市民の力でPFI事業による樹木伐採を止めた静岡・城北公園
日本においてPFIは1999年に法制化された。2017年には公園でのPFI導入を促進するために、国は「Park-PFI」という公園に特化したPFI制度も設けた。これによって自治体が民間事業者と管理契約を結べる期間が10年から20年に伸び、建蔽率の上限も2%から12%に緩和され、公園でPFIを行いやすくなった。すでに全国200ヵ所以上の公園がPark-PFIで「稼ぐ公園」となっている(2026年3月時点、国土交通省調べ)。
しかし公園の建蔽率を緩和するということは、公園で建てられる建物の面積を増やすということである。当然それによって公園の木を伐り緑地を潰して建物が建てられる。
神奈川県・平塚市の「湘南海岸公園」はPark-PFIによって、商業施設や駐車場を建設するために約1.6ヘクタールを開発し、平塚海岸の樹林帯が失われた。また、積水ハウスなどのPFI事業者側の負担が1億4000万円であるのに対し、平塚市の負担は16億2000万円にのぼるなど、公費負担の大きさも指摘され、後述するように住民訴訟が起きている。
名古屋市の「久屋大通
公園」は日本最大級のPark-PFIとして、三井不動産を代表企業とする事業者によって再整備され、2020年にリニューアルオープンした。これによってPark-PFIの対象エリアにあった約600本の高木のうち3分の2にあたる約400本が伐採され、飲食や物販などの約35店舗が出店するショッピングモールが築かれた。大通り沿いにあったケヤキ並木が伐採されることに対しては、地元でも大きな反対運動が起きた。

こうしたなか、市民の力でPFIによる公園の樹木伐採を止めた事例も出てきた。静岡市の中心部に位置する「城北公園」では、2021年にPark-PFIを用いて民間事業者(代表企業:フジ都市開発)と基本協定を締結し、公園内に230㎡のドライブスルーのスターバックス・コーヒーの店舗と230㎡の有料の子ども施設、駐車場が建設されることになった。
この計画は基本協定が結ばれるまで、住民にほとんど知らされていなかった。城北公園の近隣に住む高木敦子さんは計画を知って驚愕した。樹木の伐採についても2~3本伐られるだけという説明だったが、計画図を見ると明らかに2~3本だけではすまされなかった。現場で実測してみると100本以上の木が伐られる可能性があることがわかった。
高木さんはこう振り返る。「Park-PFI事業者公募の委員をやっていた連合自治会長さんのところに行くと、『木はそんなに切らないよ、でも駐車場を70台ドーンって作ってくれる良い計画だよ』と言っていました。ですので、まずどういう計画なのかを実地検証しようっていうのをやったんですね。マスコミも呼んで、『多くの木が伐られるけど、これでいい?』と問いかけたら、みんな、『え?』となって」

これを機に、マスコミは計画に懐疑的な報道を行うようになり、風向きが変わってきた。静岡市も工事の着工を遅らせることを決めた。
そもそも「城北公園」は都市公園の中でも、主として徒歩圏内に居住する人の利用を目的とする「地区公園」だった。なぜその「地区公園」に、車に乗って来る人が利用するであろうドライブスルーのカフェや駐車場が必要となるのか、という根本的な疑問点があった。
また、高木さんたち近隣住民は、スターバックスに宛てて手紙も書いた。米国法人と日本法人のCEOに想いを込めた文章を送った。
「貴社はステークホルダーからの意見を重視されているとおっしゃっていますので、私たちの懸念をこの手紙に記すことにしました。この計画を直ちに取りやめていただくよう要請いたします。
同封の写真からもお分かりいただける通り、城北公園には幹まわりが2m近くの大木や、富士山を望む壮大な景色を含む美しい緑地が広がっています。しかし、この計画では、2つの新しい駐車場とドライブスルー型スターバックス店舗の建設用地を確保するために、これらの樹木や周辺の緑地の多くが破壊されることになります(※抜粋、原文英語)」

