は2025年6月時点で過去最高の約396万人に達し、外国人労働者の数は過去10年間で約3倍になり、史上最高の約257万人 に達した¹。これは日本政府が積極的に意図した対策の結果だ。岸田文雄前総理大臣自身も、「外国人労働者に選ばれる国にする」という目標を掲げ、彼らが長期的に滞在するための明確な道筋を提供する新しい政策が設計された。私たちの経済を維持するために彼らをここに招きながら、社会的な摩擦を彼らのせいにするのは、非合理的で不公平なだけでなく、極めて偽善的である。

 外国人を非難することは、日本の苦境の核心にある真の課題から目をそらすことだ。移民をめぐる議論は、厳しい人口動態の現実の影で起きている。総務省が発表した人口総計によると2024年時点、18 年連続で日本の人口は減少し続けている²。昨年だけでも、日本人の数は160万人以上減少し、1968年の記録開始以来、最大の減少幅となった2024年とほぼ変わらない数字である³。出生数が70万5809人と過去最低を記録し、新生児1人に対して2人以上が亡くなっている現状では、これは遠い脅威ではなく、リアルタイムで進行している危機である。現在、日本の人口の3人に1人近くが65歳以上であり、この数字は2060年には40%近くに達すると予測されている⁴。

反移民感情が国家レベルのひきこもりへ

 この社会的な歪みは、ひきこもりという深刻な現象をはじめ、様々な形で現れている。拙著『孤独社会 現代日本の〈つながり〉と〈孤立〉の人類学』で、私は孤独な社会とは自らを孤立させる社会であると論じた。移民に背を向けることで、日本は国家的なひきこもりのような状態に陥り、孤立を深め、つながり合う世界の中で漂流する国家となる危険がある。つまり、この国家レベルでの“ひきこもり”はまわりまわってミクロレベル、子どもたちや高齢者といった個別の“ひきこもり”ともつながってしまうのだ。

 犯罪への恐怖には、感情ではなく事実に基づいて立ち向かうべきである。2023年のデータは明確な物語を語っている。外国人の数と犯罪率に関連性はない。外国人人口がこの30年間で約3倍になった一方で、外国人被疑者の検挙件数は実際には減少している。危険な外国人という物語は神話であり、2024年の公式統計によれば、全犯罪の94%以上が日本人によって犯されている⁵。統計的に取るに足らない問題を、排斥政策の正当化に利用するのはお門違いだ 。
同様に、外国人が日本人の仕事を奪うという経済的な不安は、現実とは全く逆である。2023年のデータによると、何百もの企業が単純な理由、つまり人手不足で倒産している。記録的な230万人の外国人労働者は選択肢ではなく、私たちの産業を維持するための必要不可欠な存在だ。一方、私たちが歓迎する観光客は経済回復の原動力となっている。2024年には、彼らは日本経済に8.1兆円という驚異的な額を注入し、観光は第2位の輸出産業となった⁶。事実、2023年のGDP成長の実に半分が、このインバウンド消費によってもたらされたのである。外国人を拒絶することは、自らの国の繁栄を拒絶することに他ならない 。
 幸いなことに、外国人嫌悪の高まりという物語が全てを物語っているわけではない。最近の調査では、外国人の増加を否定的に見ている日本人は4人に1人未満である。人口の約半分は、単に無関心なのだ。実際、2018年のピュー研究所の調査では、日本人の過半数である59%が、移民は彼らの仕事や才能を通じて国をより強くすると考えていることがわかった。SNS上の移民排斥を訴える投稿も、一度投稿をみただけで関心があるとシステムに判断され、同じ情報ばかりが表示される状況(フィルターバブル)によって過剰な印象をもたらしているとも考えられる。

 一番の問題は広範な嫌悪感ではなく、つながりの欠如である。日本人の40%以上が外国人との交流がないと報告しており、過半数が偏見を減らす最善の方法は、私たちが新しい隣人を知る機会を増やすことだと考えている。これは、この問題が移民の問題ではなく、コミュニティの問題であることを裏付けている。

