世界の都市はなぜ木を植えるのか~「都市の森」減らす日本 増やす世界~ 第6回

増加する「稼ぐ公園」 PFIで失われる都市の緑

大澤暁

PFI事業で1000本の樹木が失われる川崎・等々力緑地

 近年、公園などでPFIが導入される事例が増えているが、それによって都市の緑が失われるケースも目立ってきている。

 タワーマンションが駅前に立ち並ぶ武蔵小杉駅から歩くこと15分。Jリーグの川崎フロンターレのホームスタジアム「Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu(等々力陸上競技場)」などがある等々力緑地。ここでもPFI事業で多くの樹木伐採が行われていると聞いて訪れた。

「このあたりはまとまった緑が少なくて、等々力緑地の木々は本当に貴重なんです」と言って案内してくれたのは「等々力緑地の緑を守る会」の共同代表の吉田房江さんだ。

 再整備によって、2000~3000本あるとされる等々力緑地の樹木のうち約990本が再整備によって伐採されるという。再整備で新たに建てられるのは、名城公園と同じくアリーナ、10棟もの商業施設、スーパー銭湯とされる温浴施設、スタンド付きの陸上競技場、駐車場である。

 等々力緑地はいたるところが白い工事用のフェンスで囲われていた。出入口からは大型トラックが出入りし、中では大型重機がいくつも動いていることが見てとれた。立派に育った木々もフェンスで囲われていた。

 工事フェンスには再整備を伝える大きな広告が出ていた。「等々力緑地が生まれ変わります」「『市民が誇りを持てる場所へ』再整備を進めています」「この緑地が人々の日常とつながり 人生の大事な節目になり 次の100年に続く、まちの誇りに」といった言葉がそこには並んでいた。

工事フェンスが立ち並ぶ等々力緑地

 事業主は「川崎とどろきパーク株式会社」と出ていた。東急を筆頭株主として、東急建設、富士通、丸紅、オリックス、大成建設、フジタ(大和ハウス工業子会社のゼネコン)など、そうそうたる大手企業が集まって設立された特別目的会社とのことだった。これだけの大企業がそれぞれ利益を上げながら運営されるので、かなりの収益施設や収益力が必要となるだろうということは容易に察せられた。

 このPFI事業の経緯を見ていこう。2022年4月に川崎市が「等々力緑地再編整備・運営に関する事業者」を公募し、11月に東急を代表企業とするコンソーシアムが落札した。2023年に「川崎とどろきパーク株式会社」が設立され、3月31日に川崎市との間でPFI方式による再整備・運営などの契約が結ばれた。2023年から2053年までの30年間「川崎とどろきパーク株式会社」が等々力緑地を再整備・運営し、川崎市はその費用として633億円支払う契約だった。

 ところが契約後、物価高や建設費高騰に見舞われたとして、2024年末には事業費が633億円から1140億円に500億円以上も増額された。議会では事業増額の内訳が求められたが、事業費の詳細については「守秘義務」の契約があって「議会でも公表できない」ということだった。工事費の増加には歯止めがかからず、2025年末には更に100億円ほど事業費が増大し、当初の倍近い1232億円となった。川崎市によるとこの金額は昨今の中東情勢の悪化による物価や建設費の高騰を含んでいないとのことで、今後更なる増額が見込まれるとのことだ。

「市民も物価高で苦しいというのに、詳しい内訳も示さず、次々と多額の税金をPFI事業に投入する川崎市に対しては強い憤りを感じます」と吉田さんは言う。

 確かに、税金を使われる市民にとってはたまったものではないだろう。しかし、PFI事業者としてみれば、こんなおいしい仕組みはない。一度契約を結んでしまえば、あとは内訳を示す必要もなく、事業費をどんどん増額していけるのだ。しかも等々力緑地の再整備工事を請け負っているのは、東急建設や大成建設、フジタといった「川崎とどろきパーク」を構成するゼネコン企業だ。彼らとしてみれば、事業費(多くが建設工事費)が増えれば増えるほど、自社の売上が増加する……。