この住民からの手紙に対して、スターバックスは返信を送った。「貴重な意見を頂戴し、心より感謝します」と書かれていた。そして、手紙を送った数カ月後、スターバックスは城北公園のPark-PFI事業への参加を取りやめることを発表した。「スターバックスが目指している地域社会の一員として、地域に貢献できる存在となり、地域や周辺住民の方々をつなぐ場としての役割を果たせないと判断し、参加辞退を申し入れいたしました」とスターバックス・ジャパンは声明を出した。そして、当初のPark-PFI案はストップした。
高木さんと同じく城北公園の近隣に暮らす大学教員のピーター・ハーディケンさんは、住民説明会での住民と市役所の担当者とのやりとりが印象に残っているという。
「ある住民が『Park-PFIのPとは何の略なのか?』と聞くと市役所の担当者は答えられませんでした。Pとは「プライベート=私的」のPです」

その上でハーディケンさんはPark-PFIという言葉は大きな矛盾をはらんでいると指摘する。「Park=公園の「公」は「公共」を意味するのに対し、PFIの「P」は「私的」を意味します。公共のために開放され、自由に利用できるはずの空間が、公共の利益よりも自社の繁栄を優先しなければならない民間企業の利益と、どのように共存できるのでしょうか?」
多くの都市で人口減少が進む中、公園や施設の維持管理コストを削減しようと、規制を緩和して民間企業にPFIで整備や運営を任せることは、理にかなっているように見えるかもしれない。
しかし、PFIという仕組みが生まれたイギリス(マーガレット・サッチャー氏の後を継いだジョン・メージャー政権下で1992年に生まれた)では、「多くのPFIプロジェクトは、通常の公共入札のプロジェクトより40%割高になる」として2018年にPFIを今後行わない宣言がなされた。25年間にわたり多くのPFI事業を行ってきたイギリスで、それらの事業を検証した結果、「公共の財政に恩恵をもたらすというデータは不足している」と結論づけられたのだ。こうした結果を踏まえ、世界の都市ではPFI事業を見直し、民間企業に任せていた事業を「再公営化」する動きも広がっている。
日本でも、先に挙げた平塚市のPark-PFIでは、市が9割を負担して公園に整備した商業施設に入るコンビニエンスストアで、PFI事業者はコンビニ業者から月約84万円の賃料を得る一方、PFI事業者から平塚市へは月に約20万円の使用料しか支払われないため、市がコンビニ業者に直接貸した方が利益が大きいとして、住民訴訟が起きている。原告となった市議会議員は「海岸林を伐採して自然を破壊するだけでなく、税金を投入して民間事業者を利する計画としか思えない」と述べている(朝日新聞2024年12月17日)。

都市の樹木と建築の関係について詳しい建築家で大同大学教授の武藤隆氏は次のように指摘する。「PFI では行政側が仕様書をきちんと作って、こういうことをしてほしいとか、こういうことはするなという条件をちゃんと固めて、その上で事業化を依頼していかなければなりません。例えば緑の量は現状の70%以下に絶対してはならないとか、木を伐ってもいいけど、新しく植えるとか。AIと似ていて、そういう指示がしっかりとされていれば、PFIでも良い環境はつくれるかもしれません。今、多くの自治体はPFI事業者に丸投げしているので、良い環境ができていかないのでしょう」
PFIとは諸刃の剣のようなものだ。使い方を間違えば、地域に大きな損失を与える。そのため行政にはしっかりした理想図を描き、そこへ導くための強いリーダーシップが求められる。しかし、現状維持を良しとする日本の役所や政治家にそれができるのだろうか……。企業から言われるがままに公園や緑地を売り渡し続ければ、数十年後には一部の企業だけが儲かって、地域は丸裸にされて、もはや売るものがない、ということも起きかねない。
PFIが日本で法制化され25年以上が経ち、Park-PFIができて10年が経とうとしている今、この制度が市民にとって
本当に良いものになっているか、再検討する必要があるのではないだろうか。
プロフィール

(おおさわ さとる)
テレビ東京で「WBS(ワールド・ビジネス・サテライト)」など報道番組の記者・ディレクターを担当。現在はジャーナリストとして活動。明治神宮外苑の再開発に近隣住民として反対し、新宿区に対する樹木伐採許可取り下げ訴訟の原告団長を務める。X(旧Twitter)フォロワー3.9万人「ミド建築・都市観測所」(https://x.com/Mid_observatory)を運営。早稲田大学第二文学部卒、京都大学公共政策大学院卒。1983年生まれ。
大澤暁





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