アメリカ人は日本のアニメをどうみているのか

 この断絶に対する解決策は、「共感」、そして共感に基づいてこそ可能になる相互理解なのではないだろうか。現在行っている日本のアニメやマンガに関する心理人類学的研究の中で、私はこの思い込みから来る断絶を目の当たりにしてきた。インタビューの中で日本人のファンは、アメリカ人のファンが同じ作品を愛しているだけでなく、その深い文化的なニュアンスを理解していることを知って、しばしば驚く。彼らは実際よりも日米のファンの間には大きな違いが存在すると想定している。多くの日本人の大学生は、アメリカ人はアクション物が好きに違いない(ヒーローが敵をやっつけるようなアクションヒーロー系のアニメ)と思い込んでいて、私がアメリカ人のファンから、物語の義務、喪失、忍耐といったテーマへの深い共感を表明する引用文を読み上げると、大抵、日本人のファンはびっくりする。

「アメリカのファンがこれほど似ているとは思いもしませんでした」と、ある若い日本人女性は述べた。私のエモリー大学のアニメのクラスでは『葬送のフリーレン』『ブルーピリオド』『呪術廻戦』『進撃の巨人』『ONE PIECE』が特に人気がある。『ONE PIECE』の主人公・ルフィーに勇気を貰った、他人になんと言われようが自分の信じた道を突き進む大切さを学んだ、とか『ブルーピリオド』のおかげで自分は自分のままで良いんだ(ジェンダー・アイデンティティー)と肯定できたなどというアメリカ人のコメントをシェアすると「ええー、私たちとあんまり変わらないんですね」とか「アメリカの学生さんたちも同じようなところで感動して同じような反応をするんですね」といった答えが日本人からよく返ってくる。

 これは、私たちが心の中に築いた「違いの壁」が、実際の接触によって崩れ去ることを力強く思い起こさせてくれる。

 同じことが、私たちの新しい隣人である外国人にも当てはまる。フィリピンからの介護士が、日本の娘と同じ献身さで高齢の親の世話をする物語、世界クラスのインフラに貢献するベトナム人エンジニア、日本に恋をして地元のビジネスを始めたアメリカ人起業家など、移民の物語を聞くことで、私たちは外国人をカテゴリーではなく、一人の人間として見始める。そこには共有された希望、共有された苦闘、そして貢献したいという共通の願望が見えてくる。もちろん、障壁はある。ほとんどの日本人が英語のような外国語を話せないという事実は、この距離感を生む不幸な一因である。しかし、これは私たちが乗り越えられる課題だ。私たちはメディアやコミュニティで、これらの移民の物語を積極的に中心に据え、紹介していく必要がある。彼らの声を聞く必要があるのだ。これこそが「外国人」についての抽象的な議論から、私たちの隣人である人々との共感的なつながりへと移行することを可能にする。

軍事でも経済でもない。道徳的・文化的な革命へ

 日本がこれまで遂げてきた変革の歴史に倣う、別の道がある。1853年にペリー提督の黒船が来航したとき、日本は封建社会であり、世界から閉ざされていた。しかし、この外圧に直面して、国は明治維新という急進的な近代化の時代に乗り出した。国全体が西洋から学ぶために動員され、政治、社会、軍事制度を革命した。この国を挙げた努力は日本を世界の舞台へと押し上げ、1905年のロシアに対する勝利で頂点に達した。

 第二次世界大戦の荒廃の後、第二の革命が続いた。打ち砕かれ、貧困にあえいでいた日本は、再び外に目を向け、今度は米国の指導の下で平和主義と経済発展を受け入れた。その結果は経済の奇跡であり、日本が灰の中から立ち上がり、世界第二位の経済大国へと成長する、前例のない繁栄の時代であった。
 今、日本は第三の大きな変革の瀬戸際に立っている。これは軍事的な革命でも経済的な革命でもなく、共感に根差した道徳的・文化的な革命である。世界は長らく、日本の平和への献身、豊かな精神的遺産、そして独自の文化伝統を称賛してきた。近年、日本の「ソフトパワー」は世界を魅了している。2025年に、全世界興行収入が1063億円を記録した「『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」の快挙を見れば明らかだ ⁷。北米でも興行収入1位を獲得した⁸。 日本の創造性に対するこの世界的な称賛は、寛容で開かれた社会によって育まれる貴重な資産である。