 等々力緑地のとどろきアリーナに隣接する四季園という庭園の木々が、すでに伐採されてしまったというので見に行った。

 歩いていくと巨大な建物を解体している現場が見えてきた。1988年に戦後日本を代表する建築界の巨匠・菊竹清訓の設計によって建設された川崎市民ミュージアムだ。2019年の台風19号によって地下収蔵庫が水没し、収蔵品に大きな被害が出たため閉館に追い込まれた。しかし、市民ミュージアムの横にある、1995年にできたとどろきアリーナまで今回の再整備では取り壊して、建て替えてしまうという。こちらはまだ築30年ほどで台風の被害もなく、耐震性にも問題がない。

 私が行ったときには、300本以上あったという四季園の木々は大半が伐採され、道路沿いに1列を残すのみとなっていた。

解体された四季園は環境アセスメントでは「可能な限り保全する」とされていた(写真:等々力緑地の緑を守る会)

 工事を担当する大成建設によると、四季園の木々は機材置き場として使うため、伐採したという。しかし、川崎市の環境影響評価書を読むと、「可能な限り現位置で保全する」と書いてある。いつ四季園の木々を全てなくすと変わったのか? 川崎市から市民へ何の説明もないという。

 温浴施設ができるという場所も見にいった。大きな木が生い茂り、遊具が置かれた公園があった。ここに巨大なスーパー銭湯などの商業施設が建てられるという。その後ろには駐車場ができる。「等々力緑地を守る会」のもう一人の共同代表の橋本稔さんは嘆く。「ここには火に強いイチョウなどがたくさん植わっています。それもPFI事業者は伐採するというのです。住宅地のすぐ傍にある等々力緑地は、災害時の避難場所になっています。防災林の役割は大切です。この計画では地域の防災のことも考えられていません」

 そもそも、こうした温浴施設などの商業施設は、当初の案にはなかったものだったという。2つの再整備計画案を見せてくれた。1つは2022年に川崎市が市民意見を取りまとめて出したもので、もう1つは2023年にPFI事業者のとどろきパークが出したものだ。

 2022年に市民意見を取りまとめて川崎市が発表した再整備計画は、近隣住民も納得がいくものだった。しかしその翌年、PFI事業者が出してきた計画案を見て、住民たちは仰天した。「自由提案施設」という商業施設が数多く立ち並び、駐車場ができ、当初のプランとは別物に変わっていた。

 この計画では多くの樹木が失われてしまうと危機感を覚えた住民たちは、独自に樹木の調査を行い、850本以上が伐採される恐れがあるということを突き止め(環境影響評価で990本の木が伐採されることが明らかになるのはその後)、川崎市に対して何度も陳情を出した。しかし、いくら緑地を守って欲しいと市民が訴えても川崎市は聞いてくれなかった。それどころか川崎市は昨年には、等々力緑地の都市計画の用途を「緑地」から「公園」へと変更して、建蔽率や容積率を大幅に緩和した。これによって大規模な商業施設が、特例を認める条例を議会で審議することなく、建設することが可能となった。

「私たちは等々力緑地の再整備には反対ではないのです」と橋本さんは話す。「私たちはこれまで通り、都会に残るわずかな緑を残して欲しいのです。川崎市はタワマンなどができたことで人口も増え、税収も増えています。それなのに、緑地を売ってまでして稼ぐ必要があるでしょうか? 人口密集の街だからこそ、緑地はかけがえのない市民の憩いの場として守って欲しいと思います」

緑地を潰して「稼ぐ公園」に変貌する等々力緑地(写真:等々力緑地の緑を守る会)
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 第5回

プロフィール

大澤暁

(おおさわ さとる)

テレビ東京で「WBS(ワールド・ビジネス・サテライト)」など報道番組の記者・ディレクターを担当。現在はジャーナリストとして活動。明治神宮外苑の再開発に近隣住民として反対し、新宿区に対する樹木伐採許可取り下げ訴訟の原告団長を務める。X(旧Twitter)フォロワー3.9万人「ミド建築・都市観測所」(https://x.com/Mid_observatory)を運営。早稲田大学第二文学部卒、京都大学公共政策大学院卒。1983年生まれ。

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