 そして、移民を拒絶することは、ブレグジットの道(イギリスのEU離脱)をたどることであり、ダイナミズムと成長の重要な源泉から日本を切り離す、自傷行為となるだろう。今こそ、内なる価値観の革命、すなわち日本の文化に深く根付いている寛容、受容、調和の原則を再確認する時なのではないだろうか。

 米国への移民として(永住権はありますが市民権はありません)、私は第二の故郷で反移民のレトリックが高まるのを、不安を募らせながら見てきた。そのような感情が生み出す恐怖と不確実性は、肌で感じられる。私の夫は米国人。もし、世界の主要な民主主義国である米国と日本の両方が外国人嫌悪に屈するなら、私たちのように国際結婚をした人々はどこへ行けばいいのだろうか。

 未来は、開かれ、理解し合うものでなければならない。私たちがどのような政策を追求し、どのような未来の日本を築きたいのかを決められないことの社会的摩擦、問題を外国人、移民のせいにするのは問題のすり替えでしかないのだ。

¹厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」2026年3月19日閲覧.

²日本経済新聞「日本の総人口14年連続減 24年、55万人減り1億2380万人」2025年4月4日電子版.

³nippon.com「縮むニッポン : 出生数70万人割れが目前、10年連続で最少更新―厚労省・人口動態統計」2026年3月19日閲覧.

⁴国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)結果概要」2026年3月19日閲覧.

⁵法務省「令和7年版 犯罪白書- 犯罪被害の実態 -(犯罪被害の暗数と精神障害を有する者等の性犯罪被害)」2026年3月19日閲覧.

⁶日本経済新聞「訪日客消費8兆円で過去最高 24年、アパレル市場並み」2025年1月15日電子版.

⁷日本経済新聞「映画「鬼滅の刃」、世界興行収入1000億円突破 日本映画で初」2025年11月17日電子版.

⁸斉藤博昭「「鬼滅」アメリカで2週連続の1位。これは日本映画では異例の達成。世界興収でも日本映画歴代トップに」2026年3月19日閲覧.

 第1回
孤独社会ニッポンの行方 〈つながり〉と〈孤立〉の人類学

物理的に孤立しているわけではないにもかかわらず、ひとりぼっちだと感じてしまう。この“生きづらさ”や“居心地の悪さ”の正体とは何か。孤独を単に個人問題にとどまらず社会問題として扱い、いかに社会的な条件が人々を孤独へ向かわせているかについて人類学の視点で分析した『孤独社会: 現代日本の〈つながり〉と〈孤立〉の人類学』の著者が「孤独社会」(Lonely Society)ニッポンの問題を分析する。

関連書籍

孤独社会 現代日本の〈つながり〉と〈孤立〉の人類学

プロフィール

小澤デシルバ慈子

(おざわ でしるば ちかこ)
医療人類学者。上智大学を卒業後、エセックス大学で文化社会学の修士号、オックスフォード大学で文化人類学の博士号を取得。ハーバード大学社会医学部客員研究員、シカゴ大学博士研究員、エモリー大学人類学部教授を経て、現在は当大学ロシアおよび東アジア言語文化学科教授。著書に“Psychotherapy and Religion in Japan: The Japanese Introspection Practice of Naikan”や“The Anatomy of Loneliness: Suicide, Social Connection and the Search for Relational Meaning in Contemporary Japan”、『孤独社会: 現代日本の〈つながり〉と〈孤立〉の人類学』(青土社)などがある。専門は医療人類学、社会人類学、日本研究。

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